P.06 変~身っ!

 お盆が過ぎ、夏休みも残り僅か。空港の到着ロビーで雪ちゃんを待っていた。

 スーツケースを押しながら、色とりどりの旅行者が到着口から溢れ出る。

 まだかな、まだかな、ボクは顔を巡らせる。

「コウジくん」

 雪ちゃんらしき声に呼ばれて振り向くと、小柄ながらダイナミックな曲線美のがこちらを見ている。

 ゴクリ。喉が鳴る。ああいうのをダイナマイト・ボディって言うんだろうな、などと思いつつ雪ちゃんを探す。と──

 ダイナマイトは近づいて、間違いなくボクに言った。「ただいま」

 えっ?

 くびれたウエスト。それがすべてだ。別人のような雪ちゃんが、そこに立っていた。

 髪は切り落としてボーイッシュなショート。パールピンクのルージュがきらりと光る。薄桃色のキャミソールにネイビーのジャケットを重ね、腰にデニムスカートがフィットしている。アゴを引いても、やさしげな二重を作ることはない。

 くびれにより誇張されたバストとヒップのダイナマイト──

 脳を爆破され、ふらついた。

 通り過ぎるブロンドのお兄さんが、彼女を見て口笛を鳴らす。

「……ど、どうしたの?」それがお出迎えの言葉になった。

「伯母さん、むこうで自然療法のサロンやってるって言ったでしょ。ハーブダイエット、思いきって挑戦しちゃった」

 そうだ。そういえば、東洋の漢方と西洋のハーブ療法を融合させたとかいうハナシだった。それにしても──

「たった三週間で……」

「人は変われるの」雪ちゃんは、学校でいま流行はやりのフレーズを、さらりと口にした。


     *


 雪ちゃんが補習授業に登校すると、無言の驚愕が校内をはしった。男子も女子も盗むように雪ちゃんを見る。

 妙なホメ方をしたら、それまでの彼女に失礼にあたる。それに、おそらく「痩せたね」とか「キレイになったね」とかいう次元の変化ではないのだ。言葉を失った、というのが正しいのかもしれない。

 人は変われる──くだんの先生は、補習授業で雪ちゃんを見て、もう一度同じ言葉を呟くことになった。

「おい!」辰則がボクの腕を乱暴に掴む。「オマエ、この度の件を予期してアマユキとつき合ったのか? だとすれば、オマエはとんでもなく徳川 家康だ」

「バカ言うな」ボクは憮然と手を払う。「どう変わったって雪ちゃんは雪ちゃんだろ」

「顔は元々カワイかった。認める。そこへロケットおっぱい。くっそう、ロリ系爆乳アイドルじゃねえか。あ~、大化けしやがった。ストップ高だよ」

「オマエ、株やるの?」

「母ちゃんがやってる。ニーサ」

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