大罪少女七
奇想しらす
第一話 邂逅
「お前、名前は?」
時は二時間ほど遡る。
学ランを着こなす青年、
良太は子供を抱き上げ、家に向かった。
そして現在。
――まずはお風呂だよな。
良太は子供の汚れた手や服を見る。
「ほら起きて」
良太は子供の体を揺さぶる。
「んん……」
「行くぞ……よいっしょ」
子供を脱衣室に連れていき、脱がそうとした時、子供の服からピロピロと出ている紙が良太の目に留まった。
「なんだぁ? これ」
紙は付箋のように服から取れた。
紙には筆でなにか書いてある様だったが、良太には見当もつかなかった。
――汚い汚い。
良太は紙を放り投げ、服を脱ぐ。
「手挙げろ」
「ん……」
「よし、そのままそのまま」
良太は子供のTシャツを脱がす。
次に良太は子供のズボンを脱がした。
「え……」
そこで気付いた良太は気付く、子供の性別に。
パンツの形がどう見ても自分が知っているパンツではない。
「ウワァァ!」
――え、女? マジかよ。
良太は生まれてこの方、女子との交友が少ない。
良太はギュッと目を瞑り、少女のパンツに指を掛ける。
「ん!」
良太は意を決して目を開き、少女を抱き上げ、浴室に入る。
少しでも少女の体を見ないように少女の背後に立つ。
――かなり汚れてんなぁ、真っ黒じゃん。
良太が蛇口を捻ると、シャワーヘッドから水が勢いよく噴き出す。
良太は水が温水になったのを指で確認すると、シャワーを持ち上げ、少女にかけた。
「なになになに!」
少女は驚いて、シャワーから逃げようとする。
「わわ、逃げるな」
良太は立ち上がり、少女の前に立った。
「よーし、これで……」
「なんで裸なの……って」
少女も男との交友が少なかったようで、良太の裸を前に頭から後ろに倒れる。
「あぶねぇ!」
良太は少女の頭を手で守り、フゥーと息を吐いた。
――気ぃ失ってるみてぇだな。
「この間に」
数十分後。
良太は4時限目が終わり、昼休みが始まった時の様に大きく伸びをした。
少女に服を着せ、ソファの上に寝かせて覚醒を待っていた。
――これ児童ポルノとかに引っ掛かんのかな。
良太は自分が警察に捕まった時の事を想像し肩が震えた。
「ん、んん」
少女の声に気付き、良太はソファの方に目をやった。
「お、起きたか」
「ここは?」
「俺ん家、それよりも服は大丈夫か?」
少女は下に目線を移し、フリフリと体を動かしてみる。
「乳首が擦れて痛いぞ、デカ男」
「乳首とか言うなよ、あと俺は罪前寺良太だ」
「私は七だ」
良太は首を傾げ、聞き返した。
「苗字は?」
「ない」
「まさかジ●リの映画みたいに名前とられた?」
「なんだそれは」
「えっと……」
良太はここまでの会話で七の情報を整理する。
まず、ある程度の言葉が使える事、これはかなり有力だ、言葉が使えるということは誰かが教えた、つまり育て親、それも日本人。
これで約80億分の1から約1億分の1にまで絞ることが出来る。
それに……と良太が考えている時、電話が鳴った。
――なんだよ。
良太は眉間に皺を寄せながら、ドアの側に置かれた受話器を取り、電話に出る。
「はい、もしもし?」
「良太くん、僕、
「ガク、どうした、もう7時だぞ」
「やばいんだ、いま君の仲間が喧嘩しよう」
「どこだ、場所は!」
「近所の廃工場」
「サンキュー、俺ん家ドア開けとく留守番頼む。あと女居っけど気にすんな」
「う、うん」
受話器を置き、良太は学ランという名の正装に着替える。
「少し出るが、変な事すんなよ、あと冷凍庫に飯あるからそれ食えよ」
良太はバンッと強くドアを閉め、廃工場に向かっていく。
「私を1人にするとは、あの男、なかなか肝が座っている」
七はソファから降り、部屋を見回す。
前には壁掛けテレビ、さっきまで良太が居た方に行くと、家電が置かれていた。
「これが冷凍庫、2つあるが、どこだ?」
冷蔵庫のドアを開けたり閉めたりして、飽きると、ソファに座り、良太の帰りを待つことにした。
「そういえば」
と思い出したように七はTシャツを捲り、自分のお腹を見た。
「!」
七の瞳孔がカッと開き、体中から汗が噴き出る。
「こんばんはー、良太の友人の学です」
七は学の股を潜り、外に出る。
「あれ、あ! 君!」
学は七を追いかけて外に出た。
――まずい!
「あと何人だオイ」
良太の足下には青アザだらけの男達が倒れている。
「ヒィ」
――明野の野郎か、あの雑魚が。
「言えよ、あと……何人だぁ!」
――ここいらで一発カマしとくか。
「えっえと」
「
良太は右肩をグルングルンと回し、相手に近づいていく。
「悪かったです」
「なにが?」
「喧嘩売って、悪かったよォ、だから許してくれよおおお!」
「おいおいもう喧嘩はお前らの物じゃねぇ俺のだ、買ったものをどうするかは俺が決める」
深呼吸が廃工場に反響する。
「ドケ」
暗闇で全体は見えないが、がっしりとした肉付きがこの男の強さを物語っている。
「行くぞ」
良太の拳が勢いよく男の鳩尾に入る。
「?」
――この手応え、効いてないな。
「ドケ」
「ガフッッッッ!」
「良太サンなにやってんスか」
「すげええええ! 明野の兄貴ッッ!」
周囲から見れば、相手の明野が右足を上げただけに見える、良太もそう見て警戒を解いてしまった。
「ガッハァハァ、オエッゲホ」
――気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。
胃の中身が逆流してくる。
――なんでだ?
「あ゛あ゛っ!」
グルグル痛む腹を抑えながら良太は立ち上がる。
――こらしめる、一発カマす、違う。
「殺す」
良太の身体が紫色の光に包まれた。
天まで届くほど伸びた7本の光の柱が良太を照らす。
――なんだこれ、良いか別に、殺せりゃあ。
良太は光を一瞥すると明野の方に視線を戻す。
「ドケ」
「ロボットかよ」
良太は明野の足を蹴った。
すると明野がルーレットのように宙で回転する。
――狙うは頭。
だが、良太よりも遥かに背が高い。
ではどうするか。
良太は力強く地面を踏んづけた。
廃工場が大きく揺れる。
「地震です地震です」「地震です地震です」
「地震です地震です」「地震です地震です」
その場に居る全員のスマホから地震を告げるアラートが鳴る。
「俺達帰るんで……!」
「死にたくねぇよおおおおお」
周りの不良たちは尻尾を巻いて逃げていく。
「これでいい」
良太が踏んづけた所からヒビが入り、穴が出来た。
ちょうど、明野のぐらいの。
明野は足から綺麗にその穴に落ちた。
サッカーボールぐらいの丸い太った明野の頭が良太の足下にある。
サッカーの起源の一説に8世紀頃のイングランドで敵軍の将軍の首を切り取って蹴りあったというものがあることを良太は思い出した。
ならばやることは1つ。
ゴルフの様に、サッカーの様に、卓球の様に、バレーの様に、野球の様に、テニスの様に、明野の頭を飛ばす事。
良太は大きく振りかぶり。
「そこまでだ!」
いま振り下ろされようとする足がピタッと止まる。
「あ゛?」
「ごめん、この子が止まんなくて」
学は膝に手を置き、肩で息をしながら話す。
「学……七……」
「良太、お前は今、堕ちかけている」
「なんだと……?」
「その紫色の光は『墮光』、堕天使が纏うとされる悪しき光だ」
「だからなんだってんだ。なんだってんだ」
「そのままではお前の足下にいる者と同じになってしまう」
「あいつと一緒なんだよ! 嫌だよね、ねえ!」
学は明野を指差し必死に説得する。
「ああ」
良太は一瞬明野を見て、答える。
「その光にはもう1段階ある、お前ならまだ戻れる」
「! どうしたらいい」
「今からその光を『裏返す』」
七は良太に歩み寄りながら、説明する。
「『墮光』はマイナス、それをプラスの『昇光』へと変える」
七は良太の前に立つ。
「屈め」
良太は目線を七と同じになるまで下げた。
「良太、烏滸がましくてすまないが頼みを、聞いてくれ」
「なんだ?」
「罪を祓ってくれ」
「!」
「我が身に封じられていた『七つの大罪』はこの町で目覚めようとしている、だから――」
「分かった」
良太は説明を聞かず、力強く言った。
――俺だって。
良太の脳裏に映るのは兄の背中。
「俺の兄貴はなぁ……真っ直ぐで、力が強かった。常に前を向いてて、カッコよかった。なんでカッコよかったのか分からねぇけど、俺もああなりてぇ、だから――祓ってやるよ! その罪ってヤツを!」
「では、行くぞ」
七は細い右手を前に出す。
「手には金、得るか失うかの別れ道。身体に銀、不死から死へと進化する。目には銅、宙を照らし目を奪う。
良太から発している光は神々しい黄色に色を変えた。
「もういいかな」
その声で廃工場が崩壊を始める。
緑眼を輝かせ、明野の中から禍々しい小柄の男が顕れた。
「学、そこで見てろ。七、次はどうすんだ」
「イメージしろ、自分の力を」
――力……兄貴……。
光は糸のような形を作り、良太の右腕に巻きつく。
「その光、同類だと思ってたのに……仕方ない」
男はどす黒い『墮光』を放つ。
「怠惰の悪魔よ、主に伝えるが良い」
「出来たぜ」
良太の右腕はロボットの様なメカニカルに姿を変えていた。
「古来より拳は喧嘩などの象徴とされている」
「鉄拳ってやつだ」
良太は拳を構え、『昇光』を放つ。
それもただ放つだけではない、力が伝わるよう、向きを調整して。
それを悪魔はゾクッと汗が噴き出し、応戦ではなく、防戦に備え始めた。
「我が主よ、無限に等しきその
悪魔の前に緑色の肌を持った手が顕れる。
「彼の者、拳で喧騒を生み。彼の者、拳で喧騒を殺す」
良太は『昇光』を噴射し、距離を詰める。
「彼の者『壮腕の闢者』と人は呼ぶ」
良太の拳が放たれる。
眼前に開かれた手を破り、その勢いで、悪魔の顔目掛けて振り切った。
「あり得ない、我が主の力が破られるなど」
悪魔は光に包まれ、塵と化した。
「学、また明日な」
「え?」
「こんな時間までいてくれてサンキューな」
「当然だよ、幼馴染みじゃないか」
「ははっ、変わらねぇなあ、オメェは」
「良太、帰るぞ」
「ああ」
良太が帰ろうと、歩きだした、その時。
「「!」」
7つの強い光が町を照らした。
「『墮光』……」
「それにこの強さ――『七つの大罪』」
「思ったよりも時間は無いみたいだな」
「急ぐぞ、奴らが完全に顕現するまでにお前を鍛える」
「ああ、頼むぜ、七!」
「こちら鎮圧完了!」
「了解、基地に戻り指示を待て」
鋭い目付きの女性はビルの屋上から隊員に指示を出す。
――これが彼女が背負った罪。
「現在、日本各地の隊長に救援を要請しています」
「了解、目標を大罪少女七の
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