第2話

   

 ……と、これまでの経緯を頭の中で振り返るのは、一種の現実逃避なのだろうか。

 頭に浮かんできた全てを振り払うかのように、私は首を横に振る。気持ちを切り替える意味で引っ越してきたのだから、もう「これまでの経緯」なんて、きっぱり忘れるべきなのだ。


「ふう……」

 ため息みたいな、意味のない言葉を吐き出しながら。

 私は改めて、目の前の現実に目を向ける。

 越してきたばかりの部屋には、備え付けのベッドとテーブルのみ。引越荷物は全て、まだ段ボール箱に梱包されたままだった。

 二段重ねで積まれているのは、厳密な立方体ではないけれど、かなりそれに近い形状の箱。全体としては白色で、引越業者のマークなどが水色で印字されていた。


「まずは、これを片付けないとね……」

 自分に言い聞かせるような独り言。

 同時に、ひとつめの箱に手を伸ばす。

 しかしその瞬間、私は大きな違和感をいだいた。

「あれ? 数が合わない……?」

 パッと見ただけでわかる。そこにあるのは偶数ではなく、奇数個の箱だった。

 しかし……。

 私の引越し荷物は、全部で10箱のはず!


 確認の意味で、積み重なった箱の周りをぐるりと歩いて、きちんと数えてみる。

 下の段は、前も後ろも3箱ずつの2列だから、全部で6箱。その上に、3箱と2箱の合計5箱。

 両方合わせると11箱、つまり私が荷物を詰めた箱より、ひとつ数が多くなっていたのだ。


「えっ? どういうこと……?」

 もしかすると、これも「思い込み」の一種なのだろうか。途中でひとつ増えたのを忘れて「10箱だった」と思い込んで……。

「いいえ、そんなはずないわ」

 と口に出しながら、ぶんぶん首を振る。

 10箱にまとめたのは、引越業者からもらった段ボール箱がその数だったからだ。それ以上の段ボール箱は無料サービスでなく有料、つまり追加料金が発生してしまうわけで、そんな状況になっていたら、さすがに忘れるはずもないだろう。

「うん、だから10箱なのは間違いない……」

 そう呟きながら、ひとつひとつ箱を確認してみる。


 まだ開封せず、外から見るだけでも、かなりのことがわかった。

 どの箱にも同じ貼り紙があり、それは行先表示のふだだった。業者の方で書いたのだろう、私の名前が記載されていた。

 つまり、他へ運ぶ荷物が紛れ込んだのではなく、どれも最初から私の引越荷物と想定されていたことになる。

 しかし……。

   

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