ゲーム・オブ・レガリア 王宮サバイバル神話ハックアンドスラッシュ
所羅門ヒトリモン
Game 001「朽ち果てた怪人砦」
美少女がゴブリンに襲われていた。
「あっ、きゃっ……いやぁ!」
「シュアッ、セイシュアッ!」
「すぐ助けるよ! この、やめ──あっ、うわぁぁぁ!」
美少年も襲われた。
お手本のような薄い本展開だった。
だが、エッチなことをされているワケじゃない。
ゴブリンは血錆に汚れた鉈のような刃物を持っていて、見目麗しい少年少女たちは、別に艶めいた悲鳴をあげているとかではなく、割とガチめに切羽詰まった悲鳴をあげている。
「シュヴァシュウア! シャアヴッ!」
「ヒッ……!」
「っ! い、いやだ、レイゴン! レイゴン!」
鍔迫り合いを演じたのも束の間。
少女を守るため、勇敢にも剣を抜いた少年だったが、間近に迫ったのは狂気に
それも、恐らくは歴戦。
全身から血に塗れ、それでもなお爛々と光る戦士の眼光。
少年はあっという間に気圧されて、数瞬の内に腰が引けてしまっていた。
敵は矮躯。
身長は目視で、恐らく150センチ程度。
しかし、体つきは筋肉質で、対する少年は線が細い。
背にした少女を庇うため、何とか踏みとどまっているが、恐怖心から息も乱れ始め、そう長くは保たないコトがすぐに察せられた。
一方で、ゴブリンは息も切らさず──否、息も忘れた様子で鉈を振りかざして来る。
「シャアァァァッ!!」
「!? は、はやくっ! はやく助けてレイゴン!」
「うぅぅぅぅっ──!」
少女は泣き、少年は助けを求め、ゴブリンは殺意を剥き出しにし口から唾を飛ばす。
名前を呼ばれた俺は、慎重にその背後に迫り、ゴブリンを背中から静かに刺した。
「──シ、ァ……?」
狂乱に猛っていたゴブリンは、直後、吹き出物だらけの長鼻を微かに俺の方へ向け、黄ばんでいて、ヨダレまみれの乱杙歯の隙間から、ゴポリとゆっくり血塊を吐き出した。
だが、
ゴブリンは自分を殺した犯人の正体を知るコトなく、無念にも地面に倒れ伏す。
「はぁ、はぁ、はぁ……ん、んんっ、助かった……」
「うわぁぁん! 怖かったですわベルーガ様ぁ!」
「う、うん。僕も怖かった。けど、もう大丈夫だよ、ガブリエラ」
嗚咽を漏らす少女を、少年は背中をさすって宥める。
俺は引き続き周囲の警戒を続けながら、隠形を解いた。
姿を現した俺に、少年と少女は一瞬ビクリと体を震わせる。
だが、すぐに安心した顔でホッと胸を撫で下ろした。
この子たちとって、俺はこの場所で半ば生命線のような位置付けになっている。きっとそれゆえの安堵だろう。
けれども、
「今回は運が良かったですね。あれくらいのゴブリンなら、今後も同じ作戦でやっていけそうです」
「うぅぅ、わたくしはまだしも、恐れ多くもベルーガ様まで囮にするなんて……!」
「仕方ないよ、ガブリエラ。ここではこうするしかない。レイゴンのやり方は合ってる」
「で、でもっ、王族をあんなに命の危険に追いやるなんて、絶対にいいはずありませんわ! 生きて帰ったら、絶対にお父様に言いつけてやるんですから……!」
キッ! と。
ガブリエラと呼ばれたお嬢様口調の少女が、こちらを恨みの籠った眼差しで強く睨む。
緩く巻かれた縦ロールの金髪、緑色の瞳。
ウェスタルシア王国、ゴールデンハインド家のご令嬢は、さすがに気が強いらしかった。
もっとも、あいにくとまだ涙目であったため、まったく怖くなどなかったが、ゴールデンハインド家は王国でも指折りの名家であるため、これは後で機嫌を取っておく必要があるかもしれない。
(まあ、機嫌を取ったところで、やり方は変えるつもりないから、どのみち意味は無いんだろうけど……)
苦笑して頬を掻いている白髪の少年。
ウェスタルシア王国のプリンス。
ベルセリオン王家の第三王子ともども、三人揃って生きて
眼差しによる抗議は屹然と跳ね返し、剣を鞘にしまった。
「ではそろそろ、次の
「ん。そうだね……」
「罠の多い
「うぅぅ、どうしてこんなコトに……」
嘆くガブリエラの声にベルーガと俺は口をつぐみ、どちらからともなく足を動かし始める。
どうして?
どうしてこんなコトに?
その問いの答えを、俺たちはもちろん知っている。
ガブリエラが巻き込まれたのは、恐らく向こうにとっても完全な想定外だろうが、話は結局どこまで行っても単純だ。
(要するに──〝
ウェスタルシア王国の玉座を求め行われる陰謀劇。
第三王子ベルーガ・ベルセリオンを、亡き者にしようとして企まれた、これは不忠と裏切りの唾棄すべき物語である。
(そして、そんな物語に何故か巻き込まれつつあるのが、一般転生者レイゴンこと俺)
普段はファンタジーヰ世界を謳歌しようと、趣味に走ってハックアンドスラッシュなどしているのだが、今ではこうして二人の貴人を守るガイド兼ガード役みたいになっている。
死と呪いに満ち溢れた神話世界『ロスランカリーヴァ』
帰還のための
先ほどは運良くゴブリンを始末できたが、油断はできない。
現状を分かりやすく説明すると、俺たちは某死にゲーみたいな場所で絶賛遭難中だからだ。
なお、死にゲーと違って死んでも復活はできない。
ふふふ。ずいぶん楽しくなってきた話だよな?
俺たちの年齢は、十四。
そう。子どもではないが、大人でもない過渡期。
第二次性徴を迎えている真っ只中。
しかしながら残念なことに、三人とも体格には優れていない。
内一名は婦女子だし、プリンス・ベルーガに至ってはさっきの一幕を見ていれば分かるように、本当に男なのか疑いたくなるほど非力で華奢だ。
では俺はどうなのかというと……それもちょっと込み入っていて、切った張ったが得意とは正直言い切れない。
(普通なら、こんな地獄みたいな人外魔境に放り込まれた時点で、三人ともジ・エンド。死は遠からず約束された未来だろうな)
ところが、だ。
幸か不幸か、俺の指には三つの指輪。
赤ん坊の頃に妖精に攫われて、帰ってきた時には
文字通り
いや、この場合は埋め込まれていると言った方が、より適切か。
(なんにせよ……)
妖精の指輪。
特別なチカラを秘めた不思議アイテム。
まるでロード・オブ・ザ・●ングそのものだが、三つの内の一つの名前は奇しくも〈姿隠し〉
これは所有者の姿を不可視に変えて、気配をも消し、周囲に認識阻害をもたらす素晴らしい優れもの。
映画と違って、デメリットは特に存在しない。
そんなような物を持っているから、俺たちは上手いこと作戦を練って、生存のための行動に移れていた。
現在位置は通称、〈朽ち果てた怪人砦〉
石の城砦は薄暗く、廊下に灯る点々としたヒカリ苔の明かりが無ければ、視界は見渡せない。
湿った空気と饐えた
天井や壁、足元にはゴキブリやムカデなどの虫どもがカサカサと蠢き、蜘蛛の巣糸やネズミの糞などが不快感を醸造する。
しかし、何より神経を擦り減らすのは、ところどころに転がる獣骨とも人骨とも取れない死体の存在だろう。
中には罠にかかって、そのまま〝染み〟となったと思しいホトケもあった。
「朽ち果てた、と前置きが付くだけあって……」
「ええ。生きた敵の数が少ないのは、喜ぶべきなんでしょう」
「わたくしは、ちっとも喜ぶ気になんかなれませんけど」
喋ったその時、何処かから唐突に、ガコン! と何かが作動する音が響いた。
思わず三人ともに立ち止まり、顔を見合わせ耳を澄ませる。
ゴロ、ゴロゴロ、ゴロゴロゴロ……!
音は次第に大きくなって、後ろから近づいて来る。
頬を引き攣らせたのは、ガブリエラが最初だった。
「な、なんだかとても、イヤな予感がしますわっ」
「僕もこの展開は、非常にマズイ気がする!」
「──ヤバい。これ、『ローリング・ストーン』だッ!!」
走れ! クソみたいな悪意に追いつかれる前に!
言うのと同時、俺たちは全力でダッシュを開始した。
この世界は海外系古典風ファンタジー。
チートの類いが丸っきり無いワケではないが、基本は
でもだからこそ、〝剣と魔法〟で己が価値を掴み取る。
そういう醍醐味も、あるっちゃあるんだよな。
(まぁ負けたらその分、かなり悲惨なんだけど……!)
だからこそ、勝ちに征くんだ。
対戦よろしくヰ世界。
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