異世界06.爆速で銃弾飛び交う戦場を制圧する【弾数無制限】女子高生
雨が、とめどなく降り続いていた。
空気は冷え、地面は
少女は、裸足のまま、必死に走っていた。小さな弟の手を引いて。
街中で、銃撃音が鳴り響いていた。
突如現れた武装集団が、街の人間を次々と射殺していた。
少女は狭い路地をすり抜けるように駆けていた。遊び慣れた道が文字通りの生命線になっていた。街を出られるまで、あと少しだ。きっと、はぐれた親が待っているはずだ。
角を曲がる。そこで足が止まる。男が、立っていた。自動小銃を携えた男が。
男は、2人を見て、下卑た笑みを浮かべた。
「見ぃつけた」
男は、銃口を向ける。
少女は、咄嗟に弟の前に立ち両手を広げた。
男が指に力をこめる。
爆発。男の顔の付近で何かが破裂した。そこから白煙が広がり、周囲の視界をすぐに白く染めた。
その白煙の中に、女が飛び込んで行った。
「うわっ、なんだお前!? ちょっ、やめっ、ぐわっ!」
殴打する音と、男の呻き声が聞こえた。
白煙が徐々に引いていく。影が、次第に輪郭を帯びる。
男が、亀甲縛りにされて横たわっていた。
その傍に、女が立っていた。「chaosDIVA」のバンドTシャツを着た女が。
「
【弾数無制限】
それが今回の
理空は残りわずかのメロンソーダを飲み干すと、プラカップを投げ捨てた。ついさっき、ライブハウスで受け取ったワンドリンクだ。
少女は、呆然と理空を眺めていた。
顔つきも衣服も、この国の人間のようには見えない。まるで、どこか別の世界からやって来たような。
しかしながら、敵ではない。それだけは確かだと思えた。敵兵だとしたら、今頃少女も弟もこの世にいないはずだ。
彼女が現れなかったら。それを思うと、少女の目から涙が溢れてきた。
理空は、しゃがんで少女を抱き締める。
「頑張ったね、あとは私にまかせて」
理空は、煙幕手榴弾を前方に投げ、走りながらそれを踏む。煙幕手榴弾が破裂する。その勢いで、理空は加速する。
理空は、一瞬で戦場の中心に躍り出る。
兵士達は虚を突かれた。人間だと認識するまでに、数瞬の間があった。
やや遅れて、兵士達の銃口が一斉に理空に向く。白煙。視界を塗り潰す。50個の煙幕手榴弾が破裂していた。
「うおっ!」
「ぎゃっ!」
「ぐえっ!」
「ぽめっ!」
「げばっ!」
白だけの視界の中、理空だけが縦横無尽に動いた。
音が、消えた。
煙が少しずつ引いて、視界が戻る。そこには、20数名の兵士達が横たわっていた。
高台からその戦闘を見ていた、ミヒャエル・ハッキネンの口から、葉巻が落ちる。
白煙が街を包んだと思ったら、次の瞬間には兵士が倒れていた。
肝入りの精鋭部隊である。
この街を拠点に戦火を起こし、アメリカ軍に痛撃を与えようという
5時間もあれば占拠できる筈であった。それが、30秒弱で潰えた。
爆発。300mほど前で起きる。ハッキネンが双眼鏡を覗き込む。同時に、女が背後に立っていた。速すぎる。ハッキネンの背中に冷たいものが走る。銃口を向ける。同時に、理空の腕が伸びてくる。拳銃は、抵抗する間も無く奪われていた。
理空は一切の躊躇も無く、拳銃の引鉄を引いた。煙幕手榴弾。銃口から、ぽろりと落ちた。
ハッキネンは呆気に取られたが、すぐに我に返り、武器を取り出した。
「はっはっは! よくわからないが私の勝ちだ小娘!」
ハッキネンは、自動小銃の引鉄を引く。銃弾。放たれるが、理空には届かなかった。起動が、ことごとく逸れていた。宙空に撒いた無数の煙幕手榴弾が、弾道を乱反射していた。
白煙が舞い上がる。ハッキネンはなおも闇雲に乱射する。理空は一旦後ろに跳んで距離を取った。
煙の僅かな揺れ。そこから、ハッキネンの位置を探る。煙の中に、大きく動いている気配は無い。
殺気が、理空を打つ。咄嗟に躰を捻る。ライフル弾。すぐ横を通った。躱さなければ、腹部を貫通していた。闇雲の一撃ではない。しっかりと、目視されている。
「こちらにはサーマルスコープがあるから、煙幕をいくら使おうと、お前の動きは丸見えだ!」
手の内を自ら曝け出す馬鹿がいるか。言いそうになったが止めた。そういう馬鹿は過去何人も見てきた。
銃弾。頬を掠めた。徐々に、こちらの動きは捉えられている。
呼吸を、読みとる。どのタイミングで撃つか。2拍待った。理空は、自分に向けて煙幕手榴弾を破裂させる。弾丸。理空の額を貫く。理空の躰が、ぐらりと揺れ——踏み止まった。
「ば、馬鹿な!? 確かにヘッドショットしたはずだ!」
『ダメージを受けてから0.03秒の間は、他の攻撃によるダメージは無効になる』
この世界の
煙幕手榴弾が、一直線にハッキネンに向かう。理空が、弾丸が当たると同時に放っていた。
「いてっ!」
煙幕手榴弾が、強かにハッキネンの頭を打っていた。理空は、ハッキネンの声を聞き漏らさなかった。痛い。確かに言った。理空は、煙幕手榴弾を手に、大きく振りかぶる。
投げた。唸りをあげて、頬に直撃した。ハッキネンの躰がのけぞる。もう一度振りかぶる。
4個。人中、顎、水月、睾丸にめり込む。1秒の間に放っていた。ハッキネンの躰がぐらりと揺れる。理空は、攻撃の手を緩めない。
「や、やめ……」
ハッキネンが懇願する。額に、煙幕手榴弾が直撃する。理空は、次の煙幕手榴弾を振りかぶった。
「クソが!」
ハッキネンは、よろよろになりながら懐から丸い物を取り出し、地面に叩きつけた。煙幕手榴弾だ。白煙が、一気に舞い上がる。理空は煙幕手榴弾を投げつけた。人に当たったような音はしない。理空は歯噛みした。相手が使うことを想定していなかった。
足音が、聞こえた。そちらへ走り出す。
ハッキネンは、高台の更に奥に逃げる。頂上に、大きな窪みがあった。死火山の火口だと、そこで気がついた。
火口の中に、巨大な機械があった。ミサイル発射台だ。
「こうなったら全て終わらせてやる。多少計画は狂ったが、このミサイルさえ放てば、俺の目的は果たされる」
どうして悪役はベラベラと話すのだろうか。理空は疑問に思った。
ハッキネンが機械にパスコードを入力し、スイッチを押す。理空はそれを眺めていた。
地面が、大きく揺れる。ミサイルが、空に向かって飛び出して行く——
——と、同時にミサイルが消えた。
「な、何が起こった!?」
ハッキネンは狼狽した。周囲を見渡すが、ミサイルはどこにも見当たらない。
空が、ふいに暗くなった。夜だと錯覚するほどだ。ハッキネンは上を見て驚愕する。
空を覆わんばかりの、無数の煙幕手榴弾が浮いていた。
「散々お前らの秘密を教えてもらったから、こちらからも話してやろう。この世界では、半径1km以内に65536個以上の銃弾は存在出来ない」
「じゃ、じゃあ、私の放ったミサイルは……?」
「消えた。65535個目のこれを取り出した瞬間に」
理空は、左手の指で煙幕手榴弾をぶらぶらさせた。ハッキネンは、膝から崩れ落ちる。
「そんな……私の……私達の希望が……」
ハッキネンの顎に煙幕手榴弾が当たる。
「悪いな。私は早く帰りたいんだ」
理空が指を鳴らす。
65535個分の煙幕が、一斉に破裂する。
白煙は、街全体を一瞬で包む。
視界は、白く塗り潰される。煙は厚い。音も、光さえも届かない。ただ、静かな時間が流れた。
少女は、街の外からそれを眺めていた。母親の手を、強く握る。
煙が引いていく。突き抜けるような青空が広がっていた。
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