基幹世界01.入学式翌日
「そっちに逃げたぞー!」
「追えー!」
入学式の翌日である。
学校の外壁を駆け上り、3階の窓から直接教室に入った女の噂は、瞬く間に学校中に広まっていた。
陸上部、バレーボール部、サッカー部、ソフトボール部などなど、様々な運動部の人間が、理空を勧誘するべく押しかけていた。
理空は全力で逃げる。
今日はアルバイトの面接が控えていた。時間まで余裕が無かった。それに、もともと部活動に入るつもりは無かった。
前方に、15人の女がいた。女子ラグビー部員だ。
「龍造寺理空さん! 私たちと一緒に花園を目指しましょう!」
女子ラグビー部員たちが、次々とタックルを仕掛ける。
風。部員たちの間をすり抜ける。女子ラグビー部員たちは振り返る。理空は、既に陣形をすり抜けていた。誰一人、指一本すら触れられなかった。
「なんて素晴らしい身体能力だ!」
「ぜひラクロス部に!」
「水泳部に!」
「陸上部にいいいいいい!」
理空は、更に加速して、追手との距離を離す。
「くそっ、このままだと逃げられる!」
「大丈夫だ! 校門に部員を待ち伏せさせてる!」
サッカー部の部長が言う。学校の敷地から出るためには、広い前庭を抜けて校門を抜けるか、校舎をぐるりと囲う塀を越えるしか無い。
理空は、校舎の角を曲がる。
やや遅れて、陸上部部長が校舎の角を曲がり、前庭に出る。
「……あれ?」
前庭に出て、陸上部部長は足を止めた。
そこに、理空の姿は無かった。
校門で待ち伏せしていた部員と目が合う。変わった様子があったようには見えない。
「おい、龍造寺さんはどうした」
「へ? まだ来てませんけど……」
前庭にいる生徒はまばらであった。それに、理空は女子にしてはかなり身長が高い。人違いをしている可能性は低かった。
周囲を見渡す。それらしい姿はどこにも見当たらない。
「龍造寺さんが……」
「消えた……?」
理空が、忽然と姿を消していた。
「さ、探すんだ! そんなに遠くには行ってないはずだ!」
生徒たちは一斉に散らばった。
後には、1人だけが残されていた。女子バスケットボール部の部長が、首を傾げていた。
「龍造寺……なんか聞いたことあるような……?」
この日、龍造寺理空が学校で見つかることはなかった。
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