ヘスト大森林
第32話 キノコ大博覧会
ヘスト大森林へと到着した私達は、早速森の中で食料を集め始めていた。
ここは広大なヘスト大森林の中でも西部に位置している。
中央部に比べれば危険な魔獣や動物の数は少なく、比較的安全に通り抜ける事が出来るルートだ。
生い茂る木々の間から漏れる日の光が幻想的だな。
少し湿った土の匂いや風で擦れ合う葉の音が、いつでも心に癒しを与えてくれる。
これは良い食材を期待してしまうね……!
「いいかいセナ、明らかに変な色をしたキノコは触っちゃダメだぞ?毒があるかもしれないからね」
「わかってるよレオ〜。セナね、ようちえんでズカンたくさんよんでたから、よゆーだよ!」
「それは素晴らしい。頼りにしてるよ」
「うん!それじゃあマシュー、しゅっぱーっつ!!」
こうしてマシューの背中に
森の中で別れるのは危険だ。それは分かっている。
だがマシューには”危険な魔獣を見つけたらこっちに来い”と伝えてはいるし、セナには手袋もつけさせているし、何より私も彼女達の魔力が探知出来る範囲だけで動くつもりだ。
少しだけ私から離れた所で何かを学ぶ事は、彼女の未来にとっても必要な事だろう。
私も幼少期に村で過ごしていた時に、大人が見ていない所で色々な悪さをやった。後でジイちゃんにバレてこっ酷く怒られた事もあったな。
だけどそれはムダだったとは思わない。
意外とその時に得た知識や経験が今の自分に影響を与えていたりする。
セナにも自分の中だけで何かを考え、答えを出すという過程を経験してほしい。
そういった意味では、この大自然は最適といってもいいだろう。
────さて、一人で探索する”言い訳”はこの辺にして……。
「久しぶりに魅せるか。”食材集めの鬼・レオ”の姿をね……!」
私はセナに見せた事のない笑顔を浮かべながら、肩をグルグルと回し始めていた。
◇
「これは……ホワイトブリス!バターの代わりとして使えるぞ。おいおい待ってくれ、グロウシャインまで生えてるじゃ無いか!?ここは菌類の聖地なのか?」
私は誰かに聞いてもらう訳でもない独り言を呟きながら、腰を低くして様々なキノコを集めていた。
いやはや、まさかここまで種類が豊富だとは思わなかったな。
これでは日が沈むまで探索してしまう事になるぞ。一旦落ち着かないと。
落ち着……って、あれ?
「……あぁっ!?ハーバルフロストまであるだと!?痛み止めにも使える上に、料理の香り付けにも使う事ができる。これだけあれば十分……ソルスプリングスが生えてるじゃないかぁああ!!?滋養強壮にも使えるし、乾燥させればナッツ感覚で食べる事が出来るキノコッ!おいおい、ここでキノコ大博覧会でも開いているのか?」
結局落ち着く事なんて出来なかった。いい年して情けない事だ……。
結局時間はドンドンと過ぎ去り、気付けば辺りが日暮れのオレンジ色へと変わり始めていた。
も、もちろんマシュー達の魔力はずっと感知してたし?
ここから歩いて二分ぐらいの所にいるのはちゃんと分かってるし?
夢中になりすぎて見失った事とかないし?
な、なによりちゃんと食材集めたし?
これで数日は食材を買わなくても生きていけるんだから、責められるような事はしていない。していないぞ多分……。
「はぁ、そろそろセナの所に戻るか。彼女達はどれだけ集められただろうか」
私は集めた食材をまとめ、土で汚れたヒザをパンパンとはらう。
そしてセナ達のいる方向へと歩き始めようとした……。
────だがその瞬間だった。
ゾクゥ
背中を駆け巡った、とてつもなく不快な魔力の感覚。
まるで大量の虫が身体中を蠢いているかのような、そんなとてつもない気持ち悪さを感じさせる魔力だ。
私はこの感覚に覚えがある。
これは魔族の最上位である魔人や、危険度Sランクを超える魔獣などの魔力を前にした時にしか抱かない不快感だ。
これは本当にマズい。
私はバッと後ろを振り返り、そのまま辺りをグルッと見渡す。
だがそこに映るのは、日が沈んでいくと共に闇を増やし続ける木々の並びだけで、それらしい魔族の姿は見当たらない。
だが間違いなく魔力自体は近かった。
きっとコイツは魔力を隠すの得意なのだろう。
残念ながら私の力ではハッキリとした位置までは掴めなかった。
「クソ……!とにかくセナ達と合流しなければ」
だがそう呟いた直後にハッとする。
このクラスの魔人・もしくは魔獣を相手にするとなれば、セナ達は私にとって足枷となってしまうだろう。
ならばセナ達とは合流せず、私一人で仕留める方が生存率は高まるはずだ。
それにマシューも馬鹿じゃない。
私が戦い始めれば、魔力を察してセナと共に逃げてくれるはずだ。
ここはマシューの頭の良さを信じよう。
【ブォォオオオオッッ!!】
戦う決心をした私は、全身から殺気を込めた魔力を大量に吹き出す!
地面の土は少しづつ掘り返され、周りの落ち葉は激しく宙を舞うほどの魔力圧で放つ魔力と殺気だ。
しかしあくまでもこれは”エサ”。
この殺気を前にして、私を無視する事など出来なくしたのだ。
ここで”無視をする”という行為は、”逃げた”という事実にも繋がる。
わざわざ森の中で魔力を隠しながら襲ってくるほどに戦闘慣れしているヤツが、この事実を受け止められるとは到底思えない。
何より魔族とはそういう種族なのだ。
「どこからでも来なさい。私は逃げも隠れもしないよ」
そしてゆっくりと剣を抜いた私は、全方位に魔力感知を集中し、そして襲撃の時を冷静に待つのだった。
……そしてその瞬間は突如としてやって来る。
「上か!」
空へ伸びる木々を這うようにして近付いて来ていた”ソイツ”が、とうとう姿を現したのだ!
私が上を見上げると、そこには視界を覆い隠すほどに開かれた大きな口。
そこに生えた数十本の牙は非常に鋭く、その先端からは見るからに毒のような液体が漏れ出ていた。
なるほど、正体はコイツだったのか。
「バジリスク……ッ!!」
上空から覆いかぶさるように襲ってきたバジリスクの攻撃を寸前でかわした私は、そのまま剣を構えて”地面の方”へと視線を移す。
そして少し乱れた呼吸を整えた後に、絞り出すように呟いた。
「最悪だ」
バジリスク。
それは目撃情報すらも数十年に一度レベルの、希少な危険度Sランク魔獣。
噛まれればほぼ確実に死に至る強力な毒も脅威だが、残念ながらコイツの一番恐ろしい部分はそこではない。
なにせバジリスクの目を見れば、その生物は石になってしまうのだ────
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