第18話

 繰り出した【エナジーナックル】を吸血鬼の男はしゃがむことで躱すと、もう片方の血の鉤爪を俺の腹部へと突き刺してきた。


 「アガッ!?グフッ!!」


 突き刺し手首を曲げて引き戻された血の鉤爪により俺の肉体から内臓を引き出されてしまう。


 口から止めどなく血の塊が吐き出され、引き摺り出された内臓が武装の金属装甲の外へと地面に落ちる。


 幸いなことに心臓と肺は無事だったが、それ以外の臓器は破損や欠損しており、治すには【超強化再生】で再生しないと治らないだろうダメージだ。


 「これでも死なないのか!?人間じゃねぇ!お前は化け物だ!!」


 既に引き摺り出された内臓が再生を開始したのが、正面の吸血鬼の男には見えているのだろう。


 俺を見る目が侮蔑や嘲笑から若干の怯えが見える視線に吸血鬼の男は変わっていた。


 確かに俺も自分のこの再生能力の高さには驚くが、異世界を侵略するような連中にそんな目を向けられるのは納得がいかなかった。


 そんな目をする吸血鬼の男に俺は掴み掛かる。そして、怯えてしまった影響があるのかは分からないが吸血鬼の男の両肩を俺は掴むことに成功する。


 「ガァアァァァーーアア!!!!!!なぜ捕まれるだけでこんな痛みがあるのだぁあああ!!」


 これは武装装備スロットにセットした【銀の鏃】の効果なのだろう。流石に特効効果のある力に触れればたいした攻撃でなくても大きなダメージが与えられるのだろう。


 これでまともに【エナジーナックル】を食らわせれば、この吸血鬼の男にも致命傷を与えられる可能性が高い。


 「離せ!!私の肩を離すんだ!!!!」


 「このままお前を殺す!!!」


 肩を掴む両手は握力の限りを尽くして握り込み、尖り気味の指先が吸血鬼の男の肩に突き刺さり食い込んでいく。


 吸血鬼の男も俺が掴む手を離させようと必死に抵抗し、俺の身体に血の鉤爪を突き刺したり、引き裂いたり、抉り取ったりなどの行動をするが、俺は吸血鬼の男を掴む手を離さない。


 「なぜ切れない!なぜ死なない!!お前は人間じゃないのか!!!?この化け物がぁあ!!ふざけるなぁあーーあ!!!!!」


 なりふり構わずに吸血鬼の男は暴れるが、俺は手を離さずに握り締めながら吸血鬼の男に頭突きを行なった。


 「ガァアッ!?」


 「2回目、いくぞ!!!」


 「グァッ!?」


 「3回目ぇえ!!!」


 「ギャッ!!?」


 流石に必殺技の【エナジーナックル】のような威力はないが、体内から溢れ出てくる進化のエネルギーが肉体を強化・活性化し、無意識的にだが頭突きの際に頭部に集まり出して頭突きの威力を少しだが上昇させる。


 13回目の頭突きを吸血鬼の男へと食らわせた時、暴れて抵抗していた吸血鬼の男の力が抜けてきた。


 俺はここだと思った。今なら必殺技の【エナジーナックル】を直撃させられると。


 「食らえぇ!!エナジィィーナックルゥゥーーーー!!!!!」


 吸血鬼の音が逃げないように掴む左手の力を抜かないで、俺は離した右手の拳にエネルギーを収束させて必殺技の【エナジーナックル】を発動して吸血鬼の男の顔面へと繰り出した。


 「グギャぺッ!?」


 これが吸血鬼の男が最期に口から漏らした言葉?か音だった。


 それを最後に吸血鬼の男は身体を灰へと変えていき、この場には吸血鬼の男が着ていた衣服とアクセサリーに吸血鬼の男の身体が元になった灰の山しかなかった。


 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、うぐっ!!」


 何度も何度も頭突きを行なった結果の脳震盪に、数え切れないほどに行なわれた【超強化再生】による再生の影響で俺は地面に手と膝を付いた。


 息を整えながら周りを見れば未だに侵略者と戦う選ばれし者の姿が見えるが、後方から視線を感じて見れば、そこには俺と吸血鬼の戦いを見ていたと思われる選ばれし者たちの恐怖と嫌悪に満ちた視線だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る