ギャンブル資金欲しさに探索配信してたのに、気付いたらヤンデレハーレムに囲まれていた件
太田栗栖(おおたくりす)
第1話 プロローグ
かつて、人間は地上を支配していた。
人間は弱い。
爪も、牙も、強靭な肉体も持たず、環境適応能力も低い。
だからこそ知恵を働かせ、自らを変えるのではなく周囲を変えることによって、地上を人間の楽園としたのだ。
人間は獣に劣るが、人間が産み出した文明という武器は、獣どころかそれを含んだ自然すら駆逐出来てしまう。
ありとあらゆる弱点を技術でカバーし、そうした技術の発展の先で、確かに人間は地球の頂点に立った。
生来の弱さを隠すための武器の数々が、人間を絶対的な存在とした。
誰もがそれを疑わなかった。
しかし突如として現れた悪夢が、地上の楽園を瞬く間に地獄に塗り替えてしまった。
最初の崩壊が起こったのは2022年。
後に『始まりの惨劇』と呼ばれる事象は、なんの前触れもなく渋谷のスクランブル交差点にて巻き起こった。
そう呼ばれる異形の生物の発生、それに伴う現実世界の異界化によって、渋谷を中心に地上は化け物が闊歩する魔境と化したのだ。
魔物は、捕食したモノの特性を取り込んで進化を繰り返し、さらには並の銃火器では倒せない耐久性を持ち合わせていた。
数年に渡る人類と魔物の戦いは全てが人類の敗北に彩られ、七十億もいた人口は三十億を下回るほどに追い詰められた。
各国の研究、グラトニウムという魔物が拒絶反応を示す特殊合金の開発が間に合わなければ、間違いなく人類は死滅していたと言われている。
グラトニウム製の巨大な壁を建造してその内側を生存圏とすることで、なんとか人類は生き長らえることが出来たのだ。
それから五十年。
突如として特殊能力に目覚めるようになった人類は、能力者から成る軍を編成することで壁内外の魔物を討伐し、徐々に生存圏を押し広げつつあった。
○
「ふざけんな馬鹿がよ!」
人類が設けた生存圏の一つである『神奈川エリア』、その壁外近辺に位置する廃墟と化した街に青年―――
ひび割れて砕けた道路を全力疾走する彼は、時折引き攣った顔で背後を振り返ってはサブマシンガンのトリガーを引いていた。
照準を向けた先では、大型犬のような生物の群れが、よだれを撒き散らしつつハルカを猛追している。
ペットと戯れていると見るには少々殺伐とした光景。
そもそもよく見たらハルカを追い掛ける生物は、頭部が異常に肥大化した個体や目玉が全身に浮き出た個体など、明らかに普通の犬ではない。
ハルカに明確な敵意と殺意を向けるそれらは、人類の大敵たるモンスターであった。
片や道路に散らばる瓦礫を避けつつ逃げる人間、片や悪路をものともせずに走破する犬型の化け物たち。
当然双方の距離は急速に縮まっていく。
その間にハルカは何度もサブマシンガンの乱射を試みていたが、どれだけトリガーを引いても弾丸が放たれる気配はなかった。
「いやキモすぎ!不良品掴まされたんですけど!?まじこのタイミングで故障するとかなんなんだよ!やってらんねえわ!」
動作不良を起こしたサブマシンガンを放り投げた彼は、次にレッグホルスターからハンドガンを抜いて発砲する。
「ギャウン!?」
群れの先頭を走る個体が、眉間に銃撃を浴びて地面をのたうち回った。
振り向き様の咄嗟撃ち、それも走りながらという悪条件でありながら、十数メートル先のモンスターの眉間を撃ち抜く腕は相当なものだろう。
―――しかし。
「全ッ然意味ないんですけどォ!?」
たった一発の銃弾が群れに与える影響などたかが知れていた。
「いや運悪いだけじゃん!サブマシンガン壊れてなかったら余裕で勝ててるんですけど!?運負けだろ運負け!言っとくけどこれ俺の実力不足とかじゃないからね!?」
まるで誰かに向けるような叫びをあげながら、彼は弾倉が空になるまで必死に銃撃を続ける。
放たれた弾丸はそれぞれが異なるモンスターの急所を撃ち抜き、残弾数がゼロになれば即座に予備の弾倉に取り替えて再び発砲。
「マジどんだけいんだよ!?こいつら全部メスだったら俺モテ過ぎだろ!ちょ、流石にチンチン足らんて!」
下品なジョークには目を瞑るとして、やはり銃撃の腕前には目を見張るものがあり、徐々にだがモンスターの数が減っていく。
―――十秒。
―――三十秒。
―――1分。
長時間に及ぶ銃撃は、五個目の弾倉が空になるまで続いた。
「ギャフッ」
最後のモンスターの断末魔が逃走劇の終わりを告げる。
「はぁ、はぁ、はぁ、終わった?どう?流石にこれ以上は来ないよな?」
ようやく立ち止まり、肩で息をしながら周囲の警戒をするハルカは、ここでも誰かに語りかけるような口調をしていた。
別に彼は独り言が癖という訳ではなく、かといってモンスターに追われる極限状況で気が動転した訳でもない。
ならば、何故このような語り口になるのか。
それは―――彼が配信者だからである。
さっきまでの一部始終は全て、彼から少し離れた空中に浮遊するドローンを通じて、インターネット上に生配信されていたのだ。
ハルカはスマートフォンを操作すると、自らの配信画面を表示した。
同時接続数95。
直近5分でのコメント数は34件。
チャンネル登録者数1025人で、この配信を通して増えたのは6人だけ。
それはもう、底辺も良いところの過疎配信であった。
「はぁ」
思わずため息をこぼすハルカ。
あれだけ命を張って戦っても、得られた成果が無いに等しいとなれば、仕方のないことかもしれない。
まあ彼の場合配信活動はおまけ程度のもので、生活費は壁外探索で持ち帰る情報やモンスターの討伐に応じた報酬から稼いでいるのだが―――。
それでも、もう少し規模の大きい配信者になって、大金を稼ぎたいという野望がある彼にとって、この結果は意気消沈モノなのだ。
(やべ、配信の方に気を向けないと)
ハルカは慌てて配信画面のコメント欄に目を向けた。
《お疲れさん》
《マジで死ぬかと思ったぞ》
《GG》
《↑ゲームじゃあるまいしww》
《今回ばかりは救助申請送ろうか迷ったわ。ハルカの射撃技術知らなきゃ多分送ってたぞ》
一応、見せ場的戦闘が終わった直後だからか、コメント欄はそれなりに盛り上がっている様子。
ハルカは多少気を良くして、コメントと言葉を交わす風に声をあげる。
「いや?実は全く苦戦してなかったけど?ほら、やっぱり余裕に雑魚刈り取るのって、ぶっちゃけそんな配信映えしないからさ」
《いやするが?》
《するけど?》
《はいはい強い強い》
《うんうん》
《何度もそれ言ってるけど、一度も本気出したことないよな?》
「そこはあれな。やっぱり二次元を愛するオタクとしては、実力を隠していかねーとな。隠れチートってやつよ」
《草》
《そもそも隠す実力が無い件》
《そうやって二次元を語るなら、ハルカを好きになる女の子もいないな》
《一緒に探索してくれる仲間もいません》
《それもう全部無くて草》
「お前ら俺を叩く時だけ一致団結するのやめろや」
エンタメ的にコメント欄とプロレスをしながらも、良好な会話を続けるハルカ。
過疎配信だが、ごく一部の継続的な視聴者たちはコメントで盛り上がっていた。
上手く視聴者たちの心を掴んだまましばらく配信を続けたいところだが、忘れてはならないのはここが壁外、つまり人類に牙を剥く化け物の棲息地であること。
ハルカの腕に装着されたモンスター専用のレーダーに新たな反応は無いが、だからといってこれ以上ここで雑談を続けるわけにもいかない。
「あー、悪い、そろそろ帰還始めるから、コメントへの反応がちょっと悪くなるわ」
《おけ》
《了解》
《しゃーなし》
概ね好意的なコメントに満足したハルカは、壁内へ帰還するために再び警戒心を強めて廃墟の中を歩きだした。
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