あなたは幼い頃から、「人は死ぬとどうなるのか」について、大変深い興味を抱いておりました。

 死体をそのまま放置するとやがて腐る、のような目で見てわかることはある程度出回った情報です。あなたが知りたいのは俗に魂だとか心だとか呼ばれるものです。

 例えば不幸で仕方ない人生を送り、自ら命を絶った人は地獄に行くのでしょうか。それとも望み通りに死ねたので、幸せになれるのでしょうか。そもそも地獄や天国は存在するのでしょうか。宗教は散々それらしいものについて宣っておりますが、誰も死んだことがないのでわからないのです。イエス・キリストが死んでから何日か後に復活したという逸話は有名ですが、本当に死んでいたかなんてわかりません。ものすごい生命力で生き続け、意識を失っていただけなのが、たまたま戻っただけかもしれませんし、そもそも作り話の可能性だってあります。

 それに、魂や心というのは本当に存在するのでしょうか。あなたは自分が「感情」と考えているものについて、疑念を抱いていました。「思う」とは何ぞや、と。

 ある一節では魂というのは肉体を形作る情報であるとのこと。ある観念には魂魄という概念があり、魂が文字通り魂や心を表し、魄は肉体を表します。死ぬというのは魂が肉体から離れることだと言い、死によって魂の存在を証明している形になっています。

 まあ、魂と肉体どちらが先かというような、鳥が先か卵が先か議論のような前者はひとまず置いておくとして、考え方としては両論とも、「魂が存在する前提」の論理となっています。

 そこであなたは疑問に思いました。人は自然に「魂=心」と思っていますが、果たしてそれは真実なのでしょうか。六道輪廻や転生の考え方に対して挑戦的な議題ではありますが、だからこそ議論する意義があると考えます。

 あなたは今こうして疑問を抱いている「自分」という存在すら、何かわかっていません。そしておそらく、他の人々もそうではないかと推測しています。

 生命の神秘、で簡単に片付けられる問題でもありますが、では生命とは何なのか。あなたは考えることが好きでした。

 何にでも疑問を抱き、ぽんぽんぽんぽん議題を転がしていくあなたに話しかける人は誰もいませんでした。みんなあなたを面倒くさいと思ったのです。端的に言ってしまうと、あなたは変人だと思われていました。

 家族にすら遠巻きにされるあなたでしたが、それでもあなたはいたって真剣なのです。「死」について考えることは自分が人間である意義を確かめるための課題だと考えていました。

 人は「死んだら楽になれる」だの「死ねばいいのに」だの「死んでも意味がない」だのと死ぬことについてやたら主観的に、簡単に結論づけたことを言います。それだと年々増え続ける自殺者は減りませんし、意味のない殺人──そう、「なんとなく殺した」や「殺したかったから殺した」などが動機の殺人事件は増える一方で、何も解決しないまま、ただ徒に人が死に続けます。それが社会問題と銘打たれているのに、何も考えないのはどうかしているとあなたは常々思っていました。

 あなたは端から見たら変人かもしれませんが、何もおかしなことを言っているつもりも、考えているつもりもありません。けれど、誰も取り合ってくれません。

 そんなあなたの孤独というストレスを受け止めてくれるのはラジオでした。娯楽がないと人は生きていけないと言いますが、あなたは正にそうでした。ラジオには台本がありますが、リスナーからのメッセージに対して答えを用意してくれる、それについてある程度発言に自由度があるのは心地よく感じました。

 それに、ただ音楽を流すだけのラジオなんかはリラックスができてとてもいいです。人間が手動で切り替えるときの途切れ方、マイクから入るノイズ。ラジオ特有の掠れ。これらがなんだか「生きている」感じがして、とてもよかったのです。

 そんなあなたはラジオをぼーっと聴くのが趣味で、日課でした。

 ある日のことです。その日のメールテーマは忘れました。ただ「共感性」の話になったのです。手紙の内容は「これこれこう言われたんですけど、私にはどうしてそう思うのか理解できなくってですね~」といった感じでした。

 それに対し、ラジオパーソナリティはこう答えました。

「そうだよねー。そういうのはなってみないとわからないもん」

 その言葉に、あなたは長く抱いていた疑問の答えを見出だしました。

 なるほどなるほど、なってみなくちゃわからない。それなら「死んだらどうなるか」なんて、「死んでみなくちゃわからない」ですよね?

 それは世紀の閃きでした。その夜は正に奇跡の夜。雲った夜空から見えるはずのない流れ星を見つけたかのような感動を見つけました。

 気づけばあなたはラジオパーソナリティになっていました。

 悩める人々に気づきを与える存在になれたのだと思います。

 感動のまま、あなたはテンション高く唱えました。

「今宵も始まるミラクルナイト! 曇った夜空にシューティングスター! どうも、悩めるあなたのラジオパーソナリティです! え、死んだら楽になれるかって? そんなの死んでみないとわからないじゃないですか!」

 まあ、何も解決はしていないのですけれど。

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RADIO PARSONALITY 九JACK @9JACKwords

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