第2話 日常の終わり
私は、三歳下の弟アールトと共に、幼い頃からべーレンズ伯爵家に仕えておりました。
亡くなった母が伯爵家に仕えていたそうで、幼くして天涯孤独となった私たち姉弟を、ベーレンズ家御当主であるダミアン様が引き取ってくださったからです。
私もアールトも幼かったため、母の記憶はありません。
父の所在は……不明です。
私たちを引き取ってくださったことには感謝しています。
しかし外に出ることを禁じられ、働ける年齢になると、他の者たちよりも過酷な仕事が与えられました。
ベーレンズ家の一人娘であるシャルロッテ様と同じ歳だからと侍女を命じられてからは、私の生活はさらに厳しくなりました。
シャルロッテ様は面倒ごとを嫌がり、社交界どころか、外に出ることがなかったため、私を暇つぶしの玩具にしていたからです。
無理難題を押しつけたり、八つ当たりをしたり……一番大変だったのは、シャルロッテ様が髪飾りを広い庭園に投げ、見つけるまで食事は無いと言って探させたことでしょうか。
私とお嬢様は、非常に捻じ曲がった主従関係だったのです。
そんな日々がずっと続くと思っていた運命の日。
ダミアン様が朝食中、新聞を読みながら唸っていたのを覚えています。
「また高位貴族の離縁がニュースになっているな。どうやら後継者である息子が、当主の血を引いていなかったようだ」
「奥様の浮気相手の子を後継者にしようと? まあ怖い。でも何故分かったのでしょうか」
「どうやら、魔術で判明したらしい」
「まあ、魔術師が関わっているのですか? 気味が悪い……」
奥様の瞳には、嫌悪と恐怖が宿っていました。
魔術師とは、普通の人間にはない不思議な力を持っている人たちのこと。
昔は表に出ず、ひっそりと暮らしていたのですが、過去の戦争で大きな功績をあげたことで、注目されるようになりました。
今では、高位貴族の当主をつとめる魔術師もいるようですが、魔術師に対する不安と気味悪さは根深く残っており、偏見をもつ貴族も未だに大勢いるようです。
そのとき、ノックもそこそこに、慌てた様子の執事が飛び込んできました。
「旦那様、国王陛下の使者がお見えになっております!」
使者の訪問によって今の生活が突然終わることを、当時の私は知る由もありませんでした。
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