遺された部屋と、新たな影

佐伯の死亡から数日後、警察の立ち入りが解除され、203号室の中がようやく公開された。

ユカは管理人・小谷の許可を得て、その部屋に足を踏み入れる。


中は、殺人現場とは思えないほど

整頓されていた。

ただ――異様なほど、メモと記録が多い。


壁に貼られたメモの断片には、こんな言葉が書かれていた。


「やつは見ている」

「ノートの記録と一致している」

「あの部屋に近づくな。201か、それとも…301…?」


ユカは、机の引き出しに入った一冊の大学ノートを見つけた。

それは佐伯自身の手によるものだった。


【記録:佐伯】

3年前、前のアパートでも“ノート”を受け取った。内容は今と似ている。

壁の中に気配。天井裏に開けられた穴。

引っ越した先々で、同じものが「追ってきた」。

“あいつ”は、俺を見張っている。

だが、“書いている”のは、俺じゃない。

奴は、俺が見ることを望んでいた。


読み進めるうち、ユカの喉が渇いていく。

佐伯は「書き手」ではなかった。ただ、過去に“ノートを渡された側”だった。

そして何者かに執拗に観察され、追い詰められた末――死んだ。


その夜。ユカは、またノートが勝手に開かれているのを発見する。


そのページには、こう記されていた。


0:03 “次”が選ばれた

0:04 302号室、岡島以外

0:05 “彼女”はまだ気づかない

0:06 隠しカメラ、作動


302号室……岡島の部屋。

だが、「岡島以外」と書かれている。


「誰……?」


ユカは身を震わせた。


翌朝。マンションの掲示板に一枚のチラシが貼られていた。



【新入居のお知らせ】

305号室に、一人暮らしの若い女性が入居しました。どうぞよろしくお願いいたします。

※夜間の騒音・ゴミ出しにはご配慮ください。



ユカは血の気が引いた。


305号室。ちょうど佐伯の部屋の真上。


そしてその夜――ノートには一言、追加されていた。


0:00 “次の観察が開始された”

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