家出少女4





「はあああああぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁあーーーー…………スッキリしたぜえええぇぇぇーーー!」




人間を辞めてしまったエリザベス(仮)ちゃんは畳の上に寝転がりながら大きく息を吐く。


その表情はまるで憑き物が堕ちたようにスッキリしていた。


魔導書の断片を取り込んで変異した彼女は先程まで巨大怪獣となり街の方で暴れ回っていたのだが、満足したのか我が家まで戻ってきていた。


エリザベス(仮)ちゃんの体は変異した影響をありありと残している。肌は半分が人の肌、もう半分は黒い鱗で覆われていて、臀部には黒くて太くて立派な尻尾が生えている。しっかりモンスター娘になってしまった。よきかなよきかな。




「なんも考えずに暴れ回って、目につくモン片っ端からぶっ壊して……そしたら、なんか、もう、全部どうでもよくなっちまったな」


「それはよかった」


「つーか、アレ、マジでなに?なんか魔法?みたいなん使うヤツ居たんだけどさ。炎とか雷とか。あんなヤツいんだな。イヤ、オレが言えたギリじゃねーけど」


「この世は不思議でいっぱいなんだよ」


「ふーん。まっ、いくらヤラれても痛くも痒くもなかったんだけどよ!ホントこの力はスゲェな!最強じゃねぇか!」




エリザベス(仮)ちゃんは快活に声を上げて笑う。いい笑顔だとは思う。しかし、少しだけ無理して笑っているようにも見えた。



ひとしきり笑った後、エリザベス(仮)ちゃんはその笑顔が引っ込めて、憂いを帯びた表現で呟いた。




「ホント……スゲェ、力だ」


「そうだね」


「クッソ気持ちよかった。力を振り回して、何もかも簡単にぶっ壊れていくのは最高に気持ちよかった……。でも……それで、人もたくさん死んだんだろうな。悪いヤツも、良いヤツも関係なく死んだんだろうな……オレのせいで」


「大丈夫。怪我人は大勢出たし、建物を壊されて困る人も沢山いるだろうけど、誰も死んでないから」


「……は?んなわけねぇだろ。アレだけぶっ壊したんだから誰も死んでねぇわけねぇだろ」




リモコンを手に取りテレビをつける。


どのチャンネルも数時間前に起きた巨大怪獣出現の1件を緊急特番で取り上げニュースになっている。


『奇跡!死者0名!』


そしてどの番組でも、そんな内容のテロップが大きく表示されていた。




「ほらね」


「ありえねぇ……」




驚愕に目を見開いてエリザベス(仮)ちゃんはかぶりつくようにテレビ画面を見入る。そんなバカな話があるわけが無いと困惑を隠しきれない。




「どうなってんだよ」


「それも断片の力の一端だよ」


「は?」


「キミは心の何処かで人を殺してしまうことに忌避感があった。だから、無意識のうちに人が死なないように力を行使していたのさ」




とある最古の魔導書の原典の断片とはそれ程のものだ。肉体を思うままにすることが出来る。それは自身を変異させるだけには飽き足らず、周囲にすら影響を与える。


その結果、死なせたくないーーいや殺したくないと言った方がいいか。そう無意識のウチにエリザベス(仮)ちゃんが思っていたからこそ、断片の力が周囲の肉体に働きかけ誰も死ぬことは無かった。


あるいは死んでしまったが肉体が死ぬ前の状態に戻ったとか、そんなところだろう。




「……んなアホな」


「アホだね。だから、そんなアホみたいな力が今のキミにはあるんだって覚えておいてね」


「…………なんでオマエはこんな力をオレに渡したんだ。いくらでも使い道はあるだろうし、他に欲しがるヤツなんざいくらでもいるだろ」


「たまたまだよ?俺には必要の無いモノだったし、それにキミが何も持ってないただの人間で、人間が嫌いみたいだったから、かな?」




本当にそれ以上でもそれ以下でもなかった。特にこれといった他意は無かったりする。


たまたま拾ったものを、たまたま出会った子に、いらなかったからあげただけ。本当にそれだけの事だ。




「人間辞めてみた気分はどう?エリザベスちゃん」


「オレはエリザベスじゃ……ーーいや、いっか。そうだな。オレはもう……。エリザベスでいい」


「折角だからもっと可愛らしくエリーちゃんとでも呼ぼうか?」


「エリーちゃん、ね。まっ、悪くねぇんじゃね?」




エリザベス(仮)ちゃん改めエリザベスちゃん。愛称エリーちゃん。




「今の気分は?」


「悪くねぇ」


「それはよかった」


「その……」


「なに?」


「……ありがとな。オマエには感謝してる」


「感謝される言われは無いかな。エリーちゃんがどうしようもなく運が悪くて、たまたま運が良かっただけだ」


「…………そうだな」


「危険は伴うだろうけど、その力があればエリーちゃんは自分の思うままに選択して生きていくことが出来る。これからは自分の好きに生きたらいい」


「くくっ、街を簡単にぶっ壊す危ねぇヤツを野放しにしていいのかよ」


「その力は自然災害みたいなもんだよ。自然災害で何か壊れても、それは「しょうがなかった」で済まされるもんでしょ」


「それとこれとじゃ話が違くねーか?」


「確かにね。でも俺にしてみれば同じもんかな」




何度も言うが原典の断片はそれ程のモノである。人知の及ばないーーあるいは到底、人の手では扱いきれない超常的な、超自然的な、神の奇跡とも取れる現象を引き起こす。


そこに何らかの意思が介入するというならば、それは悪となるかは個々人の主観で持って判断される。


巨大怪獣の行った破壊行動は果たして悪行か?


その他大勢にとっては悪行だろう。


だが、彼女にとってはそうじゃない。


不運に見舞われ、過酷な人生を押し付けられた彼女にとってはそうじゃない。


誰一人として彼女に味方をするものはいないだろう。


自分が辛い思いをしたからといって他人に迷惑をかけていい訳じゃない。


確かにそうだろう。


だが、そうなると彼女の衝動の逃げ場は何処にもない。


誰にも理解されずに彼女は独りぼっちで地獄に足を踏み入れるだけだ。


そんな彼女と1人ぐらいは一緒に地獄行きになるヤツが居てもいいと思う。


悪いことしてるってのは理解してる。


まあ、そんなんでさ。


ごめんなさいはするから許して?






「あのさ」


「なに?」


「暴れまくったからかなんか知らねぇんだけど。体が火照ってしょうがねぇんだわ」


「ほう」


「一発、ヤラせてくれよ」


「オッケー!」






エリーちゃんを担いで寝室にGO!






「なんかさ。今なら最高に気持ちよくなれそうな気がすんだよ。だからさ……一緒に、イこうぜ?」






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