第26-2話
※本日18時の更新前に1話追加します。
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アナスターシアはカラハン第一王子にドラゴニウムの生地を送った後、自分の下着も縫ってもらおうとメイドにその生地を渡した。ところが、メイドが裁ちばさみで生地を切ろうとすると、まったく切れずに困り果て、アナスターシアに泣きついた。
「アナスターシアお嬢様。裁ちばさみの刃がボロボロになるだけで、まったく生地が切れません」
「え? はっ・・・・・・確かに普通のはさみで切れるはずがなかったわ。きっと、カラハン様も困惑しているはず。いやだ、どうしよう・・・・・・急いでドラゴニウムではさみと針を作らないといけないわ。私としたことが・・・・・・なんという失態・・・・・・」
(これから、はさみや針を作るには時間がかかり過ぎちゃう。神様、お願い。ユーフェミア様、お力を貸してください)
アナスターシアはメイドに新しいはさみを持ってこさせると、みずからはさみを持ち、切実な思いを込めてドラゴニウムの生地を切ってみた。すると、なんと、すいすい切れたではないか。
アナスターシア自身、驚き信じられない思いで、紙のように切れていくドラゴニウムを見つめた。試しに玲奈やアニヤ、他の使用人たちにも切らせてみたが、アナスターシアだけがそれを切ることができたのだった。針においても同じ事で、アナスターシアの持つ針はドラゴニウムの生地を貫通できた。
「やはり、アナスターシアお嬢様はユーフェミア様の血を濃く受け継がれたのですわ。奇跡を起こす聖女の血です。このどんな武器も通さない生地も、聖女様の力には及ばないのでしょう」
玲奈は何度もうなずきながら感心している。
「流石はアナスターシアお嬢様です。やはり、大事な方を守る聖なる気持ちが、この生地をも柔らかくしたのでしょうね。お優しいアナスターシアお嬢様だからこその偉業です!」
アニヤは涙を流しながら感動していた。アニヤは今や、すっかりアナスターシアを崇拝し、心から仕える忠実な専属侍女となっていたのだ。
「ありがとう。今はね、自分の下着を縫うつもりだったから、自分の長生きのことしか考えてなかったんだけど・・・・・・」
アナスターシアはペロリと舌を出し、お茶目な表情を見せた。彼女は完璧なレディのマナーを身につけていながらも、気の許せる相手にはこのように可愛らしい仕草をし、愛らしい笑顔を見せるため、専属侍女たちやマッキンタイヤー公爵、カラハン第一王子もすっかり魅了されてしまうのだった。
☆彡 ★彡
こちらはカラハン第一王子が暮らすエメラルド城である。今日は一日、アナスターシアに会えないと思うと、力が入らず気持ちが沈んでいたカラハン第一王子。公務から戻り、ひといきつこうとソファに腰を下ろしたその時だった。
「アナスターシア嬢がお越しになりました」
ジュードが満面の笑みでカラハン第一王子に知らせた。
「え? 本当に? 私の会いたい気持ちが伝わったのだろうか?」
暗い顔つきだったカラハン第一王子の顔が輝きだし、瞳には嬉しさが溢れだした。
「ごめんなさい。カラハン様。あの生地を私に返してください。あれは、私にしか縫えないことがわかりました。ドラゴニウム糸を使って、私が縫います。ですから、カラハン様の身体の寸法を教えてくださいませんか? 裁縫は自慢できるほど得意ではないのですが、仕上がるのにそれほど時間はかからないと思います」
慌てた様子で姿を現したアナスターシアに、カラハン第一王子は喜びと共におおいに感動していた。
「えっ? アナスターシアがみずから縫ってくれるのかい? この私のために?」
「はい、私にしかできません。どうやらユーフェミア様の血を濃く受け継いだようでして・・・・・・」
「わかるよ。奇跡が起こせるのだね? アナスターシア自身が奇跡のような素晴らしい存在だから当然のことだろう。私はアナスターシアさえいれば、なんでもできるような気がしているからね」
「そんなぁ、カラハン様ったら、褒めすぎですわ。では、さきほどの生地を返していただいて、これから心を込めてカラハン様の服を縫いますね」
寸法も聞かないで帰ろうとするアナスターシアを、カラハン第一王子は慌てて引き留める。
「ちょっと、待って。私の身体の寸法は? アナスターシアが測ってくれるのだろう? 服は脱いだ方がいいだろうか?」
「えぇ、脱いだ方がいいです。あっ、でも、ちょっと・・・・・・えぇっと、男性の身体は見たことがなくて・・・・・・」
「そうだよね、だったら私の裸を最初で最後にしたらいい。上半身だけなら、今でもこうして脱げるから」
「きゃぁーー。カラハン様。だめよ、だめ、だめーー!」
「アナスターシアになら、どこを見られても、私は構わないよ」
「だからぁーー、だめですってば」
上半身の服を脱ごうとするカラハン第一王子と、それを脱がせまいとするアナスターシアの可愛い攻防戦に飽きてきたジュードは、手をたたきながらその場をおさめた。
「はい、はい、はい。カラハン殿下は奥の部屋に行ってください。この私が寸法を測ります。アナスターシア様はこちらでお待ちください。そうしないと、いつまで経ってもこのままですからね。カラハン殿下が下半身まで脱ぎだしたら大変です」
「下半身・・・・・・そうですわね。ホーゼ(タイツ)も作ったほうがいいわね。トラウザーズの下に、はけばいいわ。ジュード様、カラハン様のホーゼ(タイツ)をお借りできますか? あっ、考えたらカラハン様の服を借りていけば、寸法がわかりますわね」
アナスターシアが解決策を見つけ出し、ジュードがすかさず侍女を呼び、カラハン第一王子の部屋から服やホーゼ(タイツ)を持ってこさせた。
「では、早速屋敷に戻り、作成に取りかかりますわ。カラハン様、楽しみにしていてくださいませ」
嵐のように去って行くアナスターシアを名残惜しそうに見つめながら、カラハン第一王子はため息をついた。
「私の身体の寸法をアナスターシアに測ってほしかったのに・・・・・・」
その瞳はまるで置き去りにされた子犬のように、哀愁を漂わせていたのだった。
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