美大時代の私《懐古》上

暗黒時代の女子高生活が終わり、私は美術系の短大へ進学した。


私の家は、両親だけで小料理屋を営んでいて、忙しい時には私と弟が手伝いをしていた。

専ら女の子の私が接客や配膳に皿洗いなんかを手伝っていたんだ。

中学の頃から手伝いを始めて、その分お小遣いを多めに貰っていたので、周りの友達よりも多く貰っていたの。

中学の時で月に一万円、高校と大学では月に三万円を貰っていたので、ちょっとしたアルバイトをしてるようなものだった。

高校では、学校近くの繁華街に教師が見回りをしていたので、友達と寄り道をして帰るのは難しくて、部活以外で帰りが遅くなることは余り無かったの。

その上、校則も厳しいから頭髪もいじれないし、それじゃあ可愛い洋服でもと、オシャレな服を買っても、その服の上に乗るのは化粧っ気も無くて地味な顔なんだもの、洋服を買う気も自然と無くなっていったわ。

いつかの為に買って置いても、成長期でサイズが合わなくなるし、流行廃りがあるので着れる頃には旧くなってしまうので、洋服もアクセも化粧品も買わなくなってしまって。

使わなくなったお金は、いつかのために貯金をしていたんだけれど、、、


そして、やっとその日がやって来た。


卒業式を終えて、仲の良かった友人達と別れを惜しんだ翌日、私は予約していた美容室で髪をバッサリと切って茶色に染めた。

その足で、ジュエリーショプでピアスを買ったわ。

自宅へ戻ると、直ぐに氷で耳たぶを冷やして、ピアスの穴あけキットを使って耳たぶに穴を明けた。

翌日からは、洋服だの化粧品だのを、毎日見に行っては買うを繰り返して、春休みを過ごしたの。


そして、美術系短大の入学式にはピーマンからやっと脱皮して、完全武装をした私が居たわ。

入学式の後、専攻する仲間達と顔合わせ、徐々にグループ分けが進む中で、私はオシャレな人達が集まるグループに入ることが出来たの。


グループ内では、調子が良くてイケメンな男の子と、乗りの良い美人な女の子が中心になって行動するようになって行った。

私は、自分から率先して前に出るのは苦手だったから、グループ内で決まった事に付いて行ってたわ。

そんな中、乗りの良い女の子がちょくちょく私に話掛けて来て仲良くなっていったんだ。

何だか、私とは話し易いんだって。


やっと、やっと、私が求めた夢のリアル学園ライフが始まった瞬間だった。

髪型もネイルもアクセもお化粧もやり放題、オマケにオシャレな街でお買い物&カフェ巡り。

まぁ、大学生なら当たり前に出来るんですけど、そう言うのはお金が掛かるから現実にはあんまり出来ないんだよね。

それでも、このグループをメインに、飲み会やカラオケに行って、BBQや花火大会を見に行ったりして、充実したリアルを満喫することが出来たんだ。そんなことをしている内に、私はお酒とタバコを覚えたのよね。


そして、私に足りない物が1つだけ残されたの。

それは、自分だけの努力ではどうしようも無い物だった。

そう、それは《恋》それだけが残されていた。


その年の夏休み、家の車や自分の車を持ってる人が車を出して、湘南の海に行くことになった。

私は調子の良いイケメン君が乗って来た赤い車へ、乗りの良い娘と2人で後部座席に座ったの。

助手席には、顔面偏差値は高いけど大人しい男の子が座っていた。

車はポップなミュージックと共に海へ向かって走り始める。


暫く走ると乗り娘(乗りの良い娘)が

「私、イケ男(調子の良いイケメン)と付き合うことになったから」と言った。


「えっ、、、」

と、暫く言葉が出ない私に、


「そうそう、乗り娘と付き合ってんのオレ、そういうことなんでよろしくね。」

って、軽く告げるイケ男。


「海に着いたら皆にも言うけど、あんたには先に言っときたかったんだ。」

乗り娘は少し顔を赤らめて言った。


海の駐車場へ着くと、他の車も既に到着していて皆と合流した。

その日は、2人が付き合った話で持ちきりになった。



帰る時、家の近くの駅で大人し君(顔面偏差値高君)と2人で車から降りると、乗り娘が助手席に座り直したの。

乗り娘が窓を明けて私に手招きをするから顔を近付けると、

「私、今日は帰らないから、あんたの家に泊まったことにしておいてよ。」

と、小さな声で言うと片目を瞑りウィンクをする。

そして、車は走り去って行った。


残された大人し君と私、暫く無言で佇んでいたわ。

すると不意に、大人し君が話し掛けて来て、

「僕達も帰ろうか?」と言われたの。


私はビクっとしてしまって、

「何処へ」と聞いてしまったんだ。


「何処へって、自分の家だよ。」


「へっ、私があんたの家に、、、」


「プッ、アッハッハ、何で君が僕の家に来るのさ」そう言って笑い乍ら駅の方へ歩き出す大人し君。

「またね」そう言って大人し君は雑踏の中へ消えて行った。


家に帰り、ベッドにダイブすると2人のことを考えずには居られ無かった。

今頃、2人は《何を》しているのか?

処女な私は経験が無くて、妄想すら出来ずにモンモンとしながら眠りに落ちて行くのだった。



夏休みが終わり、最初の課題で集まると、乗り娘が私の隣にやって来た。


「久しぶり〜」と声を掛けられる。


私が、

「おはよう」って応えると、


「あの後、大変だったんだよ。アイツってば、張り切っちゃって全然寝かせてくれないんだもん。寝不足で参ったわ、」


あっけらかんと話す彼女に、私は耳まで赤くなって下を向いてしまったんだ、、、


「ネェネェ、お互い初心じゃないんだからさぁ、そんな反応しなくたって、、、ネェ、、、」


「、、、」


「ッ、、、ちょっと、あんたマジで?、バージンなの?、そんなナリして?」


「、、、」


俯いたまま小さく頷く私。


「、、、マジなの!」


そんなシーラカンスでも見るような目で見なくても良いじゃん、、、


そして、私は中学から高校までの経緯を、洗い浚い語ることになってしまうのだった、、、


「ふーん、なら短大デビュー見たいなもんなの?」


「短大デビューって言うな。高校で出来る環境じゃなかっただけなの!」


「それを短大デビューって言うんじゃないの?」


「しなかったと、出来なかったは全然違うから!」


「そうなの?」


「そうなのよ!」


「でもさ、あんた処女なんでしょ」


「、、、」



「ねぇ」(私)


「何よ」


「乗り娘さぁ、今まで何人の男と、そのぅっ、、、し、、、た、、、の、、?」


乗り娘は、ニタァと嫌らしい貌をすると、

「だ・か・ら・何ぉ~」


私は、耳まで赤くなってるが分かった

「だから、エ、ッ、◯、の事だよ」


「いやぁ~、処女は可愛いネェ、こんな話で耳まで赤くなるなんてねぇ」

なんて、いじられてしまったけれど、一呼吸置いてから、真顔で話始めてくれたんだ。


「まぁ、男の経験数なんて聞くもんじゃないし、話すもんでもないけどさ、あんたなら良いよ。」って、


そう言われてハッとした、私はなんてことを聞いてしまったんだろうと、

「ゴメン、やっぱいいや、今のナシで、」

私は、両手の平をブンブンさせて無かったことにしようとしたんだけど、


「あんた真剣に聞きたいんでしょ?茶化して聞きたいんじゃないんだよね。」


私は、首を縦に振っていた。


そして、乗り娘は静かに話し出した。


「私は、公立高校の普通科だったんだけどさ、そんなにレベルの高い学校じやなくて、校則も有って無いようなモンでさ、割と自由に出来たんだ。」


「私の学校はガッチガチだったよ。」


「当ったり前じゃん。だってあんたの学校って結構有名なお嬢様学校なんだよ。良いとこのお嬢が一杯居るのに、変な男にキズ物にされちゃぁ敵わないじゃん。校則が厳しいなんて当然でしょ。」


「、、、、、、そうなんだよねぇ、お陰様で未だに処女なんだよぅ。」


「まぁさぁ、安売りするもんでも無いから良いんじゃん。んでね、私は中学からつるんでた男の子から、高一の夏休みに告白されて付き合ったの。そしてその夏休み中にはロストバージンしちゃったよ。」


「えぇ~、高一で、」


「うん、高一で、興味もあったけど、仲間に自慢したかったんだと思う。」


「そっかぁ、分かる気がするよ。」


「で、冬休みの前辺りのことなんだけど、ソイツが何だかんだ理由を付けて会えなくなってね、クリスマスも用事が有るとか言ってさ、だから女友達と街で遊んでたんだけど、ソイツがホテルから出て来たところに鉢合わせだよ。」


「、、、」


「それがさぁ、ご丁寧にアタシと良く行くホテルでさ、まぁ割引券があるから使ったんだろうけど、その場で別れてやったんだ。」


「、、、大変だったね。」


「アタシは大変じゃないよ。大変だったのはアイツとその女の方、私の友達も皆が見てる前での浮気でしょ、写メも撮られてクラスラインで拡散、女の方は妊娠までしちゃってて、両方共に自主退学だっての(笑)。」


「、、、」


「そんで、暫く男はいいやなんて思ってたんだけどさ、私も男を知った身体じゃん。ふとした時に何で私が我慢しなきゃなんないのって思ってたら、バイト先のイケメン先輩から告られたんで付き合った。」


「、、、あんたも、変わらないんだね。」


「なにが?」


「その性格がだよ。続けて。」


「???、まぁ、そのバイト先の先輩は1個歳上でさ、1年半位付き合ったんだけど、彼の入った大学からだと通えないからって、バイトを辞めたんだよね。それで自然消滅。勿論、お互いに経験者同士だったんで、付き合い始めてから直ぐにやってたよ。」


「何だろう?、その彼とはこう言っちゃいけないけど、あるあるな別れだよね。」


「まぁね、でもさ、段々と連絡の間隔が開いていってね、気が付くと私の方からかしか連絡しなくなってて、彼からの連絡を待ってたら1ヶ月も空いちゃって、そんで学校を昼で早退して大学前で待ってたの。そしたら、女と一緒に出てきたんだ。その時さ、完全に目と目が合ったんだけどね、シカトされたの。」


「、、、そう、、、なんだ、、、」


「まぁ、大学で女が出来たのは仕方無いと思う。納得は出来ないけどね。でも、だったら別れ話の1つでも言って欲しかった。そっちは許せない。多分セフレとして取って置きたかったのかな?それ以降はブロックして連絡先を削除したから分からないけどね。」


「ゴメンね。そんな話をさせてしまって、、、」


「良いよ。あんたの為になるならさ、それにまだ続きがあるでしょ、元カレと別れたのが去年の夏頃で、そして今アイツと付き合ってる。勿論、身体の関係も含めてね。そして、私が言いたいのは元カレ2人と付き合ったことを、決して後悔してないってこと。」


「、、、」


「そんな顔しないで、あんたが聞いたんでしょうに(笑)、最後にあんたへのアドバイス、どんなにトキメイた恋でも別れる時は別れるもんだから、それが女の糧になるの、そして、男と別れた女は皆バージンになるのよ。ある意味、新しい男とは始めてするんだから間違いじゃないでしょ?それにね、知らない方が良いことなんて世の中には一杯あるって、その中の1つがカレカノの前歴だよ。」

そう言いながら笑顔を作る乗り娘だったけれど、その裏には寂しさが見え隠れしていた様に見えた。

だからその時、私は何も言えなかったんだ。


「そうそう、アイツにもあんたが始めてだよ。って言ってあるし、アイツもお前が始めてだよ。だってさ(笑)。」


「ゴメンね、、、」


「そんな顔しないで、こんな話でもいつかあんたの役に立てば良いね。それにそんな顔で謝る位なら最初から聞くなっての(笑)」

そう言って、ニカッと笑った彼女の笑顔には、1つの影も無かったんだ。


そしてその頃の私は、乗り娘の気持ちに分かったつもりになっていただけだった。

なんてことには、気付くことが出来なかったんだ。


そして秋、学祭やイベントを楽しく過ごして、気が付くとクリスマス。

皆とオシャレなお店でクリパをした帰り、大人し君に呼び止められたの。

「少し、時間、良いかな?」


私が無言で頷くと、彼がゆっくりと歩き出すので、私はその後を付いて行った。

暫く歩くと小さな公園があった。

遊具も無くベンチが幾つか置いてあるだけの、誰も人の居ない公園に入ると、彼は向き直り言った。

「僕と付き合って下さい。」


私は、大人し君の後を歩き乍ら考えていた。

告白されるのは分かったけれど、どう応えようか?

断るのは簡単だけれど、一度断わってしまうと次は無い。

彼のことは嫌いでは無く、むしろ好感を持ってすらいる。

それなら、この機会に一歩踏み出してみたい。

そう思った。


私は、私の瞳をしっかりと見つめて、小さく差し出された手を取った。


「宜しくお願いします。」


そして、私は恋を手に入れた。
































 

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