男たちの春

イブ

第1話 終焉の始まり

「あぁ、だりぃな。」

イチャつくカップルを尻目に、長い大学のキャンパスの坂道を登りながら鎌田元気(もとき)は一人呟いた。


今年でもう22歳になる。ダラダラと過ごしている内に大学も4回生になり、進路もまだ決まっていない。周りはポツポツ内定者が出始めているのに、自分はというとエントリーシートすら通らないし、世間的にブラック企業と認知されている会社にも落ちる始末だ。

「くそっ、大学まで来て何やってんだ俺は。」

今日は講義が午前だけだから、終わったら昼間からゲーセンに行ってストレス解消しようなどと考えていると後ろから背中を叩かれた。


男「よぅ、なに暗い顔してんだげんき。」

俺「あぁ、神谷か。全然気づかなかったよ。」

げんきというのは俺のあだ名だ。最初は戸惑ったが今はすっかり慣れ少し気に入っているくらいだ。

思えば高校まではずっとイジメに遭っていた。性格もおとなしい上に名前が鎌田で、誕生日が男の子と女の子の日の間の4月4日ということで、周りからはオカマ田と呼ばれていた。

小学校低学年までは女子とつるんでいたが、そのうち女子からも見下されるようになった。そのせいで女性恐怖症に悩まされ、異性との交際経験がない。未だに童貞である。


神谷「今日終わったらさ、飲みに行かんか」

俺「すまん、今日ちょっと用事があって…」

思わず断ってしまった。

神谷「そうか、すまん。忙しいよな。まぁ、でもそんな焦ることないぞ。まだ4月だし、まだまだチャンスはあるって。」

俺「うん、ありがとう。」

神谷は去年の暮には上場企業に内定が決まっていた。今年、交際相手の山田明子(はるこ)の誕生日にプロポーズするつもりらしい。


神谷が俺を気にかけてくれているのは有り難いが、同情されているような気がして、俺なんかより恋人と時間を過ごせばいいのにとか考えてしまう。俺も恋人を作ろうと元気は思った。しかし、女性恐怖症な上にコミュ障な俺はどうやって作ればいいかわからない。


俺「神谷はさ、山田さんとはマッチングアプリで出会ったんだよね。」

神谷「まあな。最初は遊びのつもりだったんだけど。意外と出会いはどこにあるかわからんな」

俺「遊び…か。神谷はすごいな。」

神谷「おいおい、元気だってやりゃいいじゃねえか。」

たしか前に紹介してもらったが、本人認証システムでサクラが少ない代わりに、男は会費(システム利用料)とメッセージ送信代にかなりお金がかかり続かなかった。

俺「ちょっと考えてみる。」


その日は1日中ぼぉっとしていた。講義も耳に入らないし、何気なく6ちゃんねるの掲示板で暇つぶししていると、えっちな広告が目に飛び込んでくる。必ずヤレるアプリ。絶対怪しいだろと思いながらリンクを踏んだ。必要事項を入力して送信、この際恋人じゃなくてもせフレでもいい。もうどうにでもなれこんな人生。

その時はこの後に起こることなど知る由もなかった。

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