居眠りの森
そして、教壇に立つ先生の様子を伺いながら、机に突っ伏して眠った。黒板には白いチョークが小気味よい音を立てながら、教科書の中身をそのまま写しただけの数字や文字式を、まるで自分がオリジナルであるかのように装って書き続けている。
森には、その字がこの教室に存在する必要性を感じなかった。内容は教科書をめくれば書いてあるし、先生の声も至って単調で、やはり教科書に書いてあることをそのまま喋ればそれで自分の仕事は完了、といった熱意の感じられないものだった。
森は、熱意のないものが嫌いだった。
どれくらい眠っていたのか、森には分からなかった。授業が終わるまでは寝ていよう、とぼんやり意識して目を瞑っていたのだが、彼はまさに、これからレム睡眠に入ろうといった具合で眠りの霧に迷い込んでいたのである。
そばを通りかかったフェリが、森のフサフサした頭を何度か叩いた。
「痛てぇっ」
「……兄貴。次、体育だよ。もうそろそろ着替えないと間に合わない」
フェリはもう白いシャツと、紺色のハーフパンツに着替えていた。腕や脛の辺りからアフリカンな黒い肌が現れている。NBAプレイヤーのような屈強な肉体はそこになく、いつ風にへし折られてもおかしくないような、か細い古枝のようだった。
教室には、森とフェリ以外に生徒はいなかった。
「え、もうそんな時間か?」
森は窓の外を見た。いつもクラス内で見かける面々が、すでに体育教師の前に整列して始業ベルを待っていた。
「あの先生のことだから、遅刻したら、放課後に罰走とかさせられるかもな」
「なんでもっと早く言ってくれないんだよ!?」
森はその場でTシャツとデニムのズボンを脱いで下着姿になってから、慌てて教室の後方にあるロッカー内に体育着を探した。
「フェリも早く行きなよ。罰走になるんだし」
「俺はちゃんと、先生に相談してある。『森君の様子を見てきます』ってね」
「おいおいおい! マジかよー……」
森がうなだれたところで、始業ベルが高々と鳴った。
「じゃ。俺は授業に混ざってくるから」
フェリは臭いものに蓋をするように、教室のドアを閉めて去っていった。森は体育着の入ったビニール袋を抱えたまま、口を開けて呆然とするばかりだった。
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