完全無欠な美少女!!実は不器用?!

式田かず

第1章

第1話 出会いは突然に。


………。


「……大丈夫か…?!」




上田結仁うえだゆいと東雲茉白しののめましろの関わり初めは、残暑が残るある秋の日道端でへたりこんでいた茉白を助けたのが始まりだった。




今年から高校デビューし、親元を離れ一人暮らしを始めた高校一年生。結仁の通う高校には一際目立った同級生が。東雲茉白、十全十美で凛としながらもあどけない少女だ。




薄群青に煌くストレートの純白な髪に淡く輝き艶めいたブルーベースの柔らかい肌。素晴らしく綺麗な鼻筋に、誰もが見惚れる甘いフェイスライン。クールな印象と対称的に、儚いあどけなさを感じさせる柔い唇。長い睫毛に囲われたエメラルドにひかる金色の瞳は彼女の落ち着きと静かに楽しさを引き立たせる。



そんな容姿端麗な姿と共に華奢な身体からは考えられない抜群な運動神経の持ち主であり、それでいて成績優秀。



周りからの評判は言うまでもない。

それに完全無欠な彼女は言わずもがなモテる。




結仁はそんな茉白となんの接点もなく噂程度でしか聞かないのにも関わらず、誰の目にも留まる存在であることは認識している。


結仁にとっても魅力的に感じない訳もなく、だからといって恋愛感情とは全く無関係で些か烏滸がましいが目の保養程度に思っている。




「大丈夫か……?!」


そんな茉白は今目の前で、道端でへたりこんでいるのだ。


「お気になさらず…。私は大丈夫です。。」


今にも消えそうな声で呟く。


「いや大丈夫じゃないだろ……。」


「大丈夫ですから。」


そう言って茉白は立ち上がるが、


ふらっ……


と身体が傾きまた地面に崩れ落ちそうになる。


(この残暑だし、熱中症か…)


そんなの見て見ぬ振りは出来ない。


「……危なっ、。」


咄嗟に茉白の腕を掴む。

何が起こっているのか分からない茉白は虚ろな表情で、


「……すいません……ありがとうございます。」


と、途切れ途切れに一言。


結仁は茉白の腕から手に掴み直し、引っ張り上げると思った以上に軽く驚きを隠せないが、引っ張った勢いで見上げた茉白の顔を見る。

顔色がますます悪くなっていることに更に驚く。


「しっかりしろ…?!」


「大丈夫です…。少し休めば治るので……。」


心配になるが、それでも大丈夫だと茉白は言う。


「……家まで送るよ。」


「えっ。家までって…。」


茉白が少し涙ぐんだ金眼の奥が曇っている。そんな彼女はいとも簡単に人を貫いてしまうような目付きをした怪訝な顔で見つめる。


そんな表情に結仁は少しばかり苦笑しながらも、警戒するのも仕方ないと自分に言い聞かせた。


確かに、同じ制服着た知らない男が家まで送らせろと言っているのだ。警戒しない方がおかしいだろう。


「いや、決してやましい気持ちはない。東雲さんが心配だから家まで送らせて欲しい。」


「…。」


茉白の表情は変わらない。


「とりあえず、このスポドリやるから、飲めよ。」


結仁は切り替えるようにそう言って、帰りに買ったスポーツドリンクをカバンから取り出し蓋を開け、茉白に手渡した。


とにかく、結仁は引き下がるわけにはいかなかった。

茉白は見るからに体調が優れない。

このまま放っておくなんてこと自分の性格上、出来る訳ない。


「あ、そういえば、自己紹介…。俺、上田結…」


「…お名前は存じ上げています。隣のクラスの上田さんですよね…?」


スポーツドリンクを飲んで、ふぅーっと息を吐きながら言う。


まさかこんな俺ごときが覚えられているとは…。

これだけ光栄なことは無い。


「なんで名前を…?」


「確か、学級委員で一緒でしたよね…?それぐらい、人の名前は覚えていますよ…?」


きょとんとした可愛らしい顔に体調が優れない辛さが滲み出ている。


あっ、そうか、学級委員で一緒だったっけか。


…というかこんな話をしてる場合じゃない。

茉白の顔色がどんどん悪くなっている。


「そうだ。そんなことより家まで送ってくよ。」


「いえ……悪いです……大丈夫です……。それに急いでるんですよね、?」


もう言葉で抵抗する気力もないようだ。


「いいから、送るから。それに別に急いでないから。」


「で…でも、、」


「そんな状態じゃ歩くことも出来ないだろ。これ被って。東雲さんだってバレたらまずいだろ。」


と茉白に咄嗟に取り出したジャージの上着を被せる。茉白を背負っている結仁が学校の同級生にでも見つかれば、次の日の学校では必ず袋叩きにあうことぐらいわかっていての事だ。


「なんで、これを…?」


急に被さった上着に驚きながら聞く。


「東雲さんの立場的に背負われてる姿見られるのは何かとまずいだろ?」


納得した茉白は慌てるように上着を上に被り、


「んん、、こんなお気遣いまで、、」


そう言って茉白を背負い歩き始める結仁。

そんな結仁に抵抗を諦めたのか茉白は小さくなって大人しく背負われた。


茉白は何やら小さな声で何かを呟いている。


そんなこんなで言われる通りの道順を辿り、茉白はようやく着いた目的地を前に背中でぐったりとしていた。


「ここで大丈夫か……?」


「はい……すいません……。」


茉白の家はマンションの最上階だった。

しかも結仁と同じく一人暮らしらしい。


(ん?待て。俺と同じマンション?)


やっとの思いで辿り着いた茉白の家は結仁が今、住んでいるマンションと同じだった。

それも自分の住んでいる階のちょうど上だ。


(帰り道が違うだけで見たことある景色だと思ったら…。)


自分の中で驚きを隠しつつ、部屋の前まで送ることにした。

エレベーターに乗り込むと、


「ほんとすいません……ここまでしていただいて……。」


茉白が背中で縮こまるのを感じた。


「謝るなよ。別に大丈夫だよ、これくらい。」


「……お優しいですね……。」


「そっ……?!」


そんな一言を茉白に耳元で囁やかれ耳に吐息が、、、。


胸がドキドキする結仁は、それを誤魔化すように話題を振る。


「とっ、とりあえず部屋まで送るよ…!」


「……はい、ありがとうございます……。」


そして茉白の部屋の前まで着くと、


「鍵を……。」


「あっ……もうここで大丈夫ですっ!」


そう言って降りるが、その足取りはふらふらと覚束ずまた倒れそうになってしまう。


「大丈夫じゃないだろ……!」


「…ほら、鍵貸せ。…。少しだけ、邪魔するな」


結仁は鍵を開けドアノブに手を掛け扉を開ける。

茉白を抱き抱え部屋に入った。


少し散らかった部屋で、茉白でも片付けが苦手なのかと意外に思いつつ、プライバシーもあるだろうし、あまりジロジロ周りを見ないように気をつけた。

そして寝室に。


(うわ、ダメだ。すっげぇいい匂い……)


シンプルなベットにはシーツの上に枕を囲むように置かれたたくさんのぬいぐるみ。すぐ隣にルームランプ、作業机。収納棚にはバラバラに詰められた服が。


鼻孔をくすぐる匂いに動揺しながらも茉白をベットに座らせる。


「ごめんなさい……お手間をお掛けして……。」


とても申し訳なさそうに力のない声で言った。


「いや、良いんだ。俺が勝手にやってるだけだから。」


ぼーっと寝室を見渡していると

茉白は急に色白な顔を急に真っ赤にして、


「っ…!!あまり部屋を見ないでくださいッ!」


「あっ!悪いっ!!……っておい?!」


茉白は力なく倒れたので、結仁は支える。


「おいおい……しっかりしろ……。」


「……すいません……少し寝ても良いですか……?」


と辛そうな表情で俯く。


「あぁ……もちろん。逆に寝てもらわないと困る。」


茉白はそう言うとそのままゆっくりと目を閉じた。すぐに寝息を立て始める茉白の横顔を見つめる結仁。


とても致し方ないことなのは分かっているが…、


…なんて無防備な。


茉白という美少女の顔がつくりだした寝顔のあどけなさに流石と言わんばかりの顔立ちの良さを感じずには居られなかった。

そして今こうして、こんな形で茉白と関わることになるとは思いもよらなかったと思い返す。


「…。」


少し安堵した様子で見つめる。

しかし今はそんなことを考えている場合ではない!致し方ないとしても、男が女子の部屋にだなんて普通によろしくない。


ハッと思い出し目を部屋にあった壁掛けの時計にやる。


午後6時半過ぎ。


(こんな時間だし晩飯の作り置きでもしておくか。)


だからといって勝手にキッチンを使わせてもらう訳には行かない。


(あっ、そうだ。昨日の俺の家に作り置きがあったはず。)


と自分の家にに取りに戻り、入れ物に入った昨日の作り置きを茉白の冷蔵庫に入れた。


置き手紙に作り置きが冷蔵庫に入ってるから温めて食べることと入れ物は茉白に譲る事、万が一のために必要なものは揃えて置いておくことの旨を書いた。


「これでよし……。」


結仁は茉白の家に揃えられるものは揃え、何も無かったかのように自分の部屋へと帰るのだった。


(まさか東雲さんが上の階の住人だったとはな……。)


今日あったことが嘘みたいに感じたが、どうせ茉白とはもう縁はないだろうと自己完結していた。


この時まで結仁は茉白と関わるのが今日が最初で最後だと思っていた。

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