SS1-4. 夢見る枕は並行世界を見せる(ムツキとナジュミネ その4)

 ムツキとナジュミネは、夢見る枕によって異世界に意識だけを転移させて、「もしもナジュミネがムツキを独り占めできたら」という異世界へとやってきた。


 服装は2人とも寝た時の格好で、ムツキは紫の上下揃ったパジャマと同色のナイトキャップ、ナジュミネは長い髪をサイドテールにしてまとめており、さらに黒いタンクトップにピンクのドルフィンパンツという扇情的な出で立ちである。


「…………」


 ここに来る前、ムツキは自信満々にこの「もしもの世界」に来られないだろうと高を括っていたが、どんな世界も可能性があるという事実に打ちのめされていた。


「旦那様……そう悲しい顔をしないでほしいな。妾はこの世界に来られることができて嬉しくてたまらない」


 ムツキは体育座りとも呼ばれる三角座りになって、大きめの岩の陰で誰が見ても分かるくらいにしょんぼりとした様子で、ぶつぶつと誰にも聞こえないような小さな声で呟いていた。


 ナジュミネは自分がムツキを独り占めできる世界もあったことに嬉しさを覚えつつ、しょげてしまっている彼を見てはしゃぐこともできずにそっと優しく背中から彼を抱きしめている。


 ぎゅっとしてくる彼女の温かさと少し寂しそうな彼女の声に、ムツキは彼女が望んだ世界なのだと再認識して、落ち込んでいたことを少し申し訳ないと思い始めていた。


「あぁ……そうだよな……すまない。ユウに見捨てられたショックが大きかったが、ナジュに独り占めされているっていうなら、ナジュのおかげでこの世界も楽しめそうだと思ったよ」


 ムツキはナジュミネの方に身体を向けて、彼女が彼にしたように、優しく彼女を抱きしめた。さらに、彼が彼女の髪を梳くかのように頭を優しく撫でると、嬉しいのかくすぐったいのか、彼女は照れた笑い声を漏らす。


「んふふ……旦那様、ありがとう」


 ナジュミネがすっと目を瞑って、唇を少しだけ突き出してキスをせがむような雰囲気を出し始めたので、ムツキは頭を撫で続けながら彼女に顔を寄せにいく。


「とんだ茶番をお楽しみのとこ悪いけど、そろそろいいかい?」


 真上から少年の声が聞こえてきたため、ムツキはナジュミネにキスをせずにバッと上を向く。


「うわっ! ん? ……小さいレブテメスプ?」


「大正解! ボクが夢見る枕にインプットされている夢の水先案内人、夢先人とも言えるよね。レブテメスプじゃ長いから、レブでいいさ。ただし、本物オリジナルには内緒な?」


「むぅ……」


 自身を夢先人と呼ぶレブテメスプの小さなコピーことレブがムツキの言葉を聞いて、どこからか取り出した小さなくす玉を開く。


 ナジュミネは邪魔された怒りからか、はたまた、見られていた恥ずかしさからか、自分の髪の毛と同じくらいに顔を真っ赤にして、ムツキの胸板に顔を埋める。


「レブか。よろしくな。ところでまだよく分かっていないんだが」


「ん?」


 ムツキはナジュミネの頭を撫でながら、レブにふとした疑問を投げかける。


「俺たちはここだと何なんだ? 見た感じ、若干薄いから、肉体がなさそうな感じだけど……」


 レブはムツキの言葉を聞いて、再びどこからか取り出した小さなくす玉を開く。


「大正解! 意識だけが異世界に来ているからね。といっても、この世界の君たちとは別の存在だから、ほぼ見るだけだよ」


「ほぼ見るだけ? ほぼということは何かできるのか?」


 ナジュミネはレブの言い回しに引っ掛かったのか、ムツキが何かを言う前に自分の疑問をレブに訊ねてみる。


「正確にはこちらの世界の自分に話しかけることだけができるのさ☆ よくある表現で説明するならば、まあ、今の君たちは脳内の天使と悪魔みたいな感じ」


「なるほどな。その能力を使って、ミッションをクリアするんだな?」


「大正解!」


 レブのくす玉が開く。正解するたびにくす玉が開いて、開かれっぱなしで放置される。


「ちなみに、今回のミッションは?」


「そうそう、今回のミッションは、ムツキとナジュミネ、あー、分かりづらいから、夢ムツキと夢ナジュとするけど、その夢ムツキと夢ナジュをくっつけることがミッションさ☆」


「え? まだ一緒じゃないのか? でも、旦那様も村にいるのか?」


 レブはニヤリと意地悪そうな笑みを浮かべていた。


 ムツキもナジュミネも嫌な予感がして、お互いに顔を見合わせている。


「まあまあ、それは見てからのお楽しみさ☆ ほら、村に入って、入って」


 ムツキとナジュミネはレブに勧められるがままに鬼族の村の中へと入っていく。2人は注意深く様子を窺うが、自分たちの世界と比べて、特に目立った違いがないと思い始める。


 そのとき、遠くから人影が声を張り上げつつ、彼らの方へと近付いてくる。


「もー、お兄ちゃーん、どこー?」


 声の主は、この世界のナジュミネ、夢ナジュだった。

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