第155話

 ちょうどラム達が初めての護衛依頼兼ランクアップの試練をこなしている中、王城では一人の女性が一人の男性へ悲痛な表情をして詰め寄っていた。


「カロンが居なくなって、もう二日が経ってるのよ!? そろそろ本格的に騎士団を動かすべきだわ!」


 その女性……ソティリス・フーラは男性……自分の夫であるソティリス・ロングに向かって必死な様子でそう言った。


「フーラ、大丈夫だ。カロンが家出をするのはいつもの事だろう」


 だが、この国の国王、ロングはフーラとは反対に冷静だった。

 心配をしていない訳ではもちろん無いだろうが、カロンが帰ってこないことをまだいつもの事、と思っているようだった。


「で、でもっ、二日よ!? いつもはもう帰ってきていてもいい時間じゃない。……それにこの前帰ってきた時はあの子を助けてくれたという女性が居なかったら、危なかったっていうじゃない。そう何度も助けてくれるような人と出会えるほど、世の中は甘くないわ」


 一旦呼吸を挟み、フーラは続ける。


「確かに、騎士団を本格的に動かせば、こんなことで本格的に騎士団を動かすなんて、と思うような貴族は出てくるかもしれないけど、私たちにとっては【こんなこと】なんかじゃないでしょ!?」


「……う、む」


 フーラの言葉を聞いたロングは悩んでいた。

 

「最近、ルファ伯爵が治める街のギルドが僅か一日にして崩壊したらしいじゃない。個人でやったとは思えないし、組織的な犯行だとは思うけれど、ルファ伯爵の治める街は王都からそう遠い訳でもないのよ。……どこの組織かは分からないけど、ギルドを崩壊させるなんてこと、どこかから多額の報酬を受けてやったに決まってるわ。そうじゃなければ、ギルドに喧嘩を売るメリットが分からないもの」


「そ、それは確かに余も分かっているが、そ、それがどうしたというのだ?」


 フーラの迫力に押されてきたロングは何とかそう言う。

 ロングは国王としては無能な訳では無いが、妻の尻には敷かれているようであった。


「……私たち以外から見ても、王族の子供と言うだけで、カロンには価値があるわ。もしもギルドに喧嘩を売っても全く問題が無く、たったの一日でそのギルドを崩壊させられるようなどこかの組織にカロンを殺す、または誘拐するように依頼がされてたらどうするの!? 早く! 騎士団を動かしなさい!」


「……り、了解した」


 そして、遂に妻の……フーラの迫力に負けてしまったロングは頷いてしまった。

 ロングとて、まさか本当にフーラに言われた組織がそんな依頼を受けているとは思っていなかったが、万が一ということはある、と理解させられたのだ。


「……私は私に出来ることをするために、先ずはルファ伯爵から上がってきている報告を改めて見てくるわ」


「う、うむ。余も、騎士団の方へ直接行ってこよう」


「お願いね。……後、カロンが帰ってきたら、一緒に叱るのを手伝ってね。もう、これからは家出なんてされないように、直属の護衛も付けるわよ。……全く、もっと早くそうしておくべきだったわ。……あなたが男の子なんだから、窮屈にしすぎるのも問題だろう、なんて言い出すから、こんなことになったのよ?」


 フーラとて、何だかんだ言いつつ、心配はしているものの、本気で自分の最愛である息子に何かがあったとは思っていない。

 人間とは、何事も都合よく考えてしまう生物なのだから。


 フーラはロングが自分から逃げるように部屋から出て行ったのを確認した後、フーラ自身も動き出した。

 

 そして、数時間後。

 そこまで重要では無いと判断され、埋もれてしまっていたルファ伯爵からの報告書に書かれた女性だったのか、男性だったのかが分からなかったという人物に王妃として国王を支えていたフーラの直感が目をつけたのだった。

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