第143話
夕食を食べている間、小狐……はまぁいつも通りだったが、ミリアはずっとソワソワした様子だった。
……告白をしている訳だし、無理もないことなんだろう。
ただ、そのせいでせっかくいつもはミリアに押し付けられていた小狐の世話を俺がすることになったことにだけは納得がいかない。
「宿に帰るってことでいいんだよな?」
色々言いたいことを置いておいて、俺はそう聞いた。
「……えっ? う、うん。それでいいわ」
ミリアはまだめちゃくちゃ緊張している様子だ。
反対に俺はびっくりするくらい緊張なんてしていなかった。
まぁ、当たり前といえば当たり前だと思う。
だって、俺は告白してる側じゃないし、これからミリアに話そうとしている内容だって別に受け入れられようが受け入れられまいがどっちでもいいしな。
緊張なんてする方がおかしい。
そして、宿に戻ってきた。
……それ自体はいいんだが、娼館に行けなかったことが今更ながらに腹が立ってきたな。
もしもあそこでこいつらに見つかってなければ、俺は今頃俺好みの人と一緒のベッドに入ってただろうに。
……はぁ。まぁ、今更言っても仕方ないし、結局最終的にミリア達と飯を食う選択をしたのは俺だし、もういいや。
明日以降でも別に行こうと思えば……いや、ミリアが俺たちから離れるという選択をしたら、行けないのか。……そう思うと、緊張では無いけど、ちょっとだけミリアに受け入れて欲しいという思いが出てきたな。
「で、どうするんだ?」
「ど、どうするって、何がよ。……ら、ラムが何か話しをするんでしょ? そ、それで、その後、返事をするんでしょ……?」
「まぁ、お前が話を聞いた上でも俺のことを好きだって言うのならな」
「な、なら、早く話しなさいよ」
一応、先に風呂に入る可能性も考えて聞いたんだけど、余計な世話だったらしいな。
……じゃあ、さっさと話すか。こいつが良くても、俺は早く風呂に入りたいし。
想像以上に昨日入った風呂が気持ちよかったんだよな。
────────────────────
そして、俺はミリアに全部を話した。
ミリアはちゃんと俺が話を終えるまで、黙って耳を傾けてくれていた。
どうでもいいことだけど、その間、小狐はベッドでゴロゴロしていた。
「そ、それで、返事はどうなのよ」
「は? いや、もう少し何か言うことがあるんじゃないのか?」
「言うことって何よ」
「……俺への気持ちが変わったとかさ」
「馬鹿にしないでよ。別に変わんないわよ」
ミリアは顔を赤くしつつ、俺が話をする前と同じように緊張したような面持ちでそう言ってきた。
えー……冗談だろ?
今の話を聞いて、気持ちが変わらないなんてこと有り得るか?
「あっ、強いて言うなら、あんたがスライムだって言うことは疑ってるわ。スライムが人化するなんて聞いたことないし」
「……狐が人化することは聞いたことあるのか?」
「…………早く返事を聞かせなさいよ」
無いんだな。……まぁ、分かってたけど。
「俺たち、合わないと思うぞ?」
一つ溜息をつき、俺はそう言った。
人間であろうとしているミリアと、人の心を捨て、魔物になった俺。
どう考えても、上手くはいかないだろうしな。
「……どういう意味よ」
「そのままだよ。お前、前に言ってただろ。魔物になっても、心は人間でいたいみたいなこと。……俺はその真逆だから、合わないって言ってるんだよ」
「別に、もう私だってラムと同じで人間の事なんてどうでもいいから、大丈夫よ。……むしろあんたの話を聞いて、安心したくらいだし、あんたも私と同じなんだって知って、更に……その、好きになったわよ」
俺に合わせようとして言ってるだけじゃないのか?
そう疑ってしまうのも、仕方の無いことだろう。
「そ、それより、早く返事を言いなさいよ!」
返事って言われてもな……俺、信じられてないし。
「……お試しって事でいいなら、まぁ、付き合ってみるか?」
多分、微妙な顔をしながらもそう言うと、ミリアは顔を赤くしたまま「そ、それでいいわ。絶対、惚れさせるから」と言って、頷いてくれた。
俺が誰かに惚れること……はまぁありそうではあるけど、ミリアは無いと思う。
顔はともかくとして、体型が俺の好みとは真逆だし。
ま、話は着いたし、取り敢えず、風呂にでも入るか。
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