第133話
「あなたはここで待っていてください」
「分かりました」
そして、豪華な扉の前に着いたかと思うと、カロンは着いてきていた騎士にそう言って、少し離れた場所に待機させていた。
「失礼します」
騎士が離れたのを確認したカロンは扉に数度ノックをして、部屋の扉を開けた。
中から返事が来てないけど、大丈夫なのか? ……まぁ、家族だろうし、その辺は寛容なのか。
「失礼します」
そう思いつつも、俺も一言そう言って、カロンから一歩下がるようにして部屋の中に入った。
頭を下げているから分からないけど、見られている……気がする。
「カロンよ、一応聞いておくが、何があった?」
「…………ごめんなさい、お父様。……その……ちょっと、気分転換がしたくて、また、家出をしてしまいました」
……ん? ……ちょっと待て、今、またって言ったか? え? 何? こいつ、頻繁に家出してるの? 意味分かんないんだけど。
てか、気分転換がしたくてって……部外者の俺がいるから、適当に嘘をついてるのか? いくらなんでも、権力者であろう人の息子が本当にそんな理由で家出なんてするはずないだろうしな。
「はぁ。……まぁ良い。余ももう慣れた。今はカロンがいつも通り無事に帰ってきてくれたことを喜ぼう。……して、其方の者は?」
……多分、俺かな。
まだ頭を下げてるから、分かんないけど、この状況で俺じゃないってことは無いだろう。
「は、はい。この人はラムお姉……ラムさんって言って、僕を助けてくれた人です」
……父親に対しても俺は恩人って設定で行くのか?
いや、そっちの方が俺にとっては都合が良さそうだし、カロンが自分で言い出した事だし、訂正する気は無いけどさ。
「スキルの時間管理を失敗してしまいまして、人に見つからないように隠れていたところ、ガラの悪い人達に見つかりそうになってしまい、もうどうしようもない、と思っていたところをラムさんは助けてくれたんです。だから、僕の命の恩人なんです」
「ふむ」
嘘をつく時は少しだけ真実を混ぜればいいってやつか? ガラの悪い奴ら……チンピラに絡まれてたのはカロンじゃなくて俺だからな。
……と言うか、それより、今こいつ、スキルって──
「ラムと言ったか?」
「は、はいっ」
そうして、色々と頭を回していると、カロンの父親であろう人が俺に話しかけてきた。
権力者であることは間違いないし、変に思われないよう、緊張したように声を上ずらせながら、俺は返事をした。
「そう緊張せずとも良い。それに、顔も上げて良いぞ」
「は、はい、分かりました」
そして、顔を上げた。
すると、そこにはいかにも権力者って感じの髭を生やした老人が豪華な椅子に座り、俺に視線を向けていた。
「カロンを助けてくれたこと、感謝する」
頭は下げられなかったが、そこには確かに感謝の気持ちがこもっている気がした。
「い、いえ、たまたま、ですから。……そ、それより! ひ、一つ聞いてもよろしいでしょうか?」
「もちろん構わない」
「そ、その、カロン様は立場あるお方、ですよね?」
「ふむ……そうだが、それがどうした?」
何か一瞬考えるような素振りをして、老人は俺の言葉に頷いた。
「でしたら、な、なんで、家出なんてことが出来るのでしょうか? ……その、この城から誰にも見つからずに抜け出すことなんて、不可能だと思うんですけど」
「うむ……そうだな、それは……カロン、お主が構わぬのなら、教えてやりなさい」
「はい、お父様。……ラムさん、僕を見ててください」
言われた通り、俺はカロンに視線を向けた。
すると、その瞬間、カロンの姿が宿の鏡で見た俺そっくりに変身していた。
……相手の姿をコピーするスキルか何かか? ……てか、そんなことをされたら、俺の下半身にあれがあること……がバレるのはどうでもいい。それよりもっとバレたら不味いこと……スライムだってことがバレるんじゃないのか!?
その考えに至った瞬間、俺はこいつらにバレないようにいつでもこの二人を殺せるように少しだけ身構えた。
「えっ? わ、私……?」
「はい、これが僕のユニークスキル【変身】です。……知っているのは僕の家族だけなんで、言っちゃダメですよ?」
「そんなの、私に教えて良かったの? ……あ、あれ、と、というか、も、もしかして、そのまま服を脱いだら、わ、私の裸とかも……」
「えっ? あっ、そ、そこは大丈夫ですよ! あくまでこのスキルは僕が知っている情報までしか真似することは出来ないので! 僕の分からない部分は僕の想像で……ぁっ、ご、ごめんなさい」
顔をこれでもかと言うくらいに赤くしてカロンがそう言ってきた。
ふーん。なら、俺がスライムだってことがバレる心配は無いってことか。
……と言うか、ユニークスキル、変身、ね。
欲しいな。……俺の強奪スキルでユニークスキルを奪えるのかは分からないが、もしも奪えるのなら、何がなんでも、欲しいな。
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