第128話
「それで、君はこんなところで何をしているのかな?」
未だに顔を赤くして恥ずかしがっている様子の少年に向かって俺はそう聞いた。
正直誤解も解けたし、少なくとも今はこいつを殺すメリットも無いと思うから、このまま立ち去っても良かったんだけど、こいつの身なりがな。
ここで雑に扱うことで後々何か問題が起きるかもしれないし、一応、だ。
「あっ、えっと……ぼ、僕は……あの……」
めんどくせぇ。
早く言えよ。
……こいつを見てると、小狐って子供だけど話しやすいやつだったんだなって心の底から思うよ。
そしてこの少年はそれを恥じた方がいいと思う。
あいつ、魔物だし。
「ゆっくりでいいよ」
いつもミリアが泣きそうな時に掛ける声よりも更に優しく俺はそう言ってやった。
もしも俺がスライムじゃなかったら、今頃全身に鳥肌が立っていたことだろう。
「う、うん」
うん。じゃなくて、早く何でこんなところに居たのかを言えよ。
……もうこんなやつ放っといて、路地裏を後にしようかな。
はぁ。……でもなー、問題が起きるかもって理由以外にも、こいつに恩を売ることでこいつの親……貴族だかかなり裕福な商人かは知らんが、自動的にそっちにも恩を売れて、何らかの利益に繋がると思うんだよな。……例えば、俺があの街みたいに何かをやらかしてしまった時、ある程度隠蔽してくれるとかさ。……分からんけどな?
まぁ、とにかく、こんな所に子供が一人で居るくらいだし、絶対に何らかの問題は抱えていることだろう。
気を長く持って待つか。その問題を解決出来るかは分からないけど、聞かないことに始まらないし。
「ぼ、僕、い、家出してきたんだ!」
……家出? なんてくだら……いや、その家出をした理由を聞くまでまだなんとも言えないか。
「なんで家出をしたのかな?」
「……な、何となく」
つまり、教える気は無い、と。
まぁそうか。
良く考えれば、一般人である俺に教えてくれるはずないか。
そもそも、俺に信頼も無いだろうし、いくら子供とはいえ、自分の問題をそうそう他人に話したりしないか。
「そう。それで、どうするの? 今なら、私が君のお家まで送って言ってあげるけど?」
「え? ……あ、う、うん。な、なら、帰ろう、かな。お父様も、お母様も心配してるだろうし……」
えぇ……帰るなよ。
俺、どうせ帰らないだろうなって思いで言ったんだぞ?
……はぁ。仕方ない。頷かれてしまった以上、割り切って親に恩を売れるとでも思おう。
「なら、行こうか。場所は分かるんだよね?」
「う、うん。ここを出たら、直ぐに見えるよ」
ここを出たら直ぐに見える? ……ここから近いのか?
仮にそうだとしたら、こいつが子供なことを考えると家出をしたばかりってことになるから、到底親が心配してるとは思えないんだが?
そもそも、この近くにこいつの身なりに合うような家があったか?
……分からん。
分からん、けど、路地裏を出たら分かることか。
「なら、早く行こうか」
そして、名前も知らない子供と一緒に路地裏を出た。
相変わらず俺を襲ってきた男たちの死体は放置して、だ。
「それで? 家はどこかな?」
「あそこだよ」
そう言って指を指す先には、この街に入った時……いや、入る前から見えていた城があった。
「は?」
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