第119話
「…………」
朝になってしまった。
……まだ二人とも起きてないとはいえ、俺、ミリアのキス一つでどれだけ悩まされてるんだよ。よく考えろよ。高々ただのキスだろ? ……しかもキスじゃない可能性まであるキスだ。
頭の中で色々と言い訳をしつつ、そのまま二人を起こさないように体の向きを変えた俺は、ミリアに抱きつかれていない方の腕を小狐の体と耳の上にゆっくりと置いた。もちろん絶対に起こさないように、だ。
……もふもふだ。
こんな俺でも、心が癒される気がする。
小狐は子供だからか、体温も暖かいし、そういう意味でも気持ちが良かった。
一応、小狐の上に置いていない手はまだミリアの頬っぺたに当ててあるし、小狐の方がミリアより暖かいことがよく分かった。……これに関してはめちゃくちゃどうでもいいけど。
そんなことを思っていると、ミリアの瞳が開いた。
今度こそ理性を失って襲ってくると思った俺は、頬っぺに当てていた手をミリアが噛みやすいように口元に移動させてやった。
いつもは腕だけど、別に手だって問題なんて無いと思ったからこその行動だ。
「んちゅむ」
噛まれ……ん?
俺の指がミリアの口の中に入れられた。
そこまではいい。元からそのつもりだったし。
ただ、なんで噛まない? ……いや、噛まない以前に、何故舐める? ……俺の指を舐めてる、よな? これは絶対勘違いとかじゃないぞ。
「……ッ」
そんなミリアを冷めた目で見つめていると、俺が見つめていることに気がついたミリアは体をビクッ、とさせたかと思うと、顔を赤くして、思い出したかのように俺の指をいつもより優しいながらも血が出るように噛んできた。
いや、嘘つけよ。
お前、今明らかに理性を保ってただろ。
まぁ、一旦そのことは置いておこう。
それより、なんでミリアが理性を保っているのかでも考えてみよう。
一緒に眠ることによって何かが変わってる? 人肌、とかか? ……いや、俺って体温とかあるのか? ……自分じゃあんまり分からんし、それに関してはなんとも言えないな。
ミリアに聞く訳にもいかないし、小狐に聞くのは論外だし。
「……お、おはよう、ラム」
俺の指から血を舐めたミリアは、何事も無かったかのように俺の指から口を離して、そんなことを言ってきた。
いっその事、ミリアに理由が分かるか聞いてみるか。
「理性、保ってたよな?」
「な、何の話しよ?」
「一応言っておくが、別に怒ってる訳じゃないぞ? ただ単純に理性を保てていたのなら、なんで保つことが出来たんだってことを聞きたいんだよ。ミリアの話じゃどれだけ頑張っても朝起きる時は理性が無くなるって話だっただろ」
本当はキスの件に関しても聞いておきたいが、そっちはいくら俺でもちょっと聞きづらい。
小狐がいる限り、これから俺はミリアとも一緒にいることになるんだし、もしも本当にキスをされていた場合、普通に気まずいし。
「…………理性、あったわよ。い、いつもは本当に無いのよ? で、でも、今日はなんか、二回とも……ぁ、さ、さっきだけがなんか、特別だったのよ。……も、もしかしたら、あんた達と一緒に寝たから、かも」
……こいつ、今普通に二回って言ったよな? 誤魔化せてないからな?
やっぱり、あの時、普通に理性あったのかよ。
……いや、何度も言うが、キスだと決まった訳では無いけどさ。
俺は黙ってさっきまでミリアに咥えられ舐められていた指を見る。
傷が治っていっている。
「な、何よ……」
「……唇、触っても──」
「……キュー?」
あの感触が本当にミリアの唇だったのかを確かめるために唇に触れてもいいかを聞こうとした瞬間、小狐のそんな鳴き声が聞こえてきた。
……俺、何を聞こうとしてたんだ。
今のは、確かめるためだけじゃなく……いや、もういい。違う。そんなわけない。
俺は魔物で、人の心なんてとっくに捨ててるんだ。どうでもいい。
「起きたのか? 小狐」
「キュー!」
布団の中から俺の体をよじ登ってきたかと思うと、頬っぺを俺の頬っぺに擦り付けてきた。
「あぁ、おはよう」
多分、朝の挨拶だろうと思い、俺はそう言った。
ミリアが何かを言いたげに顔を赤くしたまま何かを言いたげに俺の事を見つめてきている気がするけど、それに気がついていないふりをしながら。
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