第92話
「それでは、失礼する」
そして、騎士の人が何人かいる中、その中の代表なのか、一人の騎士が部屋の中に入ってきた。
もちろん、小狐は人化済みだ。
「まず最初にお聞きするのですが、昨夜の事件はご存知でしょうか」
「え、えっと、ギルドの事、ですか?」
「えぇ、そうです」
「昨夜の事件だったんですね……俺、い、いえ、私は今日の朝ギルドに依頼を受けに行こうと仲間と共に向かい、正確に何があってあんなことになっていたのかは分かりませんが、ギルドが無くなっていることに気が付きました」
特に怪しまれるような要素は無い……と思う。
ほとんど嘘は言ってないからな。……仮に嘘が分かるスキルや道具を所持していたんだとしても、グレーなラインだと思う。
「あなたの仲間というのは、そこにいる女の子一人ですか?」
「……もう一人いますけど、何故俺……じゃなくて、私にそんなことを聞くんですか? ……も、もしかしてなんですけど、わ、私は疑われているのですか? だ、だとしたら、俺にそんな力はありませんよ!?」
我ながらかなりの名演技だと思う。
実際、代表して部屋に入ってきた騎士の顔も険しい表情から少しだけ申し訳なさそうな表情に変わってきてるし。
……まぁ、逆に騎士のそれが演技で俺の方が騙されてる可能性も否定できないし、まだ安心はできないんだけどさ。
「えぇ、もちろんです。あなたを疑っている訳ではありません。なので、安心してください」
「ほ、本当、ですか?」
「本当ですよ」
ならなんでこんな大勢で来たんだよ。
ただの事情聴取なら、一人……多くても2,3人もいれば十分だろうし、俺が泊まっている以外の部屋にも行けよ。いるだろ、人。
「よ、良かったです……あっ、で、でも、でしたら、な、なんで私のところに?」
そう思いつつも、俺はそう聞いた。
その間、小狐は俺の隣で俺の背中に隠れるようにして、騎士を観察している。
俺がそうするように指示した。
余計なことを喋……いや、鳴き声をあげられて、バレるのだけは嫌だったからな。もちろん絶対に口を開かないように念を押した上で、だ。
「ただの事情聴取ですよ。みんなに聞いていることですので、気楽に答えていただければ、大丈夫ですよ」
「わ、分かりました」
何が気楽に、だよ。
後ろにあんな大勢の騎士が狭い通路に待機してる状態で気楽になんて答えられるかよ。
……残念なことに俺はそいつを見ただけじゃ相手の実力なんて分からないし、あの騎士たちに勝てるかは不明だ。
だからこそ、慎重にならざるおえないんだよ。
……かと言って、言葉に詰まりすぎても怪しまれるだろうし、本当に嫌になる。
まぁ、全ては自分のミスが招いた自体なんだから、自分でどうにかするしかないんだけどさ。
「昨日の夜は何をしていましたか?」
「こ、この子と一緒にこの部屋で眠っていました」
小狐に視線を向けながら、そう言う。
すると、騎士の人の視線が小狐の方に向き、何も言っていないけど、本当か? と問いただしているようだった。
頷け頷け頷け。
首を縦に振るだけでいいから。
とそんな俺の思いが小狐に伝わったのか、小狐はこくん、とく暇を縦に振って俺の言葉を肯定してくれた。
ナイスだ。
「ふむ」
何が「ふむ」だよ。
どうせあの店員に話を聞いてここに来たんだろう? なら、さっさとそのことを聞けよ。
……流石にあの店員から話を聞いてなくて俺のところに辿り着くなんてことは無いと思うしな。
「それでは、昨日、あなたは何を買いましたか?」
……明らかに不自然な質問だと思うけど、これは俺にやましいところがあるからか?
そう思いつつ、俺は騎士の質問に答えた。
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