第62話

「肉でいいんだよな?」


 宿を出たところで、俺は小狐にそう聞いた。

 帰ってくる返事なんて分かりきってるけど、一応な。

 もしも肉が嫌で小狐が機嫌を損ねたりでもしたら俺は終わるかもしれないからな。

 ……バカバカしすぎるだろ。死因が小狐の気分じゃない飯を食わせてしまって機嫌を損ねてしまったこと、なんてさ。


「うん!」


 小狐は元気よく頷いてきた。

 まぁ、予想通りか。

 それでも、聞いた意味は全然あったし、いいんだけど。


 そして、小狐を連れて少しだけ歩いたところで俺は思った。

 ……串焼きを売ってる露店とかはあるけど、肉を食える普通の店の場所が分からねぇ。

 こんなことなら、ミリアを連れてくるべきだったな。……いや、連れてこなくたって、せめてミリアに店の場所を聞くことくらいはしておいて良かったはずだ。

 ……完全に失敗したな。今から戻るのもめんどくさいし、その辺の人に聞くか。

 喋りかけただけで俺たちが魔物とバレることなんて無いだろうし、大丈夫だろう。


「お前はここで……いや、俺の傍から離れるなよ」


「うん!」


 俺がその辺の人間に店の場所を聞きに行っている間、小狐にはここで待ってて貰おうと思ったんだけど、その間に何も無い保証なんてないし、それなら、俺の近くが一番安全だと思って、そう言った。

 ……過保護かもしれないが、小狐に何かがあったら俺が終わるからな。過保護になるのも仕方ないだろ。


「すみません、ちょっといいですか?」


 そして、俺は気の良さそうな見た目をした30代くらいの女性に声をかけた。

 男じゃなく女性を選んだ理由はこんな世界だし、まだ俺自身は見たことがないけど、俺の見た目的に男だったら舐められて揉めることになるかもしれないと思ったからだ。

 まぁ、これも流石に考えすぎだと思ってるがな。

 

「え? えぇ、どうしたの?」


 話しかけた女性は最初いきなり話しかけられたことに驚いていた様子だったけど、俺たちの姿を見るなり、小さな子供を相手にするような感じでそう聞いてきた。

 ……別にそこまで小さくは無くないか? とも思うけど、都合が悪い訳では無いし、気にしないことにして、俺は肉が食べれる飯屋の場所を聞いた。

 すると、その女性は快く肉が食える飯屋を教えてくれた。


「ありがとうございます!」


「えぇ、気にしないで」


 目的は達成したから、そんな感じでその女性とは別れた。

 その瞬間、顔に貼り付けていた笑顔を元に戻して、教えてもらった飯屋にそのまま小狐と一緒に向かった。


 飯を食ったら、もう一度ギルドにでも行ってみようかな。

 あの洞窟のことを聞けるとは思えないけど、単純に敵情視察としてギルドにいる冒険者の実力を把握しておきたいんだよ。……いつか、絶対にあのクソウザイ受付の人間を後悔させるために。

 ……実力を見れるような何かがあるかは分からないけどな。何も行動をしないよりはマシだろう。

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