第36話

「キューっ!」


 路地裏にまで移動した俺は、服の中に隠していた小狐を服の中から出した。

 すると、直ぐに小さい体で俺の腕から俺の顔に向かって飛び込んできた。

 当然俺は避けたかったけど、親狐のことが頭を過り、避けることは出来なかった。


 ……まぁ、どうせまたこの路地裏を出る時には隠れていてもらわないとなんだから、今くらいはいいか。

 

「よぉ、嬢ちゃん、こんなところでペットと戯れてるなんて、危機感が足りてねぇんじゃねぇかァ?」


 そう思って、小狐が満足するまで地面に落ちないように気を配りつつも好きにさせていると、三人くらいの男が現れて、そんなことを言ってきた。

 ……まぁ、路地裏なんかに入ってきたんだし、こういうのに絡まれる可能性は当然考えていたけど、まさか本当に絡まれるとはな。

 ……流石に弱い、と思う。

 こんなチンピラみたいなことをしているくらいだ。こんな奴らが強いなんて、どう考えてもおかしいからな。

 

 と言うか、そんなことよりも、こいつ今俺の事を嬢ちゃんって言ったよな? まさか小狐の方を嬢ちゃんと言っていて、俺の方をペットと言っているなんてことは無いだろうし、多分間違いないと思う。

 ……うん。なんでだ? 俺、男だぞ? 正確にはスライムだし、性別なんてないかもだけど。

 もしかして、女っぽい見た目だったりするのかな。

 元は中性的な見た目だったゼツの持っていたスキルだし、それが反映されている可能性もあるな。

 よくよく考えてみたら、声も割と中性的な方かもしれないと思えてきたし。


「ビビっちまって声も出ねぇのかァ?」


 それで、どうしような。

 もう俺が人を殺すことに抵抗が無いことくらいは分かってるが、問題はここで殺しても問題が無いのか、だよな。


「わ、私をどうするつもりですか!?」


 正直、めちゃくちゃ嫌だったけど、情報を手に入れるために俺は頭に乗っていた小狐が余計なことを出来ないように抱きしめながら、怖がっている振りをしながらそう言った。


「何って、んなこた決まってんだろうが。俺たちはガキに興味なんてねぇから、奴隷として売っぱらうんだよ!」


 すると、やっぱりただのチンピラだからか、ゲスな笑みを浮かべてきながらそんなことを言ってきた。

 ……殺してやる、みたいな感じに言われた方がここで誰かを殺したって問題が無いことが分かって都合が良かったんだけど、そう上手くはいかないか。


「そ、そんなことをしてただで済むと思ってるんですか!?」


 言葉を喋れるって本当に便利だなぁ。

 

「ギャハハハハハ、ただで済むからこそ、俺たちは何回もてめぇみたいな馬鹿なガキを奴隷にして暮らしていってるんだろうが!」


 つまり、少なくともここでは人が居なくなったって足は付かないと。

 ……いや、奴隷の取引をする相手が権力でも持ってたりして、揉み消してるのか? 仮にそうだった場合、やっぱり俺はこいつらを殺せないのか。

 まだ街に入って何も出来てないんだから、人殺しの罪なんかで追われる訳にはいかないんだよ。


「まぁそんな顔すんなよ。お前はラッキーな方なんだぜ? 見つけたのが俺たちじゃなきゃ、忌み物にされて殺されるのが落ちだったろうからなァ」


「こ、殺されるって……そ、そんなことをして、無事でいられると思ってるんですか!?」


「最近のガキはそんなことも知らねぇのかァ? まぁ、お前は見るからにいい服を着てるもんなァ。良いとこで育ったお嬢様って訳か。こりゃいい金になりそうだぜ」


 そんなことはどうでもいいから、殺しても問題が無いのか悪いのかを教えてくれよ!


「冥土の土産に教えてやるよ。ここではどんな犯罪を犯したって問題なんてねぇんだよ。この辺を納めてる裏組織の連中が勝手に揉み消してくれるからな。俺達には分からないが、そいつらにもそうすることで良いことがあるんだろうよ」


 なんだよ。

 つまり、殺してもいいってことか。

 いつも通り超音波で殺してやってもいいが、せっかく人間の体になってるんだ。

 手足が無いと出来ない戦い方を試そう。

 それで、奪ってやるよ。どうせ相手はただのチンピラだ。ロクなスキルなんて持ってないと思うけどな。

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