とある不死者の日記

狼狼3

第1話

 この作品は胸糞表現が含まれます。加えて性表現も含まれます。以上の表現が苦手な方は閲覧をお控え下さい。

 またこの作品は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。


――――――――――

 

 ●月●日



 僕は前世の記憶を持っている。

 

 前世の僕は病弱で、すぐ何かしらの病気にかかっては入院していた。

 こうやって日記なのに誰かに語り掛けるように書いてしまうのも、その時の癖だ。僕には友達が居なかったから、寂しい時は誰かに話しかけるように日記を書いてたんだ。誰か見るような人もいなかったしね。

 

 続きを話すね。

それでも僕は頑張っていい大学に行って、そこそこの企業に入社出来たんだ。


 僕は喜んだ。

 今まで病気でたくさん世話をしてくれたお母さんやお父さんに恩返しが出来るって。普通の子供と違って僕はよく病院へ行っていたから、金額的にも時間的にも苦労させちゃっていたんだ。だから、お金を稼いでやっと親孝行ができると喜んだ。


 でも、社会人として働いて半年たたず。幼少期から大量の薬を使ってきたのが原因か、僕はただの風邪で薬が効かなくて死んでしまった。


 死んだと思った次の瞬間、僕は天国に居た。それも、天国の中でも特別な場所。お爺さんの神様が僕のことを気に留めてくれたんだ。

 お爺さんは「次は健康で丈夫な体で同じ転生させてあげる」と言ってくれた。

 その時の僕は、お爺さんのことをあんまり信じていなかったけど、転生させてくれるならって了承したんだ。



 そうしたら、今度は健康な体で転生できた。

 病弱じゃなくて元気な体。病気に苦しまなくてすむのがこんなにも幸せなんだなって思った。この世界では一度も病気に罹ったことがない。学校だって話すのが得意じゃないから友達は出来なかったけど、運動会とか修学旅行とかに参加できた。



 この世界のお母さんとお父さんは前世のお母さんとお父さんとは違かったけど、僕のことを愛してくれる優しい人達で、大事にしようと思った。



 ――思っただけで、今日爆発に巻きこまれて死んでしまったけど。



 ●月×日



 全世界が大変なことになっている。

 というのも、ロシアの核ミサイル制御装置が誤作動したせいで、世界中に大量の核ミサイルが発射されたらしい。アメリカや世界はロシアの攻撃だと思い、ロシアに核の報復。ロシアも後に下がれなくなって、まだ発射されていなかった核ミサイルを全世界に放ったようだ。

 壊される前のテレビでそのことだけ知った。

 


 僕のお母さんとお父さんは多分日本に放たれた核ミサイルに巻き込まれて死んでしまった。


 そう思ったのは住んでいた家は倒壊しているし、辺りも同じように破壊尽くされているからだ。地面も百メートル以上は削れている気がする。住んでいる人は誰一人見かけていない。少なくともこの街付近で、人は生きていないんじゃないかと思う。


 僕が今生きているのは多分神様がくれた丈夫な体があるからだと思う。

 だって、爆風にさらされたというのに僕だけ傷一つない。水や食料も三日くらい口にしていないのに、体調が悪くなったと感じることも無かった。もはや、僕の体は超人といっても過言ではないのかもしれない。






 結局この世界でもお母さんやお父さんに恩返し出来なかった。


 寂しいし、なにより恩返し出来なかった無力感で死にたくなる。今世では恩返しをすると決めていたのにまた僕は返せなかった。

 死にたくなった。

 でも、わざわざ育ててくれたお母さんやお父さんの愛を踏みにじるように感じたから死ぬのは止めることにする。


 倒壊した家から木を削り出して、それをお母さんとお父さんの墓に見立てて祈る。

 安らかに眠ってください。

 


 ▲月&日


 

 元居た街から東に行って関東の方へ歩いていると、核ミサイルが落とされて以降初めての生存者を見つけた。

 生存者というのは一歳か二歳歳下くらいの女の子だった。名前はハルカというらしい。


 彼女自身も僕が初めての生存者だったらしく、声を掛けると抱き着かれた。


 どうして生き残れたのかと聞くと、彼女の両親はお金持ちだったらしく、両親が作った地下シェルターに偶然いたところ助かったらしい。シェルターには大量の食糧や水があったらしく、それで今まで生き延びてきていたらしい。

 

 彼女曰はく、水道や電気、インターネットやお風呂に入れないことがとても大変だったらしいが、とにかく辛かったのはずっと一人いたことのようだ。言葉には出来ないくらい寂しかったらしい。ちょっとしたことを話す人も居なくて、精神が狂いそうになっていたようだ。前世+今世で実質三十歳以上の歳だからかそんなことは無かったけど、まだ幼い少女が一人でいるのは大変寂しかったと思う。


 久し振りに人と話すせいか語尾やイントネーションがおかしかったけど、話すのが苦手な僕にはそれぐらいがちょうどよくて少女の話をずっと聞いた。

 

 少しして落ち着いた彼女に、一緒に居てと言われた。

 僕も一人は寂しかったので了承した。



 $月●日

 

 彼女と一緒に生活して一か月くらい。

 地下シェルターにある食料や水が半分を切った。

 僕は不思議なことにあの日以降全然食べなくても大丈夫なのだけれど、彼女には必要だった。


 だから、僕と彼女は新しい食料を求めて山に行くことにした。

 都市部でない山なら、放射線に汚染されていない土地や食料、水、それにもしかしたら他に生きている人がいたりするのではないかと考えたのだ。



 ……その前に僕だけで様子を見に行こうとしたが、彼女に止められた。


 一人にしないで欲しいらしい。一人でいるくらいなら、死ぬとまで言われた。その時の彼女は正気では無かった。彼女は僕と生活して以来少しずつメンタルは改善していると思ったが、僕の勘違いだった。

 彼女に依存されてることにこの時初めて気付いた。


 

 彼女には一緒に連れて行くといったけど、やっぱり心配だ。寝られるような場所があるか分からないし、食料や水だって持っていける量には限界がある。それに、僕なら核汚染も大丈夫だし。


 まだ出発までには数日あるので、その日まで彼女が寝ているときに近くの様子を見てこようと思った。バレなければダイジョウブな筈。



 $月&日


 彼女にバレました。

 何で?


 シェルターに戻ると、何が何でも離さないと強くホールドされた。離そうとしても全然動かない。力では僕の方が上なのに、強力な接着剤でくっつけられたかのように離れることは出来なかった。

 

 彼女の感触を嫌でも感じるので役得だったけれど、目がはっきり開いていて少しだけ怖かった。




 数時間無言の彼女に抱き着かれたままでいると、「もうこんなことはしないで。」と突然言われた。変なことを言うと彼女が何をするのかわからなかったので了承すると、その後直ぐに「私のことは嫌い?」と言われた。

 

 どういう意図で言ったのか分からなかった僕は、思ったままに「嫌いじゃない」と答えた。すると、彼女は僕の唇を彼女自身の唇で塞いだ。一瞬何だか分からなかった僕は固まると、欲望と不安に満ちた目で「子供を作ろう?」と言われた。



 彼女と一緒に暮らしてから特に発散することが無かった僕は、彼女にそんなこと言われて我慢出来るわけなかった。僕自身も彼女のことは嫌いじゃなかったし、むしろ一か月経って彼女と一緒にいるのが普通と考えるようになっていた。

 

 

 丈夫というのはこっちの面でもらしい。彼女が疲れ果てるまで僕は元気だった。



追記

 彼女に僕が居ないことが何故分かったのか聞くと、昨日彼女が寝たと思ったのは実は彼女の寝た振りだった。

というのも、今まで気が付かなかったが彼女は僕が寝るのを確認すると、首元を噛んだり、背中を引っかいたり、抱き着いたりしていたらしい。噛み跡や引っかかれた傷に気が付かなかったのは、たぶん僕の体が丈夫すぎだからだし、元々なにかと隠すのが上手い彼女のことだから分からなくて当然だった。


 噛み跡や引っかき傷が付かないことに不満な彼女には、「代わりに私に噛み跡をつけて。跡が残ったら安心するから。」と噛まれることをねだられた。彼女を、しかも女性の柔肌を傷つけることに最初は気が乗らなかったけど、何度もねだられて一回だけ首の右辺りを噛みついてみた。



 噛みついてくれると思ってなかったのか、噛みついた後の彼女の喜びかたは凄かった。僕は僕で彼女を自分の物にしたというという征服感というか謎の高揚感に満たされて、もっと彼女を征服したいと思い、その後彼女に噛みついていいか数回ねだった。その度に彼女がとても喜ぶのが印象的だった。彼女のあちこちに僕の歯形が刻まれた。

 


 彼女の幸せそうな顔を目に焼き付けて自分も寝た。


 

 $月%日

 

 遊冶懶惰……いや、酒がないから少し違うかな?

 想いを確かめ合いその想いが日に日に増していくのを感じながら数日間朝から晩まで彼女と続けていると、このシェルターを出る予定の日になった。



 出来るだけの食糧と水を持って彼女とシェルターを出た。

 



 山へは、僕が彼女のことをおんぶする。


 彼女をおんぶして走っても全然疲れないのが大きい。改めてこの体は凄いと認識させられた。それに、僕が彼女をおんぶした方が早く山へ行くことが出来るし、彼女の体力消費を軽減することが出来るというのも大きかった。


 それに、それに、重要なことに、ずっと彼女と触れ合っていられるというのも大きい。彼女の体温、匂い、存在を常に感じることが出来て凄く安心する。彼女が落ちないようにと、僕の首に抱き着いているのもよかった。おんぶという方法を考えた人には多大な拍手を送りたい。



 それでも、途中から彼女の顔が見たくなっておんぶの形から抱っこする形に変えた。おんぶの悪いところは、彼女の顔を見れないところだ。


 このことを彼女に伝えると外だというのに興奮して僕の首に噛みつき始めた。外といっても人なんて居ないだろうし、彼女に噛みつかれたのが嬉しくて僕は彼女の噛みつきを受け入れた。いくら強く噛みついても噛み跡がつかないことに彼女は不満がった。その姿が可愛くて、僕も真似して首元を吸血鬼のように噛みついた。噛みついて皮膚の薄くなったところから、乳飲み子のようにチューチューと強く吸い付いた。彼女の血は自分と同じ血だというのに何故か甘い味がした。


 彼女の興奮しきった声が深く脳裏に残った。




 不図、僕も彼女に依存しているのかと思った。



 $月●日

 

 山を目指して走ること三日目。

 ついに、残っている山を見つけついでに集落のような場所を発見した。汚染されていなさそうな川も発見した。


 僕とハルカの考えは正しかった。 

 そのことに感動に近い何かを感じたが、どこか様子がおかしかった。


 家のような物が残っているのに、生活感が全くしない。

 洗濯など一切干されていないし、人が通ったような足跡も見当たらない


 僕とハルカは警戒してひとつの家に近付くと、中から呻き声のような物が聞こえた。


 お邪魔しますと言ってその家に入ってみると、そこでは痩せ細った男が寝込んでいた。


 「大丈夫ですか? 何があったんですか?」

 「#$%“#”%&#」


 話しかけて見たが、どうやら会話が通じる様子ではなかった。

 他の家も訪ねてみると同じように布団で呻き声を上げているか、死んでいるのに誰にも世話をされずに蛆だらけの人しか居なかった。

 

 ざっと探してみたところ生存者は誰一人として居なかった。

 ただ、蛆だらけの人物の机に置かれていた日記のようなものに恐ろしいことが書いてあった。

 その内容とは、村で未知の感染症が拡大しているということだった。


 つまり呻き声を上げている人がいるのに人気がしなかったのは感染症が発生していて、正常な人間がこの村にいないからであった。

 日記には考察も添えられていて「核ミサイルと同時に凶悪なウイルスも世界中にばら撒かれた」と書かれていた。


 この村から早く逃げた方がいいと思った僕達は、早急に村から離れた。


 

 あの考察の通りだと、日本だけでなく世界でも生存している人間というのは本当に少ないのかもしれない。


 ハルカが感染していないことをただ祈った。



 &月#日。



 村から一度シェルターに帰り一度ハルカの様子を見て一週間。潜伏期間がどれくらいかは分からないけど、運のいいことに彼女は感染していないように見えた。

 ひとまずは安心だ。


 それと、楽観的には嬉しいけど論理的に考えると嬉しくないことが起きた。

  

 いつも来る筈の生理が二週間経っても来なかったらしい。

 つまり、妊娠しているかもということだった。

 

 あくまでも可能性なので慌てることはないのかもしれないけど、備えは必要だ。

 

 彼女との子供が出来たら嬉しいけど、大切な子供をこの世界で果たして育てることが出来るかというと不安で一杯だった。


 

 追記 そういえばハルカが「私が感染症に罹ってなかったり、放射線の影響を受けていなかったりするのは○○君の体液を体内に取り入れているからかも。たまに噛み跡が治る前に出てきた血とかも飲むし。○○君栄養たっぷりだから」と言っていた。まさかとは思ったけど、ハルカの言うことには妙に納得するところがあった。


 効果があるか分からないけど、今日はいつも以上に彼女に飲ませた。喜んで飲むさまを見て乳を与える母親はこんな気持ちなのかと思った。


 


 !月#日


 彼女の生理はあの日以降一度も来ないで、彼女のお腹は目に見えるくらい膨れていた。彼女が太ったとかじゃない。彼女は妊娠していた。

 

 つわりも始まっているようで、なんだか常に気持ち悪いと言っていた。

 吐き気もあるらしく、今日だけで五回吐いていた。


 お腹や背中を撫でて励ましたり、少しでも気分転換が出来るように僕なりに面白い話をしたりすると「ごめんなさい。嫌いにならないで」と急に泣き始めた。「嫌いになることはないよ、つわりなんだから気にしないで」といくら宥めても、いつもなら立ち直る筈なのにハルカはずっと泣いていた。


 妊娠で情緒がいつも以上に安定しないのかもしれない。

 

 特に有効な手段もない。

 どうしようも出来なくなった僕は、極力お腹の子に負担が掛からないように彼女を愛でた。彼女は脇と耳が弱い。そこを中心に責めると、気持ち悪さよりも気持ちよさが買ったのか、気付けば苦しそうな表情をやめていつもの甘い表情をしていた。


 彼女が苦しむのが止まって僕は凄く安心した。

 


 子供が出来てしまった以上は喜ぶしかない。

 男の子だった時と、女の子だった時に分けて、それぞれしたいことを二人で考えて寝た。


 

 @月#日


 彼女のお腹は更に大きくなっていた。それも膨らんだ風船のように張っていた。

 動くのが苦しいようでここ最近はずっとソファーで横になっていた。

 お腹の子も動き始めたようで、ハルカのお腹に耳を当てると中に動きがあった。多分赤ちゃんだろう。


 そろそろ出産する時期も近いのかと思い始めた頃、一つ彼女が淡々とした様子で呟いた。


「私は死ぬかもしれない。」


 なんでそんなこと言うのだと思わず激情してしまった。しかし、そんな僕を彼女は優しい笑みを浮かべて抱きしめた。


 彼女によると、最近同じ夢を見るらしい。それも、出産する夢を。その夢だと彼女は五児を産むらしい。その子供達は元気よく育ってくれるらしいけど、彼女自身は二か月も経たないで死んでしまうらしい。彼女の体では五児を産むのに相当無理をしたらしく、出産後は衰弱してしまうそうだ。


その言葉を聞いて僕はーーー自分の丈夫な体と、彼女の大きなお腹で嫌な仮説を浮かべた。もし僕の丈夫な体というのが精子にも作用して、受精を一般人よりも多く引き起こしていたら。彼女の大きなお腹は電車や街中で見掛けたことのある妊婦さんより明らかに二回りは大きい。五つ子そのお腹の中に入っていてもおかしくなかった。


 彼女が見た夢というのは正夢ではないのだろうか?


 不安になってお腹に耳を当てると、二つ以上の箇所でお腹が動くのを感じた。




 彼女が打ち明けたのは、彼女が見た夢が正夢ではないかと考えたからだと悟った。


 「死なないと嬉しいなと思うけど、もし死んじゃったらその時は子供達をよろしくね」


 あまりに美しい笑みを浮かべる彼女。そんな彼女から僕は死相を感じた。前世死ぬ直前に自分自身に感じた深い森のような落ち着きがありながらも奥底が知れない不思議な雰囲気。そんな雰囲気が彼女から漂よっていた。


 嫌だ。嫌だ。置いていかないで。

 僕はとてつもない不安に襲われて彼女に抱き着いた。

 そんな僕を彼女は優しく、昔より少し肉のついた手で落ち着かせるように頭を撫でてくれた。玉のような声で子守歌も歌ってくれた。

 何十分かそんなことをしていると、落ち着いたのか僕は気がついたら寝ていた。


 

 その時は落ち着けた。

 でも、でも……



 彼女は死なないと僕に断言してくれなかった。



 =月%日



 子供が生まれた。

 五人も生まれた。

 それも、全員が女の子だった。

 小さかったけどそれでも温かくて、生きているんだなと思えた。とても可愛いかった。



 名前は事前に決めていたけど、気が変わったから変える。

 初めから順番にハルカ、ハルカ、ハルカ、ハルカ、ハルカ。

 ハルカみたいに優しくて、可愛い子に育ってほしくてそう付けた。

 

 ハルカがやめてと言ったらやめるつもりだけど、ハルカは産んだきり、疲れたのか動かなくなったちゃった。それも、遺書のような物騒な物を胸元に隠していて。それには「夢だと本当は出産直後に死んじゃってた。嘘ついてごめんなさい。子供達をよろしく」と書かれていた。


 冗談にしては面白くない。

 僕は思わずそれを破り裂いた。


 僕の行動にびっくりしたのか、ハルカ達が泣いた。

 ハルカ達をあやすのは僕に難しかった。

 

 ハルカが起きてくれていればなぁ。


 

 “年#月$日


 ハルカ達が産まれてから十年経った。

ハルカ達はすくすくと育った。

 もしかしたら、僕の「丈夫な体」が引き継がれたのかもしれない。


 でも、ハルカというよりは僕に似たようだった。目元や眉毛なんかは本当に僕によく似ている。ハルカという名前を付けたのに、少し残念だった。可愛いからあんまり気にしていないけど。


 あの村以来人と出会っていない。虫や動物も。かろうじて何種類かの植物がジャングルのように生えているくらいだ。放射線でほとんどの生き物は全滅したのだろうか。


 あの村に書かれていた日記の内容というのは、案外本当なのかもしれない。少なくとも、僕の住む地域だと。


 社会が崩壊したので、シェルターはあるので住はともかく、食と衣については自給自足の生活だった。

 色は使い終わった缶詰を日中外に出して、缶詰が日光で温かい内に料理をした。水は砂利などを敷き詰めて簡易的な装置を作り、そこに川の水を流すことで用意した。汚染されているかもしれないけどそれを使うしかない。食料については、缶詰に入っていたトマトの種やかぼちゃの種を植えて育てたりしている。缶詰で使われていたので育たないかと思っていたけれど、植えてみるとほんの少し成長するやつが出てきたのでそれを増やして、今では食べる分と次に回す分に分けて育てている。

 偏った食生活にあまり清潔といえない水で子供たちが成長できているのは、僕の丈夫な体のおかげだと思う。


 人間の社会が崩壊したため、子供達は仕事に就いて社会を回すという発想が無かった。

 だから、将来についての夢もない。

 夢のない子供達に育ってほしくなかったので、「元気な笑顔を見せるのが仕事」と子供達には言っている。


 でも、どうやってその発想に至ったのか「子供ってどうやって作るの?」などよく聞いてくる。

 その度に誤魔化しているけど、この件に関しては信じる様子がない。

 性知識を教えたとしても、身近にいる異性など僕くらいしかいないのではっきりとしたことを伝えることは出来ていない。数日前、朝起きた時に何かもぞもぞするなと思っていたら僕の物で遊んでいたので、


 いよいよ危ないかもしれない。でも、絶対に教える気は無かった。


 僕は君を殺してしまったので、もう子供を作る気はない。自分の手で娘まで殺してしまうのは嫌だ。でも、君は死んでしまったけど、子供を産んだことに後悔している様子は無かったよね? 娘たちがもうちょっと成長してみたら、ちゃんとした性知識を教えるのもありなのかな? 君はどう思う?



 久し振りにいうけど、愛しているよ。

 世界で一番ね。


 子供達を産んでくれたことも、凄く感謝してる。君が死んでしまったことは悲しいけど、君の命の分も娘を大切に育てるよ。娘たちが十分に育って、少し経ったら君の隣に行くつもりだよ。ここで話し過ぎても将来君の隣に行ったときに話すことがなくなるから、これくらいにしておくね。


 最後にもう一度、愛しているよ。





$##年%月#日


 いつ死ぬのか分からない。

 君の隣に行くと約束したけど、何故か死ぬ気配がない。僕の丈夫な体というのは、寿命という概念すら無視するのだろうか。


 結局娘達には性知識を教えて、子供達は赤ちゃんを産んだよ。

 全員が全員死んじゃったけどね。でも、全員が全員嬉しそうにして死んでいったよ。もしかしたら、君の所に行っているかな?


 でも、生まれてきた赤ちゃんは全員が全員女の子だった。

 君と同じように多産だったけど、全員が全員女の子だったよ。

 ハハッ。神は僕のことが嫌いなのかもしれない。

 何故か女の子しか生まれてこないんだ。


 産まれてきた女の子は全員が全員僕の子供を産むことを望んだから、死んでしまった。

 初めての子供達が産まれてからもう二百年近く経つけど、もう三百人以上が僕の子供を産んだことで死んでしまったんだ。一人も生き残った子は居なかったよ。


 僕は自分の子供を一番多く殺した殺人鬼なのかもね。


 でも、断ろうとするとみんな悲しそうにして、みんな幸せそうな顔で死んでいくから僕は止めることが出来ないんだ。

 僕の言うことに全然反対しない娘が、子供を産むことだけは強くお願いしてくるんだよ。断れるわけないじゃないか。


 娘達の夢は、僕との子供を産んで死ぬことらしい。

 笑えないよね、ハハッ。でも、どうしようもなくて笑うしかないけど。

 丈夫な体が働いているのか、血が濃くなっている筈なのに元気で赤ん坊達が産まれてくることがせめてもの救いだ。


 もう僕は疲れたよ。

 これで日記を書くのは最後にする。

  

 絶望して無かった頃の僕を日記を通して思い出すと、今の現状に死にたくなるからね。何故か死のうとしても死ねないけど。



 でも、でも、もし僕が死んで君の隣に行けたら膝枕で休ませてくれると嬉しいな。


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