神様、あんたのせいですよ。
間田こない
プロローグ
爽やかな風が吹く草原の上で、俺はゆっくりと目を開ける。
「……やあ!お目覚めかな?」
透き通るような白い肌に、サファイアのような青い瞳。
絹のような銀髪にキラキラと陽の光を照り返す美少女が、寝ぼけ顔の俺の顔を覗き込む。
その姿は、天から舞い降りた天使のように美しく──
「異世界へようこそ!……ええと、れいじさん?」
「……だ、誰?」
なんで名前を知ってるんだとか、そもそもここはどこなんだとか、色々疑問はあるが、寝起きのせいか頭が回らない。
「ふふふ……あたしはルミア!この世界の神様だよ!」
神を名乗るその美少女は、そう言いながらこちらに微笑みかけてくる。
「神様……、そっか俺、死んだんですね……」
「えっ⁉︎あっ、いや、別に死んだわけじゃ──」
ああ、短い人生だったな。こんなことなら、もっと人生を謳歌していればよかった。
具体的には、かわいい彼女作って、大人の階段登るとか……。
「あの、ねえ聞いてる?死んでないからね?」
神様がいるってことは、ここは天国なのだろうか。
優しい風が気持ちいい。それにふにふにとした膝枕の感触が──
「聞いてる⁉︎ねえキミ!おーい!」
「神様、俺は今すごく心地がいいです。こんな美少女の膝で寝て、未練がないことはないと思うんですけど……でも俺、このまま成仏してもいいかも」
神様は、なぜか少し焦ったような顔をしているが、若年にして死んでしまった俺のことを憂いてくれているのだろうか。
「いやだから死んでないって!生きてるよ!召喚したの!あたしが!」
…………
「召喚……?」
──異世界召喚──
俺が召喚されたこの世界は、剣と魔法の、いわゆるファンタジーのような世界らしい。
今から300年ほど前に、絶大な力を持つ魔王が誕生してしまい、その強大な魔力にあてられた魔族やモンスターが力を増し、力の均衡が崩れてしまったという。
そのため人々は、力の根源である魔王を撃ち倒すため、禁忌の魔法である異世界間での召喚魔法を行うようになった。
「──でもね、上の人たち……つまりあたしより偉い神様たちが、他の世界から人を連れてくるのを問題視しててね。異世界間の召喚魔法は、召喚された時の使命を果たせば元の世界に戻れるんだけど、それでもやっぱり、他の世界から神の許可もなく連れてくるのは、規約とかなんとか……、色々問題があるみたいでね」
ぽりぽりと頬を掻きながら、神様が話す。
「ただ、あたしとしてはさ、自分の担当してる世界がポッと出魔王に支配されて滅んでいくのは見過ごせないわけ。そこであたしが、魔王を倒して既に召喚された勇者を帰還させることになったんだよね」
ふむふむ、つまりは魔王を倒す王道系ファンタジーということか。
ただ一つ、引っかかる点がある。
「……何のために俺は召喚されたんですか?」
俺の疑問に神様は、よくぞ聞いてくれたと言わんばかりの笑顔で答える。
「ふっふっふ!キミはなんと、魔王を倒しこの世界を救う、勇者に選ばれたのだ!」
……?
「魔王は神様が倒すんじゃないんですか? それに先に召喚された勇者もいるんでしょう? なんでわざわざ俺を……」
その言葉に、神様は顎に手を当て難しい顔をしながら。
「うーんそれがそう上手くいかないんだよねえ。あたしも、最初の勇者が召喚されたあたりでは、勇者様におまかせしておこうと思ってたんだけど、思った以上に魔王が力をつけちゃってね」
最初の勇者……。ということは、勇者は何人もいるのだろうか。
勇者が何人もいるのに敵わないほど強い魔王となると……。
「神様でも敵わないんですか?」
「いや?全然勝てるよ?余裕で」
そんなに魔王は強……え?
「……勝てるんですか?」
「余裕余裕!超余裕だよ!流石に自分の担当する世界の生物より弱いなんて、洒落にならないからね。邪神とかならまだしも、魔王なんかじゃあたしの相手には役不足だよ。なんたって神様だからね」
ドヤ顔で返答する神様に、思わず口をポカンと開けてしまう。
「なら、神様が倒せばいいんじゃ──」
「いや、それができないんだよね。私たちが持つ神の力は大昔に色々あって、今は下界で直接使うことはできないんだ」
となると、俺には隠された勇者パワーでもあるのだろうか。
考え込む俺の顔を見て、神様がニッと笑う。
「直接は使えない。そう、直接は使えないんだ。キミを召喚したのはそれが理由さ。まあ、その辺の話は後にしよ! せっかく異世界に来たんだ。早く見たいでしょ?異世界の、ファンタジーの街を!」
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