電線は監視カメラ

@TORAERISU

第1話 真実はカメラ

 発電所から各家庭に電気を送る仕組みはとうの昔に無線送電システムができており、街中に貼り巡らされている電線は線の形をした監視カメラだった。

 政府は国民を徹底的に監視していた。膨大な監視データは京都にある限覚院という寺院の地下に設置してある超巨大コンピュータに送られている。地下では豊富な地下水が湧き出ておりその水力を使い発電をし生み出された莫大な電力は、すべてコンピュータの動力としている。地下水はコンピュータの冷却にも使用しており熱交換をし終えて流れ出た先は川になっていて水温は地下水の時点から13度も上昇している。

 建設には幻と言われたM資金が使われている。当時の政府は秘密裏にM資金を手に入れ闇の財源とし、この超巨大なコンピュータ施設を作り上げた。その目的は人々の動きを観察することで超大量の演算結果を導き出すために人間の動き自体がコンピュータとして機能させ最終的に不老不死となり宇宙へ旅立つ準備をすることだった。

 当初は政府による人類支配などが目的とされていたようだが、性能テストのため天気予報や地殻変動を演算していたところ、いくつものデータが複雑怪奇に絡み合わせられ地球はいずれ永久的に冬眠することが決まっていると判明し、急ぎ人類生き残りの策を求めることとなった。限覚院地下コンピュータだけでは到底処理能力が足りないとされ、世界に公表し全世界が一丸となって模索することも当然考えられたが極秘独立組織であった当設備は行政の横のつながりを持てず、手をこまねいているうちに世界各地での紛争や経済ショックによる混乱で発表の機会を失う。政府はコンピュータの機能拡大が最善策であるとし、事態の打開を図るも物理的な制約の前では計画は遅々として進まなかった。

 そんな時、コンピュータの独立処理の一部が超高性能カメラの仕組みの発見を知らせる。電線のように細くしなやかで大量に製造が可能で高解像度であった。それは一部の技術者の目に留まり、まったく別の計算方法を思いつくに至った。不老不死の鍵となる遺伝子の解析は自由意志を持つ人々の活動そのものが演算になっていると判明したのだ。取り急ぎコンピュータを使い無線送電の仕組みをあっさりと開発した技術者らは計画の次の段階へ移行した。

 人々の通勤通学、買い物やゴミ出しはもちろん散歩からジョギング、幼児の遊び、泥棒の物色、果ては老人の徘徊まですべてはヒトという種が全体でおこなっている生き残り戦略の解答そのものだった。かくして政府は国民の行動を一人も漏らさずすべての瞬間を記録するに至った。現在もヒトの知られざる演算は続いている。

オワリ

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