プロ野球選手 モンティナ·フォン·シュトロハイム

1968年春 奮闘

　春季キャンプになると前年度からウェイトトレーニングを積極的に導入した成果が目に見えて現れる。

　シュトロハイムに反発的な選手以外軒並み長打力と肩力が向上したのだ。

　しかもシュトロハイムが合同自主トレに誘った選手はしっかりオフシーズンに調整及び出来る限りの努力を行っており、一回りも二回りも成長していた。

　1月からの新人合同練習に参加していた大星も高校生レベルからプロレベルに進化しており、ドラフト下位の評価を覆して大活躍であった。

　西園寺はカットボール、園城寺は高速シンカー（シンキング·ファウスト）を習得し、春季キャンプ中の打者がシュトロハイム以外はほぼ打てないという事態が発生し、宮永も合わせて勝ちを計算できる投手も揃った。

　捕手も正捕手だった選手を安田と三好が協力して引きずり下ろし、分業をしながらの捕手も決まった。

　またドラフト1位指名をしていた甲子園ベスト4の鈴原選手の肘は限界を迎えており、140キロ以上の球を投げる事が出来なくなっていたし、春季キャンプ中に靱帯が限界を迎え、日常生活に支障が出るレベルで右腕が動かなくなってしまった。

『これはトミー・ジョン手術をするしか復帰の可能性は無い』

　と、シュトロハイムは判断し、球団にアメリカ遠征時のメジャーチームでチームドクターをしていたドクターのフラン·ダイジョーブに診てもらうのが再生できる唯一の方法だと提言した。

　まだトミー・ジョン手術は理論は提議されていたが、実際に行われたケースは無く、トミー・ジョン手術と言う呼び方も前世の呼び方の為、日本語でいうと靱帯移植及び再生手術と言うべき、日本の医学では出来ない技術であった。

　球団側はもう壊れてしまった彼を復活できる可能性があるのならと付き人と一緒にアメリカに送り出し、Dr.ダイジョーブも人体実験の様になるが、今後のスポーツ医学の進歩の為と手術を行う決心を決めた。

　手術は3度にも及んだが、無事に成功。

　そして成功しただけでなく、鈴原選手はリハビリ期間でアメリカの野球を学ぶ野球留学の様な形でメジャーリーグと関わることができ、1年遅れて日本のプロ野球選手としてのキャリアをスタートさせることとなる。

　1人の野球選手の人生が大きく変わったが、ドラフト1位入団選手が故障離脱したため戦力計算が狂ったのも事実。

　それでもオープン戦でこのシーズンを戦うための雛形と言えるオーダーが組まれた。

　1番セカンド赤羽

　2番ライト森宮

　3番レフト大星

　4番ショートシュトロハイム

　5番ファースト遠藤

　6番キャッチャー安田

　7番サード水口

　8番センター霜ケ原

　9番ピッチャー宮永

　1番、3番、4番と9番ピッチャーは1年間固定され、他はその日その日で動くことになったがシュトロハイムが倒れても6番に一発のある安田か小技が使える三好が入ることで得点力が大幅に向上し、平均年齢も24歳と全球団で最年少の打線が形成された。

　赤羽がヒットか四球で出塁、2番がバントで送るか赤羽が走れそうなら盗塁を行い、3番の大星と4番のシュトロハイムで赤羽を返す。

　これが京都タクシーズの主な戦い方に変化した。

　オープン戦でも赤羽と大星が躍動し、打線が機能すると、昨シーズンと同様にシュトロハイムがホームランを量産。

　ピッチャーの宮永、西園寺、園城寺の3人は球数を少なく打たせて捕る省エネピッチングで完投を行い、シュトロハイムと赤羽が高い守備力で打球を捕球して刺殺していく。

　オープン戦で宮永がマダックス（100球未満で試合に完封勝利すること　まだこの頃にはマダックスと呼ばれる指標が無いので呼んでいるのはシュトロハイムだけであるが）を達成。

　ツーシームとスプリット、ストレートの同じ速度で変化したり直球だったりすることで打者を幻惑させ、宮永は前年度よりもコントロールが更に良くなったことで嫌なコースに投げ込んでいく。

　西園寺も7回までノーヒットノーランで試合を作って勝利し、園城寺は高速シンカーと言うこの時代には未知の球を操り三振を量産していく。

　オープン戦で勝ち越しを決めて1968年シーズンが始まる。

　開幕戦、初回から赤羽が内野安打で出塁し、盗塁で2塁に進み、2番がセカンドに進塁打を打って1アウト3塁。

　新人の大星は2球連続でファールと粘り、続く3球目を仕留め、センターオーバーのタイムリーツーベースヒットを放ち先制点を獲得。

　続くシュトロハイムは右中間を抜けるタイムリースリーベースヒットを放って2点を勝ち越し。

　5番は倒れたものの次の6番安田がプロ初の本塁打を放ち一気に4点を先制。

　守備では開幕戦を任された園城寺が三者連続三振で圧倒し、4回にシュトロハイムの一発が飛び出して5対0。

　そのまま京都タクシーズが勢いに乗り続けて開幕戦を8対1で快勝する。

　赤羽は猛打賞、大星は2本のツーベースヒット、シュトロハイムは2本の本塁打、安田もプロ初本塁打と合同自主トレ組が躍動。

　続く第二戦も赤羽、大星、シュトロハイム、2番に起用された三好の上位打線が火を吹いて宮永を大量援護。

　宮永も1失点で完投し、続く3試合目も西園寺が危なげない投球で勝ち切り開幕3連勝と最高のスタートを切る。

　4月を初の貯金5で勝ち越し、京都はお祭り騒ぎ。

　特に地元出身で顔立ちの良かった大星はドラフトの低評価を覆し、打率3割に乗せて瞬く間に人気者となった。

　赤羽も出塁率3割をキープし仕事を全うし、4番のシュトロハイムが今年もホームランを前年と同じペースで量産していく。

　そしてシュトロハイムの提案で行った球場飯が予想以上に好評で、連日完売となり、生産数を増やしても足りないと言う嬉しい悲鳴が上がっていた。

　チームが勝利数を増やすことで京都タクシーズは久しぶりの活気を取り戻しつつあり、シュトロハイムが前原コーチ経由で竹田に提案した捕手分業策も投手から好評であり、吉田監督は更に中継ぎ投手の整備を行い、中継ぎローテーションという現代の勝利の方程式と呼ばれるものの雛形を作ったりもした。（駒不足で不発だったが）

　またシュトロハイムを3番、大星を2番、4番に安田を置く超攻撃的打順を披露し、投手を粉砕することもあり、着実に勝利を積み重ねていった。

　しかし、京都タクシーズ以上に勝ちを積み上げるチームが存在した。

　北海道モンスターズである。

　大エースであった真皿選手の後釜の池田投手が大車輪の如くフル回転。

　京都タクシーズは昨年度より駒が揃ったとはいえ打率2割8分以上の打者は4人、投手も宮永、西園寺、園城寺の3人は勝ちを計算できるが、それ以外の投手は前年よりも成績を悪化してしまう選手もいた。

　一方北海道モンスターズは勝ちを計算できる投手が池田含めて4人おり、中継ぎに配置転換した真皿も短いイニングなら過去の様な圧巻な投球を披露。

　そして怪物打線と呼ばれる打撃陣はこの年から監督に就任した前に4番を打っていた天才打者が更に打撃陣を進化させており、このシーズンには3割打者が5人、20本塁打以上5人、50打点以上6人、チーム打率2割9分8厘とほぼ3割の打線を構築。

　守備力は並みのチームであったが、投打が噛み合い、1点取られたら2点取り返すという倍返し打線とも呼ばれ、怪物という名の通り、対戦した相手投手の防御率を粉砕。

　4月時点で貯金9と単独首位に立つとぐんぐんと差を広げていく。

　そこに3位の山口ホエールズ、4位の新潟ビートルズ、5位の長崎スターズも抵抗を続け、5月終了時点では京都タクシーズは3位に下落し、2位から5位までが3ゲーム以内の大混戦であった。

　ただ日本シリーズに出れるのは1球団のみ、かつクライマックスシリーズが無いこの時代、Aクラス、Bクラスはあれどリーグ優勝の重みが現代以上に重かったのである。

　一方で岐阜ナイツは全球団に負け越して最下位に転落しており、前年限りで長年指揮を行ってきた監督が退団し、今の監督になってから内部抗争が本格化、前に死人が出ているのにも関わらず懲りていなかった。

　この状況下で野町と仲の良かった骨川は内部抗争にも負けずに立派な成績を残し続けていたが、京都が2シーズン前に大粛清をするきっかけとなったチームの高齢化が岐阜ナイツでは深刻化しており、平均年齢が33歳とナ・リーグの中だと最年長であった。

　そして京都タクシーズはシュトロハイムの後ろを打てる打者と中継ぎができる投手を探し始め、トレードを行い、中継ぎ投手を補強することとなる。

　このトレードでやってきた選手はこの年はあまり活躍できなかった。

しかし、宮永、西園寺、園城寺の決め球であるスプリット、カットボール、高速シンカーを土下座して教えてもらい、京都タクシーズでは年齢が高かった（トレード時に25歳）事もあり、投手の兄貴分として長年投手リーダーを務めることとなる。

そんな惣流院武士（そうりゅういん　もののふ）がパ・リーグの堺トレーズから加入することとなる。