辺境魔術師の元お義兄様には私を溺愛したくなる魔法がかかっているそうです

色葉みと

第1章 縁談

第1話「……シャーロットに、縁談が来ている」

「はじめまして。私は君の、……シャーロットの実の父。ルーベン・フェイバリット。フェイバリット公爵家の当主だよ」




 14歳の時、ホワイトレイ辺境伯の娘として暮らしていた私に、実の父と名乗る人がそう言いました。


 訳も分からずフェイバリット公爵家に連れていかれましたが、説明を受け、すぐに受け入れられたことをよく覚えています。


 あれから3年後。私は17歳になりました。




「失礼いたします」




 部屋の扉をノックして入ってきたのは、執事長のエリジャさん。

 白の混じった髪をオールバックにしていて、お父様実の父の補佐をしている執事さんです。




「どうしたのですか?」


「ご主人様がお呼びです」


「分かりました。すぐに行きますね」




 お父様に呼び出されるなんて、珍しいこともありますね。






「失礼します。お父様、シャーロットです」


「ああ、入って」




 執務室に入ると、かつてないほど深刻な顔をしたお父様がソファに座っていました。




「まあ、座りなさい」


「はい」




 私がソファに腰掛けると、お父様は話し出します。




「……シャーロットに、縁談が来ている」


「そうなのですね。どなたからですか?」




 私も結婚適齢期ですし、さして驚くようなことではないはずですが。

 どうしてここまで深刻な顔をしているのでしょう?




「……ホワイトレイ辺境伯家のレヴィくんからだ」


「……え?」




 ホワイトレイ辺境伯家のレヴィ様?

 知っている名前というか、3年前まで毎日のように呼んでいた名前です。……聞き間違い、でしょうか?




「……すみません。もう一度言っていただいても良いですか?」


「……ホワイトレイ辺境伯家のレヴィくんからだ」




 ……聞き間違いではなかったようです。


 ホワイトレイ辺境伯家、ここイミルド王国を魔物から守っている一族。身分的には私たち公爵家と同等くらいでしょうか。そして私が14歳まで暮らしていたところです。


 お義父様おとうさま……改め、オスカー様方には随分と可愛がってもらいました。


 ……お父様実の父が来るまではオスカー様方を血のつながった家族だと思っていたのは良い思い出? です。あれはかなり驚きましたが。


 ホワイトレイ辺境伯夫妻には二人の息子がいます。


 一人は、剣の腕前が王国近衛騎士団長並みといわれているリアム・ホワイトレイ様、25歳。

 もう一人は、魔術師団長以上に魔法が使えるといわれているレヴィ・ホワイトレイ様、21歳。


 「いわれている」というのは、確かめる方法がないからです。

 お二人ともホワイトレイ辺境領で日々魔物と戦っているため、王国近衛騎士団長と魔術師団長がいる王都にはほとんど来ません。

 実際のところ、その噂は事実だと思いますが。動きを見れば一目瞭然ですから。


 そんなお二人、リアム様とレヴィ様ですが、実の兄妹のように接してくださっていました。


 それで、です。……レヴィ様から結婚の申し込みですか?


 お父様が深刻な顔をしていた理由は分かりましたが、どうしてそうなったのかが分からなすぎます。




「父としては、どこの馬の骨とも知らない輩に娘をやるより良いと思っている。ホワイトレイ辺境伯家は信頼できるからね」




 確かにホワイトレイ辺境伯家の皆様は信頼できますね。


 ……ですが、もしかしてお父様、ホワイトレイ辺境伯家から縁談が来ていることではなく、縁談が来ていることに対して深刻な顔をしていませんか?




「……でも可愛い娘を嫁にやるなんて! そんなことしたくない!」


「お父様、ご存知だとは思いますが、私は公爵家の娘としていずれどこかの家に嫁がなければならないのですよ」


「ははっ、分かっているよ。だが、可愛い娘が家からいなくなるなんて……、耐えられないよ」




 お父様、前々から知ってはいましたが、親バカですね。


 ホワイトレイ辺境伯家は身分的にもほど良いですし、信頼もできます。家に何か問題があるわけでもないです。

 こんな好条件な縁談はそうそう来ないでしょう。


 今まで来ていた縁談もあったが条件が良くなかったから私に相談する前に断っていた、こっそりエリジャさんに教えてもらっていました。


 さて、ここは私がしっかり言わないとですよね。


 ……お父様のことです。そうしないと断ろうだなんて言い始める気がします。




「そうだ……! 断ってし——」


「お話、聞いてみたいと思います」


「…………シャーロットがそう言うのなら。……そのように返事をしておこう」


「はい、ありがとうございます」




 長めの逡巡しゅんじゅんの後、お父様はそう言いました。


 その日の夕食の席で、私への縁談を知ったセオドア兄様実の兄が兄バカを発動したのは想定内のことです。

 最終的に「シャーロットが決めたのなら……」と折れてくださいました。

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