動き出す魔界

『よし。サイ卜よ』

 と。話が再び一段落したところを狙いすましたかのようにくのいちが魔王に語りかける。

『私はそろそろ魔界に戻り、先程言ったようにありのままをデブエルに報告する。お前の処断がどうなるかはわからないが――これだけは警告しておく』

「なんだろうか?」

 ここでくのいちは一度視線をクロスへと向け。

『お前がクロスの事をどう思っているのかは知らんが、縁を切れとは言わん。だが本当に大切な者であるならば魔界の事はあまりベラベラと喋るな。でなければ、いつかトンデモない事に巻き込み兼ねんぞ?』

 くのいちが視線を魔王に戻せば、魔王は両腕を組むと深く頷き。

「承知した。尻に銘じておこう」

『肝に銘じろ! アホゥ!』

 と怒鳴るくのいちだが『フフッ』と微笑んだかと思うとそのままゆっくりと席を立ち。

『まあいい。とりあえずお前の元気そうな顔と、siriの元気そうな太ももと、クロスの元気そうな太ももが見れただけでも来た甲斐があった。では達者でな』

 くのいちはそれだけ言うと後ろ手に人差し指と中指をピッと揃えて突き立て、足早に去って行ってしまった。


「え? 何、もしかしてショ夕さんて太ももフェチなの?」

 と魔王とsiriに訊ねるクロスだが、答えたのはsiriで。

「いや、オネー様は太ももフェチではなくて絶対領域の公式代理人です」

「こ、公式代理人って事は太ももの代理人って事ぅ? いや確かにショ夕さん鎖帷子じゃなくて網タイツだから絶対領域あるなぁ〜とは思ってたけどさっ!」

 と驚くクロスに魔王が続く。

「まあ彼女は400年くらい前にくのいちの魔王になったばかりで、その前までは絶対領域の魔王だったからな?」

「絶対領域の魔王って語感だけなら凄い強そう!? てゆーか400年前から絶対領域ってあったのっ! ……って思ったけど魔界ならあるのか」

 というような会話をしつつ。魔王達もこの日は大人しく解散したのであった。



 ――そしてその2日後。魔界の裸ブロマンス城。玉座の間。



「なるほど。何の報告もなかったのは実際に何もしていなかったからか」

 既にくのいちからの報告を受けたデブエルに。

『その通りだ。そして奴はこれからも人間界を征服する気はないそうだ』

 ありのままの報告をするくのいち。

 デブエルは玉座で頬杖をついたまま、一瞬だけ思索に耽るがすぐに。

「ふむ。ではくのいちよ引き続き頼みたい事がある。ヤツの代わりに新しく165位に入った新参の魔王を呼んできてくれ」

『……? それは良いが――どうするのだ?』

 とくのいちが首を捻っていると。

「エ口サイ卜に勧告を出す。まあ最期勧告だな? 従うならば良し。逆らうならば力尽く……最悪殺してしまっても構わない。しかしそれでも従わないと言うのならば――お尻ペンペンだ……と」

『いやお前お尻ペンペンは力尽くの部類に入るだろう?』

 間髪入れずに突っ込むくのいちだが。

「お尻ペンペンはブルマに入る?」

 と頭に疑問符を浮かべるデブエル。しかしそれでもくのいちは冷静に。

『言ってない。部類に入る……だ。まあいい、要はその使者として新参者を使うという訳だな?』

「左様。察しが早くて助かる」

 するとくのいちは了承の意か目礼を一つ挟み。

『良かろう。すぐに呼んでくる……しばし待っていろ』

 これだけ言うとくのいちは踵を返し、一瞬にしてデブエルの前から姿を消した。


 ――そして。


 裸ブロマンス城を抜け出し、風を捲くようにして走るくのいちは――

(不味い方向に話が進んでいるな。サイ卜が新参の165位程度に敗れるとは思えんが……このままだとサイ卜と魔界の全面戦争になり兼ねん。となれば……いざという時、サイ卜に加担してくれそうな魔王達に声をかけておくか……)

 と考え……更に速度を上げていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る