魔王太郎
『オッホン!』
クロスの言葉にくのいちがワザとらしい咳払いをする。
そうして仕切り直しか。
『それで……だ。これからどうするのだサイ卜よ? 先程も言ったが私にお前の様子を見てこいと言ったのは魔王ランキング5位にして魔界四天王の一人デブエル。つまり魔界十六神将の中でもトップ4の四天王が動いているという事は、これは十六神将の総意……延いては全魔王の総意を意味する。よってこのまま命令無視を続ければどうなるか……。だが、私の見立てではこれからの働きによっては目こぼしはあるかも知れん。デブエルの態度はそのように見えたが――。どうするのだサイ卜よ?』
くのいちが改まり質問をすれば、魔王は両腕を組み。
「目こぼしか……ショ夕よ。私の意志は変わらない……人間界の支配はしない。私はありのままの人間界を謳歌したいのだ。支配して自由に動かせる人間界など面白くはないだろう?」
『まあ……お前の気持ちも理解出来なくはない。だが、本当にそれで良いのか? 場合によっては魔界全体を敵に回すかも知れんのだぞ?』
くのいちが魔王を睨むが、魔王もくのいちを睨み返し。
「くどいな。私の意志は固い。私の意志が子猫の肉球くらい固いのはお前が一番良く知っているだろう?」
さすがは幼馴染の絆なのか……と言いたいところだが。
『プニプニではないか……』
所詮、魔王の意志などそんなものだった。
ここでくのいちは「フゥ」と鼻から息を抜くと。
『わかった。私もお前の意志は尊重したい。故にこれ以上人間界を征服しに行けとは言わん。だが、私も仕事だからな……デブエルにはありのままを報告するぞ?』
これに魔王は怪訝そうな表情を浮かべ。
「ありのままというと――生まれたままの姿の私を報告するという事か?」
『なんで私がデブエルにお前が全裸だったという報告をしなければならないのだっ!』
とくのいちが怒鳴っていると。
「お待ち下さいオネー様」
見れば胸に右手を当て、軽く頭を下げているsiri。
『なんだ? どうしたsiri?』
するとsiriは顔を上げ。
「今の話ですが、桃から生まれたのが桃太郎なら、全裸で生まれたマオーは全裸太郎という事でしょうか?」
『何故そうなる? そんな事を言い出したら生まれた時はみな大体全裸だろう?』
これにsiriはカックンと頷き。
「なるほど。つまり全裸太郎ではなく我々はみな全・裸太郎という事ですね?」
『おまっ……』「いや待てsiriよ!」
何かツッコミかけたくのいちを遮るようにして魔王がカットイン。
「桃から生まれたのが桃太郎ならば、キャベツから生まれた私は全裸太郎ではなくキャベツ太郎ではないのか?」
「駄菓子ッ!」
と脇で驚愕の声を上げたのはクロスであったが、siriは無視して。
「いえ、マオーはキャベツ太郎から生まれたのでキャベツ太郎太郎ですね」
「キャ、キャベツ太郎太郎だとっ! ふざけるなっ! あんなキャベツ太郎という名前のクセに原材料がキャベツじゃなくてトウモロコシの美味しい駄菓子の中から私が生まれたなど断じて認めんぞ!」
「いや、キャベツ太郎って1981年から発売されてるから認めるも認めないもあからさまに嘘じゃん!」
という見事なツッコミを入れたのはクロスであったが――それにしてもキャベツ太郎に妙に詳しい連中である。
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