魔王とsiriと十字架

「そ、そうかなぁ? 名前褒められたの初めてかもしれない」

 と後ろ頭を掻きながら、照れくさそうに微笑むクロス。そしてそのまま。

「あなた達は? なんて名前なの?」

「ん? 私か? 私はエ口サイ卜という。そしてそこで惨めに四つん這いになっているのが私の部下で『siri滅裂』という」

 と、魔王がアゴでsiriを指すと。

「マオーの優秀な部下をやっているsiri滅裂と申します。趣味は重さ10キロのカニカマで筋トレをする事です」

 と四つん這いで項垂れたまま、AIらしく淡々と述べるsiriだが。

「あ、彼女はアンドロイドなので筋トレをしても意味がない。なので今のは忘れてくれ。彼女の本当の趣味は土下座だ」

 とこちらも淡々と述べる魔王。これにクロスは後頭部に汗を垂らし。

「え、いや……筋トレ気にしなくても魔王とかアンドロイドとかいろいろ気になるワードがたくさんあったんだけど……。ってゆーか趣味が土下座って、上司のエ口さんがしっかりしてないから多方面に謝りまくってるって事?」

 しかしこれに魔王は大口を開けて。

「はっはっはっ。まさか! 彼女は純粋に土下座が趣味で、要はインスタ映えを狙って土下座をしているのだ」

 これに――いつの間にか四つん這いから土下座にポーズを変えたsiriが、顔だけを横へと、クロスの方へと向け。

「クロスさんも一緒にどうですか? メイドとミニスカサンタが牛丼屋で揃って土下座はかなりのインスタ映えかと思いますよ? ……まあ私インスタやってないですけど」

「やってないのにやってるのっ!? ホントに映えだけ狙ってるって事っ!?」

(……まあ、それが趣味というもの)

 両腕を組んだ魔王が、瞳を閉じて何故か一人ウンウン頷きながら呟いているが、そもそも牛丼屋にメイドとミニスカサンタと黒マントの男が一緒に居るだけでインスタ映え奇妙な光景である。


「いや、てゆーかさ。魔王とかアンドロイドとか……あなた達何者なの? 本当に魔王とアンドロイドなの?」

 一般人というか一般ミニスカサンタのクロスからすれば、これは当然の疑問であろう。しかし魔王は何を勿体付けるのか。

「すまぬ。その質問に答える前に、ちょっとトイレへ行っておきたい。siriよ、お前も席に戻っておくが良い」

「ラジャ」

 言ってsiriが立ち上がり、魔王も席を離れようとした時だった。魔王の背中にsiriが声をかける。

「マオー。トイレは冷たい方ですか? それともあったかい方ですか?」

 これに魔王は振り向きながらジト目で頬に汗を垂らし。

「いや……それを言うなら大きい方ですか? 小さい方ですか? だろう。あったかい冷たいって私は自動販売機か」

「何を言っているのですかマオー。マオーは機械マシンではなく生物なまものなので自動販売機ではなく自動販売肉でしょう?」

「それだったら私は手売りになるから自動販売肉じゃなくて手動販売肉であろうっ!」

「いや……あの……」

 ここで見兼ねたかクロスが口を挟む。

「エ口さん早くトイレ行った方がよくない? 漏れないの?」

「クッ! 気遣い感謝する!」

 言って魔王は踵を返すとかわやへと向かう。

 そしてそんな背中を見送ったクロスとsiriは――


 ――魔王の残影を眺めつつ。

「あなた達って、いつもトイレ一つであの会話量なの?」

「ええまあ、今回はクロスさんが止めたので少ない方でしたけど……」

「あ、そうなんだ……」

(もう少しゆっくり止めてみれば良かった)

 と考えるクロスだった。

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