8.村人たちに仕事を割り振ろう
うーん、限界集落。
これ、冬を乗り越えてもこのままだと消滅するのでは?
まあでも、とりあえずは目の前の問題から。
今の村で早急に対処が必要なものを洗い出してみよう。
と言っても、考えるまでもなく食料と薪だよね。
柵やら墓やら埋葬やらもあるけど、早急となると命の危機が最優先。プラスで、冬までの時間制限のあるもの。となると、食料は言わずもがな、薪の方も問題になってくる。
なにせこの近辺は一面の大草原。ということは、近くに森がない。
すなわち薪を得るためには、遠くの森まで出向いて木を伐採しないといけないということなのだ。
今は狩りに出ている村人の誰かが、持ち回りで森まで足を延ばして伐採をしているという。
だけど、冬になって雪が積もるようになると狩りには出ない。そもそもこのあたりの雪は深く、真冬の時期は狩りどころか、外に出ることもままならないらしかった。
行けてもせいぜい村の近辺だけ。草原には目印となるものもろくになく、下手に遠出をすると遭難することさえあるというのだからとんでもない。
雪の時期は、話を聞くに長くて六か月。だいたい十月下旬ごろから十一月初頭には初雪が降りはじめ、遅ければ五月まで降り続ける。長い雪の季節を生き抜くには、それだけ多くの食糧と薪が必要になるだろう。
だけど現状、どちらも足りていない。
薪はその日に使う分だけをどうにか確保するのが精いっぱいで、食糧に至っては備蓄を削っている状況だ。
これから寒さも厳しくなり、食糧と薪のどちらも入手が困難になる。馬六頭はいるけど、うち四頭は護衛たちの愛馬だし、二頭は御者が可愛がっていて、正直あまり手にかけたくない。まあそんなこと言っていられなくなったらやるんだけど、それでもせいぜい数日村の寿命を延ばすだけ。本当に、いざという時の延命措置くらいに考えておいた方が良い。
今の私たちに必要なのは、もっと根本的で継続的な解決策だ。
村の人員はほとんど食糧生産に当てられていて、わずかな人々でそれ以外のことを補っている状況。この人の割り当ては動かせそうにない。
私たちが来たことで、余剰な人手が男五人、女一人、幼児一人増えている。うち、護衛一人が橋を見に行っていて留守。御者には厩を任せたいので除外して、護衛の一人も念のため馬の警護に残しておきたい。
となると、実質動けるのは男二人、女一人、幼児一人。私とヘレナでは村の中で雑用を手伝うくらいしかできないけど、護衛二人は健康で力もあるから期待できるだろう。
そうなると、焦点はこの二人を、狩りか薪作りのどちらに投入するべきか、ということになる。
馬がいれば遠くまで狩りに出られるだろうか?
いやでも戦闘と狩りは別物か。特にこのあたりの獲物は小動物。強敵を打ち倒す技術ではなく、素早く逃げる獲物を弓で射る技術が必要なのだ。
だったら薪づくりに専念させる?
馬車を解体すれば荷車に使えるかもしれない。馬にひかせればそこそこの運搬力が見込めるはずだ。
ただ、これだと食糧生産の方の問題が未解決。薪づくりに一人出し、もう一人は狩りに? なんかそれも中途半端になりかねない。
食糧生産を優先するなら、むしろ馬は村人たちに貸し出して、彼らの狩りの生産性を上げた方が効率的だろうか。いやでも乗れるかわからないな。なにより返却されなさそう。
それなら護衛を監視に付けて……って、これやるとまた護衛の役回りが半端になる。
うーん。食糧、薪、馬、男手の配置……。
初雪まで約二週間。明日までには結論を出さないと厳しい。
とりあえず狩りと薪割りが最優先なのは間違いないので、男手を浮かすくらいなら中途半端でも一人ずつ配置しておくべきだろうか? 最低限稼働さえしていれば、マイナスにはならないだろうし――。
と、頭の中で人の配置をこねまわしていたときだ。
聞こえたのは叫び声。
誰かの怒鳴り声と、無数のざわめき。
それから、少し遅れて獣の咆哮。
その咆哮を聞いた瞬間、私は椅子から飛び降りていた。
――――しまったわ!!
「殿下? どうされました? それに、今の声はいったい……?」
部屋に控えていたヘレナが首を傾げるけれど、答えてはいられない。私は大慌てで部屋を飛び出すと、扉の前を守っていた護衛二人を捕まえて叫んだ。
「ついてきなさい! 村に行くわよ!! ヘレナは厩に行って、もう一人の護衛も呼んできなさい!!」
「え、え、ですが厩の警護は……」
「それどころじゃないわ!!」
今は馬がどうこう言っていられない。
村人全員を生かしたまま冬を越えなければ、私たちの命はないのだ。
そして今まさに、私たちは生きるか死ぬかの瀬戸際に立っていた。
食糧、薪、冬の準備。
それ以外に、もうひとつ最優先で考えなければならないことがあることを、私はすっかり忘れていたのである。
「――――魔物が出たのよ!! 早くしないと手遅れになるわ!!」
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