7.村のステータスを確認しよう

 屋敷に戻って、子供は寝る時間だとヘレナに無理やり眠らされ、翌朝。

 執務室と思しき部屋の椅子の上にクッションを重ねて座り、私は机に向かい合っていた。


 クッションを重ねているのは、そうしないと机が高すぎるからだ。足が地面に届かなくてちょっと辛い。お子様テーブルが欲しいけれど、今は贅沢が言えないので諦めて。


 家探しで見つけた書類のたぐいも集め、アーサーから聞いた話をも混ぜ込んで、ヘレナの入れた薬茶を飲みつつ、まずは村の情報を数値的に見ていこう。

 ここではずらずらとした数値の読み上げになっちゃうけど、最後にきちんとまとめてわかりやすくしておかないとね。




 さて、最初に見るのはやっぱり村の人口から。

 現在の村にいる人間の総数は三十九人。プラス、新たにやって来た私とヘレナ、護衛四人に御者を加え、四十六人。だけどいったん、私たちのことは置いて考える。

 内訳は、大人三十五人に子供四人。子供とは、この国の成人である十六歳を基準に考えているけれど、村では十四歳辺りで実質的に大人扱いされるらしい。

 まあでも、今の村にこの年頃の子供はいないので置いておく。


 子供を除いた男女比は、男性二十人女性十五人。やや男性が多い。

 これは、そもそもの入植者に男性が多かった影響だ。単身で開拓地に来る男性はいても、女性はほぼいないから、ということらしい。


 大人のうち、夫婦はちょうど十組。となると、独り身は自動的に十五人となる。ただ、このうちの多くは単純な独り身ではなくて、伴侶を失くした者なのだそうだ。


 子供の方にも、親を亡くした者は多い。ただ、両親とも亡くした子供は村の誰かしらに引き取られ、養子になっているらしい。それに子供を多く亡くしたこともあって、村全体で大切に育てられているそうだ。

 こういうのは、小さな村だからこその互助なんだろうね。


 家の数は、おおむね丘の上から見た通り。村には三十四戸あるらしい。

 これに加えて、村の外に家を作った変わり者が数人。村から離れた場所に家を建てているらしく、この人たちが生きているのかどうかは、なんと村の人々も知らないという。

 その人たちの確認もしておきたいけど、ひとまず時間がないのでこれも後に回しておいて。


 実際に使用されている家は、単純計算で十五戸。残り十九戸は居住者が亡くなっている空き家だ。

 ただし、これを壊すのに村の人々は消極的だった。

 やけに口の重い村人たちの態度から察するに、どうも遺体の処理が間に合っていないらしい。毎日の忙しさに加え、そもそも死者が五十人以上。現在の村の人数よりも多い遺体を持て余してしまったのだろう。あまり想像したくないけれど、長らく放置されたままなんてものもありそうだ。


 井戸は二基。集会場が三棟。村の共用倉庫があったけど、これは火災で焼け落ちている。

 これら全体を壊れた柵が囲い、これが村の中。


 村の外には、休眠中の農地がいくつかある。

 もともと今の三倍近くの人数がいただけあって、広さ的には十分。去年の冬に人口が激減したせいで荒れ果ててはいるものの、一から掘り返すよりは手がかからないだろう。

 ただ、農地はこれから来る冬には役に立たない。このあたりに頭を悩ませるのは、冬を越せる目途がついてからにする。


 農地の傍には、農具入れと言うべきか、農具置き場と言うべきか、粗末な納屋が一つある。

 作付け用の種子類もここに保管されていて、おかげで火災の被害を免れたようだ。


 作付け用の種子類のうち、食用に回されているのは小麦と種芋、トウモロコシ。どれも一度挽いて粉にしてから水で伸ばし、少しでも嵩増ししようとしているらしいけれど、それでもとうていひと冬は持たない。作付けを諦めすべてを食糧に回し、節約に節約を重ねて食べたとしても、せいぜい一か月持たせるのがいいところだろう。


 そう。食糧というと、この村には家畜がいない。

 入植時に連れてこなかったとは思えないので、おそらくこの三年の間に失ってしまったのだろう。草原に生える植物のほとんどが毒を持っているあたり、家畜の餌を用意できなかったか。あるいは飢えに負けて食糧にしたのか。

 家畜ではないけれど、犬がいないのも気になるところ。狩猟に役立ち番犬にもなる犬も、やっぱり連れてこなかったとは思えない。これもきっと、どこかの間に失われているのだろう。


 その結果、現在の食糧生産方法は狩りと採取のみ。

 冬が近いからか大型の獣は川を渡って南方に移動していて、今は小さな獣が残るばかりだという。このあたりは雪が深いため越冬には向かず、冬眠しない獣の多くは秋口にはもういなくなってしまうのだそうだ。


 残っているのは野ウサギやアナグマのたぐい。

 毒草しか食べていないのにどうして彼らがこんなところで生きられるのか気になるけど、そのあたりは村人たちも知らないらしい。

 ただ、内臓は当たりやすいから捨てているとか。となると普通に毒草も食べて生きているのかな?

 ここはちょっと気になるところ。誰かに詳しく話を聞いてみたいな。


 採取の方は、今のところ食用になるのが首狩り草のみ。子供たちが近くの草原からそれらしい草を摘み、それを大人の女衆が選り分けているというのは、以前にも見た通り。

 また、食用ではあるけどあくまで香草や薬茶としての使い方が主で、これで一皿という食べ方はしないそうだ。癖もあるし、そもそも食べすぎるとお腹を下すらしい。


 ただ、食糧の生産量と消費量は、今のところややマイナス程度で収まっている。

 備蓄を少しずつ削っている状態なので、楽観視していいものではないけれど。


 仕事の内訳は、男性二十人のうち十五人までが狩りに出ている。

 残り五人のうち四人は、魔物の襲撃や不慮の事故などで怪我を負い、狩りに出られない人々だ。彼らは村に残って、女性陣にはできない村の仕事をする。

 罠作りや狩り道具の修繕。薪割り、荷運び、家の修繕などがそれだ。


 残る一人はアーサーだ。貧弱で力仕事の一切が向いていない彼は、狩りもできなければ薪割りも荷運びもできない。

 ではなにをするのかと言うと、これがけっこう忙しい。知識のある彼は、村人の相談役としてあちらこちらに呼ばれるそうだ。さらには医者のいないこの村では、医者の代わりまで勤めているという。


 女性陣は、多少の変動はありつつ十人が食料収集。残り五人が家事労働をしている。

 食料収集の仕事は、今はひたすらに首狩り草集め。冬が目前のため、人数の比率がこちらに偏っているらしい。

 家事労働は、その名の通り。針仕事に炊事洗濯。水を汲んだり掃除をしたり。あとは幼い子供のお守りもする。


 各家の仕事は持ち寄り、よほど個人的なものでない限りは共有する。自分の家族でない誰かの繕い物をしても対価は取らないし、自分の家族以外に家を直してもらっても対価を払わない。村全体で協力し合うことで、どうにか生活を維持しているのだろう。


 ただし、例年通りだと冬まではもうひと月もない。早ければ、あと二週間ほどで初雪が降る可能性もあるというのがアーサーの見立てだ。

 そうなれば、ギリギリで維持してきたこの生活も終わり、あとは崩壊を待つだけになる。


 さてさて、こんなところで一度数字類をまとめておこう。

 消費量や生産量はわかりやすく一日一人あたりで概算して、見つけた資料の情報も書き加えつつ、いろいろメモも織り交ぜつつ。

 よーし、ステータスオープン!


 と言いつつ、紙に向かって箇条書き。

 お手製ステータスオープンはこの通りだ。




ノートリオ領開拓村 4年目初秋

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【総人口】

総人口:146人(1年目)→39人(現在)↓

死者:71人(うち、大人24人、子供47人)

逃走:30人(前領主含む)

不明:6人


※不明の6人は村の外に家を建設。交流は数年なし。


【人口内訳】

男性:20人(負傷4人)

女性:15人

子供:4人(2歳・7歳・8歳・10歳)


【職業】

狩人:15人

雑用/狩り支援:4人

学者/医者:1人

採集:10人

家事/子守り:5人


【食糧生産】※村人1人あたり1日の消費量を1として換算

消費量:20/生産量:18


×量

×栄養


※水増しして消費量を本来必要分(39)のだいたい半分に抑えている。

 この状態を続けると、近いうちにいずれ破綻するはず。


【食糧備蓄】※村人1人あたり1日の消費量を1として換算

120


※種類は小麦・芋・トウモロコシ(すべて作付け用)

→半分は作付けに残しておきたいけど……


【薪】※村人1人あたり1日の消費量を1として換算

消費量:39/生産量:39(余剰なし)


※今後消費量が増える見込み


【村の内訳】

住居:34戸(うち、空き家19戸)

井戸:2基

集会場:3棟

柵(破損)


※空き家に未埋葬の死体あり?

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