おしゃべりなビキニアーマーと【女剣士プルシャ】

楠本恵士

第1話・ビキニアーマー剣士【プルシャ】荒野を行く

 強風吹き荒れる、とある異世界の荒野──茶色の布を体にまとった一人の女性剣士が歩んでいた。


 風でめくれ上がる布の下からは、ビキニアーマーパンツの下腹部と剣帯に吊られた長剣が覗く。

 女性剣士【プルシャ】は、強風を避けるために岩山の陰に身をは寄せると腰を下ろして。

 水筒に入った水を飲みながら、干し肉をかじる。

 固い肉を噛み締めながらプルシャが呟く。

「この生体に慣れるのには、まだ時間がかかるな……摂取した食物をエネルギーに変えて、動くのは効率が悪い」


 プルシャのビキニアーマーのブラが、男子の声でしゃべる。

『それは、しかたがないですよ……プルシャ姐さんは生き物ですから、高エネルギーを体内に直接取り込んで活動できる生物は少数ですよ』

「そうか……面倒な体だな、わざわざ廃棄物を体外に排出する行為も面倒くさい」


 今度はビキニアーマーのパンツ部分から、女子の声が聞こえてきた。

『あたしの記憶だと、ここから東に三キロほど進んだ場所に、町があったはずですから……そこへ行けば宿で休憩もできますから、荒野で野宿するよりは……まだ、盗賊から奪った宝石ありましたよね』

「あぁ、まだ残っている。しかし対価の金銭を払わないといけないとは……この体で生きていくのも大変だな」


 立ち上がったプルシャは、ビキニアーマーの上と下に質問する。

「フギンとムニンが、この世界に魂だけ召喚される前は、どんな食べ物を食べて生活していたんだ?」

 ビキニアーマー〈上〉……男子の声でしゃべる【フギン】が言った。

『あまりよく覚えていないんですよ〝コウコーセー〟とかいう職種だったらしいんですけれど』


 続けてビキニアーマー〈下〉……女子の声でしゃべる【ムニン】が言った。

『あたしも、覚えているのは〝ハンバーガー〟って名前の食べ物を食べていたコトくらい……あたしたち、いつたい何なんでしょうね』

 フギンとムニンは、なんらかの理由でこの異世界に魂だけ召喚されて。なんらかの理由でプルシャのビキニアーマーに取り憑いた。


 プルシャは、フードを被ると、口元を布で覆うと長剣を鞘から引き抜く。

 プルシャは剣の柄に付いている、メーターを確認する。

「剣のエネルギー残量は、まだ乗り物に変形するほどは残っているな……ここから、町までは乗り物に乗っていくか」

 プルシャが長剣を地面に放り投げると、変形してオートバイになった。

 プルシャは、剣が変形したバイクにまたがると、異世界の荒野を町に向って疾走した。


  ◇◇◇◇◇◇


 荒野の町に到着すると、オートバイは剣へともどった。

 情報収集と食事と今夜の宿を確保するために、プルシャは町の宿屋兼営の食堂に入る。

 食堂の中には、腕に覚えがありそうな者たちが、入ってきたプルシャを一瞥いちべつした。


 カウンター席座ったプルシャは、食事と飲み物をオーダーしてから、壁の掲示板に貼られている告知用紙を眺める。

 この店は、ギルドの情報発信も担っていた。


「モンスター退治の報酬……店の臨時店員募集……農家の収穫手伝い……どれも、パッとしない報酬額……アレ? これは?」

 プルシャの目が一枚の用紙に止まる。

 それは、この荒野の小国の王女の戴冠式の告知だった。

 戴冠式当日には、格闘好きな王女の希望で、武闘大会が開催されて優勝者には賞金と望みのモノが与えられる……と、書かれていた。


 プルシャの視線は、茶色の紙に描かれた王女の、ティアラの宝石に注がれていた。

「間違いない、コレわたしの体の一部だ……大会に優勝したら、望みのモノを与える? このティアラでも?」

 ビキニアーマー〈上〉のフギンが言った。

『プルシャ姐さん、出場してみたらいいじゃないですか、賞金も高額みたいですから』

 ビキニアーマー〈下〉の、ムニンが続けて言った。

『この王女さまが付けているティアラの宝石が、プルシャ姐さんの部品の一つなんですか?』

「これ、一つだけじゃ体は動かないけれど。分散している部分を集まれば」


 食事を済ませてカウンター席から離れたプルシャに、剣を持った粗雑そうな男が近づいてきた。

「さっき、そのビキニアーマーしゃべっていなかったか?」

 プルシャの前にしゃがみ込んだ男は、ビキニアーマーのパンツを見ながら会話する。


「あんたも大会に出場するのか、やめておけ優勝するのはこのオレだ」

「通行の邪魔だから、どいてくれませんか……あまり股間をジロジロ見られると困るんですけれど」

「ここを通りたかったら、オレを倒して……おごぅ!」

 プルシャの膝蹴りが、男の顔面にヒットして男は吹っ飛んだ。

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