第2話 ラカサウィルス
俺と霞は公園の近くにある喫茶店に移動した。
霞が言うには俺に会って欲しい人がいるとのことで、その人が来るまで喫茶店で待つことにした。
普段、あまり喫茶店に行くことはないが、ゆったりした音楽が流れていて、落ち着く雰囲気であった。
「私はホットコーヒーとジャンボパフェを頼むが、和人は何を頼む?」
「それじゃ、俺はアイスコーヒーで……」
呼び出しボタンで店員を呼び、注文をした。
霞が注文したパフェは想像以上にジャンボで、全部食べきれるのか心配になる。
「おお……大きいな。本当に食べきれるのか?」
「当たり前だ。意外かもしれないが、私は甘いもの好きなんだ」
いや、意外なのはその細い身体でデッカいパフェを食べることなんだが……
霞はスプーンを手に持ち、ジャンボパフェを食べ始めた。
物凄いペースで食べ進めていき、気づけば半分以上も無くなっていた。
「おい和人、何をジロジロ見ている」
おっと、いけない。
あまりにも美味しそうに食べているもんだから、つい見入ってしまっていた。
「いや、その……」
返答に迷っていると、霞は何故か愉快そうに微笑んだ。
「そうか、そうか。パフェが食べたくなったのか、全く仕方ないな」
いや、全く違うのだが。
否定する間もなく、霞はアイスとクリームが乗ったスプーンを俺の口元に突き出した。
「特別に一口だけ食べさせてやろう」
「そ、それじゃ……お言葉に甘えて」
霞からパフェを一口分食べさせてもらうことにした。
しかし、何だろうか、この状況は。
どうして昨日、知り合ったばかりの少女にあーんして貰っているのだろうか。
ちなみにパフェはとても美味で今度、普通サイズのパフェを頼んでみようと思った。
突然、テーブルに置いてあった霞のスマホがバイブする。
霞はスマホを手に持ち、画面を確認した。
「どうやら到着したようだ」
入口の自動ドアが開き、一人の女性がカツカツとハイヒールを鳴らながらこちらに向かってくる。
霞は立ち上がり、「こっちです」と軽く手を振って合図した。
茶色いウェーブヘアのその女性はスーツを着ており、やり手の女社長という雰囲気であった。
「お待たせ、霞。待ったかしら?」
「いえ、そうでもありません。和人、紹介しよう。こちら東大附属病院の院長、
「院長!? この人が……」
具体的な年齢は分からないものの、見た目は二十代後半くらいに見える。
その若さで院長を務めていることに驚きを隠せない。
鈴鹿さんは霞の隣に座った。
「初めまして。霞から話は聞いてるわ。さっきは本当にありがとう。どうやら、うちの副院長が迷惑を掛けたみたいね」
「いえ……あの、鈴鹿さん。ラカサというのは一体何なんですか?」
「えっと、そうね……あ、説明する前に注文しても良いかしら?」
「あ、はい」
鈴鹿さんはメロンフロートとチョコレートケーキを注文した。
医療関係で働く人は甘党なのだろうか。
「さっきの質問なんだけど……ラカサっていうのはウィルスの一種なの」
「ウィルスって言いますと、インフルエンザみたいなものですか?」
「インフルとはまた少し違うわね。普通のウィルスは細胞を媒介にして増殖するんだけど、ラカサは人間の持つストレスを媒介する……新種のウィルスよ」
「新種の……ウィルス……」
「ええ、そうよ。それにラカサウィルスには意思を持っていてね。宿主の記憶を引き継いで怪人化するの。しかも、宿主の持つ悩みを他人に植え付けることで強くなる性質を持つ……非常に厄介なウィルスよ」
な、何と恐ろしいウィルスだろうか……
ストレス社会と言われるこの世の中だと、街中が怪人だらけになってもおかしくない。
「まぁ、感染しても副院長みたいに怪人になるなんてことはほとんど無いんだけどね。けれど、一刻も早くワクチンを作る必要があるわ。その為には怪人との戦闘データが必要なの」
「鈴鹿さんはダークウォリアーとして戦う人材を探していた。しかし、変身するにはラカサの攻撃に免疫を持つ特異体質の人間が必要だったのだ。それが和人……君だったというわけだ」
霞が昨日、俺が特異体質であると説明したのを思い出す。
つまり、二人の知り合いには俺のような特異体質の人間はいないということなのだろう。
「お待たせいたしました。こちら、メロンフロートとチョコレートケーキです」
先程、鈴鹿さんが注文したメロンフロートとチョコレートケーキが運ばれてきた。
鈴鹿さんは「わぁ、美味しそう!」と嬉しそうに呟き、美味しそうにチョコレートケーキを食べ始めた。
「ラカサのことは分かりました。それと、この変身ウォッチはどういう原理なんでしょうか?」
「変身ウォッチについては私から説明しよう」
霞が変身ウォッチの原理について説明してくれたが、話があまりにも専門的すぎていまいちよく分からなかった。
「和人君には引き続き、ラカサとの戦闘をお願いしたいわ。けど、絶対に無理だけはしないでね」
「分かりました」
「私もラカサの情報を掴んだら、連絡するから。和人君、連絡先を交換しておきましょうか」
「和人、私とも連絡先を交換しておこう。変身した君の身体は定期的にチェックした方が良いからな」
二人と連絡先を交換し、その場は解散となった。
鈴鹿さんはこれから病院に戻って、仕事をするらしい。
「和人、近くならバイクで家まで送ってやろう。どこに住んでるんだ?」
「えっと、ブランコ文京ってところなんだけど……」
この喫茶店から五キロほど離れたところにあるアパート、そこに俺は住んでいる。
アパート名を伝えると、何故か霞の瞳孔が大きく開いた。
「驚いたな……私の住んでいるアパートじゃないか」
「え、本当か? すごい偶然だな。まさか、お隣さんだったりしてな」
「まさか。和人は何号室に住んでるんだ? 私は202号室だが……」
「えっと、その……201号室」
何という偶然だろうか。
霞が住んでいるのはまさに俺の隣の部屋であった。
「ほう、驚きだな。まさか本当に隣だったとは。丁度良い、今日は私も久々に家に帰る予定だったんだ。一緒にアパートに向かおう」
「ありがとう、助かるよ」
霞のバイクに乗り、俺達はアパートへと向かうことにした。
かつてヒーローに憧れていた俺が怪人と戦う理由 木津山且 @kizuyama
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