やるせない結末。この罪は私が背負います
憲兵達に断罪の結論を命じた後、後方の民衆から歓喜の声が上がった。
とはいえ、まだ正座したままなので、横を向いて喜び合う状態だ。
「みなの者!表を上げなさい。立ち上がって良いわよ」
シオンがそう言うと民達は後上がって、お互いに抱き合い喜びあった。
「シオン王妃様バンザーーーイ!!!」
「シオン王妃様、ありがとうございます!」
「ううぅ、本当にありがとうございます……」
「グスッ、ようやく娘の仇が取れました」
「皇帝陛下は我々を見捨ててなかったのね」
ザワザワ
ザワザワ
ほとんどの民衆が涙を流しながら感謝を述べた。
いったい、どれだけの女性を持て遊んでいたのよ!
「皆さん!聞いて下さい!長い間、クズな領主を野放しにしていて、大変申し訳ございませんでした!今ここに、乱暴された女性達に心からの謝罪を致します」
シオンは街の人々の前で深く頭を下げた。
あれだけ騒がしかった周囲が、あっという間に静かになり、その姿に目を奪われた。
この国の王妃様が、平民に頭を下げる。
これはこの国の常識では考えられない事だからだ。
「あ、頭をお上げ下さい!」
「シオン王妃様は街を救ってくれました!」
「シオン王妃様は悪くありません!」
シオンはゆっくりと頭を上げると申し訳無さそうに言った。
「これは同じ女性として、決して許されない事だと思っています。そして救えなかった自分に対しての贖罪でもあるのです。本当に申し訳ございませんでした」
再度、頭を下げてからこれからの事についてお願いした。シオンの心からの謝罪は街の人々の心を打った。そして人々から、『ありがとう』という言葉が心から言われるのだった。
「皆さんにお願いがあります。王宮の騎士団が来るには数日掛かります。罪人とはいえ、手当てをしてしばらく監禁しておくのを手伝って下さい」
「喜んでお手伝い致します!」
「誰かロープと包帯持ってきてくれっ!」
「よっしゃ!俺が取りにいくぜ!」
「私も手伝います!」
街の人々が慌ただしく動き出した。
「シオン王妃様、本当にありがとうございました」
1人の男性が声を掛けてきた。
「もう聞き飽きましたわ」
苦笑いしながら答えるシオンに男性は軽く首を振って答えた。
「いえ、皇帝陛下が我々を見捨てていないとわかっただけでも希望が持てました。………亡くなった娘もようやく浮かばれます」
!?
「貴方は………そうでしたか。私はもっとより良い国になるよう尽力します。その時はぜひ協力下さい」
「はい。全力でお手伝いさせて頂きます」
涙を流しながら感謝する男性の顔は晴れやかだった。
そしてシオンはこの場を街の人達に任せて伯爵の屋敷に入った。
「それで、奴隷にされた女性達はどこに?」
「はい、現場まで行けてませんが、この通路の奥に地下へ降りる階段があります。普段は見張りがいましたが、その……降りなくても声が聞こえていたので」
なるほどね。
地下の階段付近まで声が聞こえると言うことは、そんなに深くないわね。
シオンは護衛騎士を何かあった時の為に3人ほど表に残して、ハルとアキ、騎士2名とカノンを伴って地下へ向かった。階段を降りていくとシオンは匂いに気付いた。
「これは……まさか!?」
タタタッ!と急に走りだす。
バッとたどり着くと口を覆った。
「シオン令嬢!いったいどうし───」
カノンも全て言い切る前に、目の前の惨状に口を覆った。
「そんな………」
目の前には殺害された女性達と複数人の男性の遺体が転がっていた。全員服を着ていない事からヤッてる最中に殺されたのだろう。
女性達の遺体は20人もあった。
「そんな!奴隷にされた女性は数人だって!?」
「残りは街で拐われた女性でしょう。病気になったり、使い物にならなくなった女性しか解放されなかったのよ」
ギリッと歯を喰いしばって怒りを抑える。
カノンもハンカチを口に当てながら尋ねた。
「どうしてここの女性達は殺されたのでしょうか?」
「私のせいよ。ジグモを甘く見てたわ。奴隷にされた女性達は恐らく常闇の蜘蛛の仲間達に連れてこられた。道中、奴らの隠れ家に寄ったか、会話など聞いていてもおかしくない。情報を漏らさない為の口封じね」
それだけで、これだけの人間を惨殺するだと!?
カノンが驚いていると、アキが膝を着いて泣いていた。
「ごめんなさい………助けられなかった」
声を殺して泣いているアキを抱き締めた。
「アキ、これは私の責任よ。貴女は悪くない!自分を責めるのは止めなさい」
「でもお嬢!?」
さらに強く抱き締める。
「あの時、ジグモと対決していれば、こちらが全滅するか、勝っても生き残るのは1、2人ぐらいだったわ。私はみんなに死んで欲しくなくてヤツを見逃した。だからこれは私の責任。あなたは悪くない!決してね」
お嬢~~!!!!
アキはシオンの胸の中で大泣きした。シオンはアキが泣き止むまでそのまま抱きしめ続けた。
ジグモ………【地獄の蜘蛛】に由来する幹部の名前だ。常闇の蜘蛛の幹部は、蜘蛛の名前が与えられる。
私は決して許さないからな!
『なんて高貴で気高い女性なんだ』
カノンの中に言い表せない感情が芽生えていた。
そして自分の不甲斐なさに腹が立つ!
思いっきり壁を殴って怒りを抑えたいが、目の前のシオンが必死に怒りを殺して、仲間を慰めているのにそんな事はできない。
【常闇の蜘蛛】
この代償は高くつくぞ!
オレの帝国で好き勝手などさせん!
カノンことゼノンは皇帝として、悪徳貴族の粛清と常闇の蜘蛛の根絶に力を尽くすと心に誓った。
「シオン令嬢、オレも……私も協力致します!」
「カノンさん、その気持ちだけ受け取っておきます。助けは必要ありません」
!?
まさか断られるとは思っていなかった!
「どうしてですか!?」
「これは私の責任であり、贖罪であり……個人的な復讐ですから。私の意志でジグモは、常闇の蜘蛛は皆殺しにしてやるからですわ!捕えて公開処刑などさせない。この手で殺してやるから、帝国騎士の助力はいりません!」
シオンの怒りに燃える瞳をみてカノンは何も言えなくなった。
「………わかりました。ただ情報だけは、わかり次第お伝え致します」
「感謝致します。カノンさん、私は無力です。不当な借金を負わされ、それを免除してやると向かった先で奴隷になり、売られて、売られた先で魔薬を射たれて、大勢に乱暴された女性達。そして最後は意味もわからず殺されたんですよ………この女性達が何をしたと言うのですか!」
シオンは目に焼き付ける様にこの光景を脳内に記憶した。そのシオンにも怒りからか、涙が溢れていた。
「私の名に掛けて、死んだ女性達の身元を確認して家族の元へ送ります」
「お願い致します」
こうして、シオン達には苦い経験となった事件は終結したのだった。
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