行動派

伯爵が出ていってから皇帝がリオンに尋ねた。


「先程の話で、裏付けが取れていると言うのは本当か?」


皇帝の問い掛けにリオンは軽く笑いながら言った。


「いえ、まだお嬢………シオンお嬢様が調査を初めて数日です。裏付けまでは取れておりません。あのドラックも、ちょっとナイショの方法で伯爵の屋敷から持ち出した物なので」


「フフッ、伯爵を引っ掛けたと言う訳か」

「まぁ、半分は本当の事ですよ?意味もわからず連れて来られたあの伯爵なら、この後の事情聴取に素直に応じるでしょう」


皇帝と宰相は、破天荒なシオン令嬢の騎士だと思った。


「はぁ~俺にも貴様の様な護衛騎士が欲しいな。リオン、俺に仕える気はないか?けっこう本気なのだが?」


「そこまで買って頂き恐悦でございます。しかし、私はシオンお嬢様に忠誠を誓っておりますゆえ。あ、皇帝陛下がシオンお嬢様を日曜の妃にして頂ければ、同じ様に護衛騎士として、近くに居られますが?」


そこで、ゼノン皇帝とリオンはお互いに顔を見合わせ、同時に笑った。


「クククッ、なかなか主を立てるのが上手いではないか?本気にしそうだ」


「恐縮です。それでは自分は失礼致します。陛下との謁見が終わり次第、すぐに戻るよう言われているのです」


そこで宰相は口を挟んだ。


「お待ちなさい。まだシオン令嬢に、【例の物】の使用をして良いという書類が出来てません。1時間ほど時間を頂きたい」


宰相の言葉に、あっ!と思い出したリオンだった。


「私はただの護衛騎士なので知らされておりませんが、シオンお嬢様に何を渡されたのですか?」


「ああ、皇室に伝わる金のメダルだ。手の平サイズぐらいあってな。皇帝が急な用事や病気になって公務ができない時に、【皇帝の代行者】として【身分を証明】する物だよ」


ぶっ!?

なんつー物を渡してるんですか!

まだ会ったこともない妃ですよ!?


「安心しろ。万が一、盗まれた時の為に、皇室の正式な書類とセットにしないと効果はない。有効期限も設けてあるしな」


「なるほど。だからシオンお嬢様が皇帝の許可が必要だといったのですね。それなら、先に渡さないでも良かったのでは?」


「オリオン辺境伯の令嬢は他国の人間ですからな。皇帝代理の効果はないとはいえ、皇室が認めたと身分証にはなります。無知な人間を黙らせる物にもなりますので、先にお渡ししました」


宰相が教えてくれた。


「まっ、不可抗力でも失くしてしまったら首チョンパだけどな」


クスクスと笑う皇帝に、リオンはシャレになってねぇー!と思うのだった。


それから準備があるからと、リオンはまた応接室で待たされた。


「さて、皇室の公文書の書類を用意してくれ。オレも出掛ける準備をする」


!?


「まさか!行かれるのですか!?」


「妃達は全員、帰らせてあるし、緊急の公務もない。数日留守にしても構わないだろう?」


宰相は軽くため息を付くと頷いた。


「かしこまりました。こちらでできる書類は、やっておきます」

「すまない。頼む。それにしても、オレは東部では相当軽んじてられているみたいだな。憲兵まで機能していないとは、少しショックだった」


「不敬を承知で言わせてもらえば、前皇帝は余り良い人格者ではありませんでしたからな」


「………ああ、賄賂に弱く、伯爵のドラ息子の様に、享楽にふける愚王だった。病死してくれて本当に助かったよ。もう少し遅ければ、帝国は財政破綻するか、領民から反乱を起こされるかの、どっちかだったからな」


「領民の反乱は今も燻っていますぞ?シオン令嬢のお陰で東部は改善しつつありますが」

「ああ、強引に改革を進めたが、腐った官僚を追い出すだけで1年間も掛かった。まだ地方の現状まで把握できていない状態だからな」


あっ!?と皇帝は良い事を思い付いたと言う顔をした。


「宰相、まだ王宮騎士団が東部に派遣された情報は、西部や北部には伝わっていないよな?」


「まだ派遣して1週間も経っていません。担当の者は理由も分からず出発したので、近隣の領主はともかく、少し離れた所には情報は行ってないでしょう……あ、そういう事ですか」


宰相も意味がわかったようだ。


「南部は国境があり、イザコザが絶えないので、人の流れも多い。故に、不正をする貴族は少なく堅実な領地経営をしています。不正が多いのが、東部と西部です。恐らくシオン令嬢は今後、西部にも向かうと思うので、先に調査しておけば手間が省けますな」


「そういうことだ。だが、帝国の膿をだすのに、シオン令嬢だけに押し付ける訳にはいかないからな。偵察部隊を派遣して、各領地の現状を調べておいてくれ」


そう言うと皇帝は出掛ける準備に取り掛かった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る