東部の事情

驚く仲間にシオンは説明した。


「何も驚く事はないわよ。ここは東部のヴァイス侯爵が権力の幅を利かせている所よ?しかも、あの男爵が治めていた領地の隣ですもの。まともな領主でも、莫大な上納金を献金するよう脅迫されていては、何処かで不正しなければ、やっていけないのでしょうね」


まぁ、これだけ買った上客なのに、店の店主が冷や汗掻きながら不審な感じを出していたのが気になったのだ。普通は喜びながらありがとうございました!って言うのにね。


シオンは安酒を一口飲んで喉を潤した。


「では、お嬢はここの領主が仕方なく不正をしていると?」


シオンはワイングラスを揺らしながら答えた。


「う~ん?そこは調べてみないとわからないけど、ここに来る途中の道がしっかり舗装されていたのと、街は活気があったわ。衛兵もしっかり巡回していたの気付いたかしら?領主の威光がちゃんと効いている証拠よ」


な、なんだと!?

ただショッピングを楽しんでいただけでは無かったのか!?


護衛騎士やハル、アキは驚いた顔でシオンをみるのだった。いや、普通に失礼だな!オイッ!?


「他にも、不正があるか調べないとね。今日は、ゆっくりと休んで、明日から調べましょう。それと安酒でも食べ物は粗末にしてはいけません!しっかりと飲み干しましょう!」


泣く泣くシオン達は開けたワインを最後まで飲み干すのだった。まともなワインもあったのが救いだったわ。



そして翌朝──


「取り敢えず、目立つ聞き込みは避けて、さりげなく街の情報を聞き出してきてね。私は昨日のワイン店に行ってみるわ。ハルとアキは領主の事を探ってちょうだい」

「かしこまりました!」


よし!行動開始だ!


シオンは昨日のワイン店に足を運んだ。

まだ早い時間帯ではあるが、すでにお客が居るようだった。


「待って、様子がおかしいわ」


店の外に馬車が停まっており、窓の外から中をみると、貴族っぽい服装の人物が店主と話していた。


なんだか貴族っぽい人の方が頭を下げているようだった。


『う~ん?どうしようかしら?』


私は【得意】の読心術で話している内容を読むと、不正の手伝いをさせて申し訳ないと言っていた。

シオンは少し悩んだが、このまま中に入った。


コンコンッ

「失礼しますわ。昨日購入したワインについて伺いたいのですが?」


シオンは騎士と共に高いワインを何本も買ったお客様だ。店主もよく覚えていた。


そしてシオンがどうして来たのかも───


「あ、あのそれは………」


しどろもどろになって答えようとする店主に、貴族っぽい人が口を挟んだ。


「失礼、よろしいかな?」

「はい、なんでしょうか?」


お互いに相手の素性を推測しあって言葉を交わした。


「もしかして、昨日ワインを購入した方でしょうか?」

「あら?よくわかりましたわね?」

(なんてね。先ほど私が言ったじゃない)


「それで貴方はどなた様なんですの?」


シオンの目つきが鋭くなった。


「度々、失礼しました。私はクリフト・ゼファーと申します。この街の領主をやっております」


あら?偶然ですわね。

見た目は40代前半って所かしら?

確かゼファー家は子爵家でしたわね。


「ご紹介ありがとうございます。私はシオンと申します。故あって家名は名乗れないのです。今は、お忍びの旅の途中なので。ご了承下さいませ」


シオンは丁寧にカーテシーをして正式な挨拶をした。


なるほど。見た事のない顔ですが、彼女も貴族で間違いないですね。護衛の騎士もいる事です。これは素直に謝った方が得策ですね。


「かしこまりました。実は昨日納品されていたワインに不良品が混じっている事が判明致しまして、店主の相談に乗っていたのです。シオン令嬢もワインの味がおかしくて来店されたのでは?」


「あら!やっぱりそうだったのですね!?」


シオンはわざとらしく驚いた振りをした。


「よろしければ、お詫びに、昨日購入したワインと同じ物をプレゼントさせてください」


「それは嬉しいですわ。御厚意に感謝致します。」


ふぅ、怒っていなくて助かったな。

クリフトは内心でホッと一息付いた。


「では、こちらもクリフト様の好意に甘えて、1つご相談がありますの」


ピクッとクリフトの身体が固まった。

コソッ

「もうすぐ国王陛下の抜き打ち監査が行われます。ワインのラベル詐欺はすぐに撤去された方がよろしいかと」


!?


驚いた顔でシオンを見るクリフト子爵だった。




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