第31話 連日で怒られました←
心地よい微睡みだった。
いつまでも包まれていたいと。
いつまでもこうしていたいという思うほどに、それは心地よかった。
すぐそばから感じるぬくもりがあって、そのぬくもりが心地よさの正体であることは間違いなく、その心地よさに、もう少しだけ包まれていたかった。
でも、一度心地よさの正体に気付いたからなのか、俺の意識は徐々に覚醒を始めていく。
手放したくないと思うのに、それはあっさりと俺の掌からこぼれ落ちていた。
残念だなと思いつつ、俺はそっとまぶたを開いた。
真っ先に見えたのは見慣れぬ天井だった。
連日で見慣れない天井を真っ先に見上げるという経験は、学校の修学旅行以来。
まるで異世界ではなく、地球にいるような感覚だった。
そんな感覚の中、ふと右腕がうまく動かないことに気付いた。
なんでだろうと視線をずらすと、そこには俺の右腕を枕にして眠る、産まれたままの姿になったカルディアがいた。
カルディアの姿を見て、昨夜の出来事が一気にフラッシュバックした。
「……そっか。カルディアと」
前髪を掻き上げながら、昨夜の出来事を振り返った。
……カルディアにちょっと、いや、かなり無理をさせてしまっていたことを思い出していた。
「……途中から呂律が回っていなかったもんね」
カルディアは途中まではちゃんと相手をしてくれていたのだけど、途中からは、俺が暴走してしまったせいで、されるがままになっていた。
俺だってカルディアが経験がないことはわかっていた。
わかっていたのだけど、その、どうにもね。
ベッドの上のカルディアと、普段のカルディアとのギャップが凄すぎて、つい夢中になってしまった。
特に、「シリウスが起きちゃうから」と声を必死に抑えていたのを見て、理性が飛びました。
その際、俺がぶちまけたバカな一言は思い出したくもないくらいだよ。
あぁ、どうして俺はあんなおバカ極まりない一言を告げてしまったのやら。
カルディアに右腕を使われていなかったら身悶えしてしまうほどに、そのときの俺は羞恥に蝕まれていた。
……カルディアがじっと俺を見ていることに気づけなかったくらいだし。
そう、そのときの俺はカルディアがすでに起きていることに気づいていなかった。
その前の晩の自分の失態に、ぶっ飛びすぎた自分の言動に悶えていたんだ。
「……あぁ、どう謝ろうかなぁ」
しまいにはどうやってカルディアに謝ろうかと考えていた。
もっとも、どれだけ考えたところで意味なんてなかったわけなんだけども。
なにせ──。
「……情熱的だったもんね、旦那様は」
「ふひゃぁぁぁぁぁぁ!?」
──カルディアはじっと気配を殺して俺に近付くやいなや、耳を甘噛みしてくれましたから。
……うん、実を言うと、俺耳が弱いんです。
昔から耳を擽られたり、息を吹きかけられると叫んじゃうんです。
そのときは、自己嫌悪していたうえに、不意討ちだったこともあり、いつもよりも大声が出てしまった。
そんな俺を見てカルディアはきょとんとしたが、すぐに笑ってくれた。
が、当の俺にしてみれば笑えることではなかった。
「な、なにするんだよ、カルディア!?」
めちゃくちゃに顔が熱くなりながら、俺は弱点を突いてきたカルディアを非難した。
が、当のカルディアは気にした様子は見せず、ベッドシーツに包まりながら、俺の上にのし掛かってきたんだ。
「旦那様、かわいい」
くすくすと笑いながら、掛かっていた髪をそっと払うカルディアは、一枚の絵画のようでとてもきれいだった。
同時に、前の晩の痴態を思い出すと、なんとも淫靡に見えてしまっていた。
実際、そのときのカルディアはシーツ以外で体を隠すものはなかった。
それに前の晩の痴態が事実である証拠が、彼女の肌にはいくつも刻み込まれていた。
「……「どれだけ声を我慢できるか、確かめようか」だっけ?」
「ぐ、ぐぅ!」
「昨日の旦那様はすごく意地悪だったよね? 「もうダメ」って。「もう許して」って何度も言ったのに、ぜーんぶ無視されちゃったもの。それどころか──」
「も、もうそれくらいで」
「──「かわいくオネダリできたら、やめてあげるよ」って言ったから、頑張ったのに。旦那様ったら、「かわいすぎるから、オシオキ」ってそれまで以上にたっぷりと虐めてくれたもんね?」
くすくすと笑うカルディア。その笑みと言葉に俺がのたうち回りそうなほどのダメージを受けたのは言うまでもない。無論、羞恥心という意味で。
「ふふふ、やっぱり憶えているんだ? まぁ、そうだよね? だって、旦那様ったらベッドの上ではケダモノさんだったもの。私はそのケダモノさんにたっぷりと戴かれてしまったゴチソウだったもんね?」
にんまりと嬉しそうに笑うカルディアに、俺はなにも言い返すことができなかった。
事実、前の晩の俺はすごい暴走をしていた。
レアさん相手ではそうならなかったはずなのだけど、カルディアに関してはもはや大暴走と言ってもいいほどのやらかしをしてしまっていた。
だからカルディアの物言いは、否定できなかった。というか、否定できることがなにもなかった。
「……でも、少し不満があるんだよね」
「え?」
「まだ昨晩だけじゃ足りないと思うんだ」
「た、足りないとは?」
「……旦那様にとって、私が一番の女になれたかどうかの確認だよ? だから──」
カルディアはすっと顔を近づけると、艶やかに笑った。
「──シリウスが起きるまででいいから、かわいがってほしい、な」
そう言って、カルディアは唇を重ねてきた。
重なった唇を、カルディアの舌が割り開いてきた。
その瞬間、カチリとなにかが動くような音が聞こえた。
気付いたときには、カルディアは俺の体の下にいて、俺は貪るようにカルディアと口づけを交わしていた──。
「わぅ、ぱぱうえとままうえ、なかよしさんなの」
──のだけど、突如聞こえてきたシリウスの声に俺は慌ててカルディアから離れた。
シリウスの声が聞こえた方を見やると、そこにはシリウスと、シリウスを抱っこして、顔を真っ赤にしたプーレが立っていました。
プーレは顔を真っ赤にして、ぷるぷると震えていた。
「……ちゃうんすよ。これはちゃうんすよ。ほんとうにちゃうんすよ!?」
下手な関西弁を口にしながら、必死に誤解であることを伝える俺。
しかし、悲しいことにすでに審判は降されていた。
「あ、朝っぱらからなにをしているのですかぁぁぁぁぁぁぁ!?」
宿泊施設にプーレの怒号が響き渡った。
かくして俺は連日で朝から怒号を聞くというハメになったのだった。
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