闇より黒いブラック上司への下克上~いつか絶対、お前に俺の靴を舐めさせるから~

@nao74

唐突な出張マジ怠い

 いつか絶対に土下座させて、俺の靴を舐めさせてやる。恨み、殺意、憎しみ、あらゆる負の感情で胸を満たしながら、竜の首に剣を突き立てた。

 

 それもこれも全部、あのクソ上司のせいである。






「なあジン君。きみ、今期のノルマ足りてないだろ? 優しい上司の僕が仕事持ってきてあげたから、有難く出張行ってき?」


「えっ……いや、俺今から」


「返事は?」


「……イエス、ボス」


 そう告げてきたのは鬼畜上司こと、グリムナ・レイヴン。冒険者ギルド第3支部の支部長であり、直属の上司だ。黒髪金目に全身を黒のスーツと黒づくめの男で、今日も性格の悪さと異様な威圧感が胡散臭い笑顔からににじみ出ている。


 冒険者ギルドは国・民間を問わず、集まった依頼をこなすことで利益を上げている。ギルド員の業務内容は、依頼を集める営業力と、冒険者を使って効率よく依頼を消化する管理能力が求められる。

 それゆえ大抵は営業部と管理部に分かれて業務を行うのだが、第3支部はクソ支部長の方針で、営業と管理の両方をこなす必要がある。意味が分からない。


 けれど実際に支部長自身が自分で仕事をかき集めて管理し、全支部含めた最高の業績をたたき出しているため反論できず、第3支部は他支部の二倍の業務量をこなす必要がある。しかも無駄に能力の高い上司が、個人の力量に合わせて達成できるか否かのギリギリのノルマを設けてくるため、端的に言って最悪としか言えない。ちなみに給料は他支部の1.3倍。2倍ではない。


 クソ支部長から1枚の依頼書が渡される。依頼の内容は氷山に住むアイスドラゴンの討伐。残り物にはゴミしかない。労力と報酬が見合わずに誰も手を出さなかった依頼だ。


「氷山まで行くとなると往復で二か月の長期依頼、何よりもこの難易度では在中している冒険者で対応しきれません。」


 オチは分かりきっているが、せめてもの反論をする。

 実のところ、ギルドに来た依頼は必ずしも冒険者が対応する必要はなく、ギルド員でも対応可能だ。しかもギルド員が対応すれば報酬分の支払いも浮くため、非常に利益率が高くなる。業績を上げるためにギルド員が使う最終手段だ。


 ただ、自分が対応することになるとは言え、期間の問題はなくならない。2ヶ月も支部から離れれば、逆にノルマに到達できなくなる。けれどもこの上司はクソとは言え有能である。嫌がらせのために全体の業績が下がるような真似はしない。そう考えると嫌な予感しかしない。


「それは冒険者が馬車で行ったらの話やろ? 第3支部最速とも言われる自分が行って、自分の足で走れば半月で十分。期間も難易度も関係なく、ノルマ超えておつりがくる。違うか?」


 このクソ上司、殺してやろうか。


「なに? 自分不満でもあるん? 嫌ならいいんやで? まあ僕なら結果に結びつくもんは絶対断らんけど。何も積まずに何者かに成れると思ってるなら、一生カスのままモタモタ生きればいいんじゃないか?」


「……行きます。行かせてください。」


「最初からそう言えや。 じゃあよろしく。」


 ……絶対にいつか、こいつより偉くなって、土下座させて、俺の靴舐めさせてやる。心の中で強くを誓った。



 




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