神と旅する異世界クエスト
空色凪
第1話
少年は気がつくと野原で横になっていた。空は快晴、雲一つなし。少年は辺りを見回して、一人の少女が隣で寝ていることと、剣が一振り、本が一冊落ちていることに気づくが、その女性が誰なのかを思い出せない。この状況に困惑した少年はとりあえずその少女を起こすことにした。
少女を起こそうと彼女に近づいた少年は、少女の顔を見てはっとする。白髮のボブヘアに包まれた雪のように白く透き通る肌が織りなす美貌に見惚れたのだった。少年はしばし我を忘れ、少女を起こすのが躊躇われてしまった。少年は諦めて少女が自ずから起きるのを待つことにした。
少年は今一度辺りを見回してみてある疑問を抱いた。自分はどこの誰なのか、と。どうしてここにいるのか、眠ってしまった前は何をしていたのか。何も思い出せないのだ。そんな少年は思いついたかのように地面に転がっていた本を手に取ると、開いてみることにした。1ページ目だけが記された本にはこう記されていた。
『男のあなたはナギ、女のあなたはマキ。私は神です。あなた達にはこの世界オリエンスにて為すべき使命があります。ですが、その使命は教えることはできません。代わりにクエストを提示します。多くのことに挑戦し、知り、経験し、考えることです。ナギ、あなたには武術の天賦を与えました。マキ、あなたには魔術の天賦を与えました。その力で何を為すか、何も為さないかはあなた達次第です。では、行ってらっしゃい』
少年、ナギは困惑する。記憶がない上に神からのメッセージと、依然として状況が掴めない。ナギはその後本をよく調べたが、1ページ目以外は空白で、最後の最後まで何も記されていなかった。
「あなたは?」
ナギは急に声がして驚いた。少女が起きたのだった。鈴を振るようなその声は純粋な声音だった。ナギは少女の天真爛漫に輝くエメラルドのように翡翠色した瞳を見つめて答える。
「僕はナギってことになってる」
「ナギさんですね」
「君は?」
「私は……わかりません」
「マキって名前らしいよ」
「そうなのですか?」
「この本にそう書いてあるから」
そう言ってナギは持っていた本を少女マキに手渡す。マキは恐る恐るその本を受け取ると、最初のページを見開いて読み始める。マキは例の神からの、という文章を食い入るように読んだ。
神からのメッセージを読み終わると、マキは首を傾げながら本を調べ始める。背表紙を見たり、横にしてみたり。だが、何も見つけられなかったようだ。マキは諦めて本を閉じると、再びナギに尋ねた。
「この内容、本当なんでしょうか」
「僕もわからないな。だけど、そう言うってことは、やっぱり君も記憶がないんだね」
「はい。あなたもなのですね……。あれ、これは?」
マキが声を上げたのは本が急に光り始めたからだった。マキが光り輝く本を不思議そうに調べ始めると、2ページ目に文字が浮き上がっていることに気づく。マキはその言葉を追うようにして読み上げる。
『これより最初のクエストを与えます。武神の宝玉を手に入れなさい。この石は今あなた達がいるエルーニャ草原の東の果てにある森の中にあります』
マキが読み上げた内容に、ナギも一緒になってページを読み始める。すると、3ページ目に新たな文字が浮かび上がる。
『報酬:経験値5000P、指南書』
二人は続きを読んでいく。
『エルーニャ草原には危険な魔物は生息していませんが、武神の宝玉を祀る祠のある森の中には危険な魔物が多数生息しています。気をつけてください』
2ページ目にはこう記されていた。ナギはマキを見る。彼女は真剣な面持ちで本をまじまじと眺めていたが、ナギの視線に気づくと笑顔で頷いた。
「行きましょう」
「そうだね。とりあえずこの草原のど真ん中にいても仕方がないし。ただ、森に着いたら魔物をどうするかだね。この本の内容を信じるならの話だけどさ」
「とりあえず、歩きながら考えましょう。この見晴らしのいい草原なら、魔物がいてもすぐに気付けるし」
「もし遭遇したらこの剣でどうにかするよ」
少年は地面に落ちていた剣を拾い上げると構えた。だが、どこかぎこちない構え方であった。マキはその様子を見ながら微笑んで訊く。
「剣の経験は?」
「そもそも記憶がないんだって」
「そうでしたね。体は覚えてないかしら?」
「残念ながら」
少年が同じく地面に落ちていた鞘に剣を納めると、呟く。
「この剣も神が用意したのかな」
「そうだと思います。だって不自然ですもの」
「たしかにね」
二人は本の中の神が示すように東へと歩き始めた。
エルーニャ草原は長閑な風景の広がる広大な草原だった。時折、空に羽ばたく鳥が心地よくさえずり、風に乗って花々の香りが漂ってくる。ナギとマキは道なき道を小一時間ほど歩き続けた。
「ふぅ、なかなか遠いね」
ナギは額に流れる汗をぬぐいながらマキに声をかける。マキもすでに歩き疲れて、少し疲れ気味だ。しかし、すぐにあの天真爛漫な笑顔に戻る。
「でも、もう少しで着くと思いますよ」
そう言いながら前方を指さすと、少し先に森が見えた。
「あ、本当だ」
二人は森を目指して歩き続ける。だが、森に入る前に本をもう一度確認することにした。案の定、本には続きが記されていた。
――――――――――――――
ナギとマキのステータスを表示します。
ナギ
職業:剣士
レベル:0(0/10)
SP:3
体力:20
魔力:10
武力:30
知力:10
スキル:なし
魔法:なし
加護:『武術の天賦』
称号:なし
マキ
職業:魔術師
レベル:0(0/10)
SP:3
体力:10
魔力:20
武力:10
知力:30
スキル:なし
魔法:なし
加護:『魔術の天賦』
称号:なし
なお、
『武術の天賦』の効果は体力倍化、武力三倍化
『魔術の天賦』の効果は知力三倍化、魔力倍化
である。
取得可能スキル
消費SP1:『身体強化Ⅰ』『剣術Ⅰ』
消費SP2:『身体強化Ⅱ』『剣術Ⅱ』
消費SP3:『身体強化Ⅲ』『剣術Ⅲ』
取得可能魔法
消費SP1:『プチヒール』
消費SP2:『プチキュア』
消費SP3:『サーチ』『魔弾』
クエスト:初めてのスキル選択/魔法選択
達成条件:『身体強化I』と『剣術Ⅰ』をナギが、『プチヒール』と『プチキュア』をマキが取得する。
報酬:経験値10p
――――――――――――――
本を読み終えると二人は顔を示し合わせた。
「このクエスト、どうしますか?」
「もちろんやりたいけど、マキは?」
「私は構わないです。それ以外に選択肢もないし、このまま森に入るのも怖いですし」
「それもそうだね。なら、このクエストの通りにしようか」
二人は本の指示通り必要SPを使い切った。すると、体の底から力が湧いてくるような感じがすると共に、体も心なしか軽くなった気がした。経験値を得てレベルが上がったのだった。本の2ページ目のステータス表記が変わっていた。
―――――――――――――
ナギ
レベル:1.up↑(10/20)
SP:4
体力:22
魔力:11
武力:33
知力:11
スキル:『身体強化Ⅰ』『剣術Ⅰ』
魔法:なし
加護:『武術の天賦』
称号:なし
マキ
レベル:1.up↑(10/20)
SP:3
体力:11
魔力:22
武力:11
知力:33
スキル:なし
魔法:『プチヒール』『プチキュア』
加護:『魔術の天賦』
称号:なし
――――――――――――――
ステータスが更新されていることを確かめてから、ナギは剣を振ってみる。すると先程よりも手に剣が馴染むのを感じた。
「すごい。このステータスは信じて良さそうみたいね」
「そうだね。それじゃあ、武神の宝玉を取りに行こうか」
二人は森へと足を踏み入れた。エルーニャ草原から東の森の中はうっそうと茂る木々で昼なのに薄暗く、少し肌寒い。足下には膝までの高さがある草が一面生い茂っており、大きな石や木など足場の悪い場所もあった。
そんな森の中をナギとマキは辺りを警戒しながら奥深くへと進んでいった。そしてある程度進んだときだった。二人の持つ本が突然輝き始めたのだった。
二人は立ち止まって本の最新ページを確認する。すると、そこには武神の宝玉のクエストに加えて、新たなクエストが現れていた。
――――――――――――――
クエスト:武神の宝玉を手に入れろ
達成条件:武神の宝玉を手に入れる
報酬:経験値5000P、指南書
クエスト:薬草採取
達成条件:森にある薬草、クルツ草を採取する
報酬:経験値30p、アイテムボックス
クエスト:モンスターハント
達成条件:魔物を1体討伐する
報酬:経験値50P、ダガーナイフ×2
――――――――――――――
※作者より
『神と旅する異世界クエスト』第一話をお読みくださりありがとうございます。
フォロー、ハートマークやレビュー★を貰えると、とても更新の励みになります。これからも更新頑張りますので、『神と旅する異世界クエスト』の応援よろしくお願いいたします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます