ふたりでなら。

小悪魔はく

ふたりでならどこまでも。

かぎ、ちゃんとめときなよ」


つぶれたわたしみみもとでもとカレのこえがした。毛布もうふけるとき、もとカレのシャンプーのにおいがした。使つかれていたはずの、もとカレのいえのシャンプー。今日きょうは、もとカレと1ねんぶりに再会さいかいした。大学だいがく友達ともだちばれたかいで、いざ、みせはいると、そこにはもとカレの姿すがたもあった。


かみびたね」

「そっちこそ、前髪長まえがみながすぎね」


もとカレは相変あいかわらずさくだった。


「はい、これ」


手洗てあらいに途中とちゅうもとカレにくすりわたされた。


んどきな」


それは、わたし愛用あいようしている胃薬いぐすりだった。


「ありがと」


なかよわわたしのために、いつももとカレは胃薬いぐすりあるいていた。


「ちゃんと、あしもとあるきなよ」

「うん、ありがと」


トイレのかがみうつわたしくちもとは、あのころみたいにほころんでいた。わたしはそのあと、3杯目はいめのコークハイをして、記憶きおくぶほどにつぶれてしまった。つぎにおぼえているのは、もとカレのかたにもたれて見上みあげた、街灯がいとうあかりだった。


「ほんと、ごめんね」

あやまるくらいなら、ちゃんと自分じぶんあしあるいて」


もとカレのくびからは、香水こうすいにおいがした。


おれほうこそ、ごめんね」

「え、なんで?」

「いや、介抱かいほうされるの、おれじゃないほうがよかったかなあって」


わたしは、もとカレの横顔よこがお見上みあげてった。


「ううん、よかったよ」


って。そのままもとカレは、わたしいえまでおくってくれて、部屋へやかぎけた。

もとカレは、わたしをソファにかせて、毛布もうふけてくれた。


かぎ、ちゃんとめときなよ」


わたしみみもとで、もとカレのやさしいこえがした。


合鍵あいかぎは?」

「ああ、ごめん、せてなかったね、でも、もうてちゃった」


わたしは、1年越ねんごしにいた。もとカレは、背中せなかけながらった。


「ちゃんとかぎは、えといたほうがいいよ」


もとカレは、こえひくくしてった。


「え、どうして?」

わかれたおとこが、合鍵使あいかぎつかって侵入しんにゅうしたりするから」

「え、こわ」

未練みれんってやつは、やっぱり綺麗きれいなものじゃないね」


もとカレは、わらいながらった。


いま彼氏かれしにもさ、合鍵渡あいかぎわたしてるんでしょ?」


もとカレは、洗面台せんめんだいけながらった。


「ううん、わたしてないよ」


わたしは、うそをついた。わたし彼氏かれしはいなかった。わたしなかにある未練みれんを、さとられたくなかった。


「それじゃあ、かえるね」


もとカレが玄関げんかんかってあるす。わたし身体からだこし、


「ありがとう」


って、こえげた。玄関げんかんからは、とびらまるおとだけがこえた。わたしは、テーブルのうえけた。そこには、かぎかれていた。そういえばさっき、わたし部屋へやけるとき、もとカレがかぎけた。そう。もとカレはまだ、合鍵あいかぎっていた。


未練みれんってやつは、やっぱり綺麗きれいなものじゃないね』


もとカレにはまだ、未練みれんがあった。わたしは、ソファからがって、洗面台せんめんだいかおあらった。蛇口じゃぐちのそばには、ずっとてることができなかったブラシが2ほん、コップのなかっていた。わたしはずっと、もとカレのかえりをっていた。わたしは、裸足はだしのままいえした


って」


階段かいだんりてもとカレを、めた。


わたし彼氏かれしいないよ、つよがっちゃった、ほんとはまた、かえってきてほしい」


わたしは、かえもとカレに、合鍵あいかぎした。もとカレは、りてしまった階段かいだんを、じっとつめて


「また、もどれるかな」


ってつぶやいた。わたしは、階段かいだんを1段降だんおりりて


「ふたりでなら、もどれるよ」


って、かれにぎった。うなずいたかれは、なみだれていた。


「よしっ、部屋へやにアイスあるから、一緒いっしょもどってべよう」

「ちょっとって」


かれわたし手首てくびつかんだ。


裸足はだしじゃ、あぶないから」


かれは、わたしけた。


「はい、って」

「え、いやだよ」

「いいから。ほら。ふたりでまえすすむんでしょ?」

「そうはったけどさあ」


わたしは、仕方しかたなくかれ背中せなかった。かれくびからは、香水こうすいにおいがした。

それは、わたし誕生日たんじょうびにあげた香水こうすいにおいだった_

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ふたりでなら。 小悪魔はく @kanzakiior

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