第19話 東北内陸紀行

 福島県の、とある道の駅で、昼食休憩を過ごした彼女たち。


 目指す先である、松尾銅山まではまだまだ300キロ以上の距離があった。


 国道121号をひた走り、山を越えて、「山形県」の道路標識を見る。

 都市部を避けて、県道と国道を経由し、国道287号に入る。


 バイクでのロングツーリングで困る物。実はそれは「トイレ」だった。

 あまりにも田舎に行きすぎると、コンビニすらなく、そういう時に限ってトイレに行きたくなることが結構ある。


 尿意を催した美希たちは、途中、何とか見つけたコンビニでトイレ休憩を挟みつつ、さらに北上。


 南北に長い山形県を走破し、やがて「秋田県」の道路標識を見る。

 さすがにその頃になると、日が傾いてくるし、体力的にも精神的にもヘロヘロに疲れてくる。


 何しろ、グロムにしても、セローにしても、元々あまり長距離を走るようには出来ていない。


 おまけに、セローはともかく、グロムでは高速道路も走れない。


 菜々子は、先輩と言っても、学校が違う二人に合わせて、下道を走ってくれたが、さすがに疲労の色が見え始めていた。


 道はいつの間にか、国道13号に入っている。これは福島市から秋田市に至る、一般国道だ。


 3人にとって、疲労はあるが、幸いだったのは、交通量が少ないことだ。

 東北地方は、その広大さと、人口密度の低さから、関東地方や近畿地方に比べて、圧倒的に交通量が少ない。


 なので、少し田舎に行くと、ひたすら快適なワインディングロードが続き、前後に車が全くいない時など、バイク乗りは、調子に乗ってスピードを出したくなる。


 そんな里山の風景を見ながら、ひたすら走り続け、福島県の道の駅から、およそ315キロ、時間にして7時間近くかかって、夕方というより、すっかり日が暮れた午後6時半過ぎ。


 ようやく、盛岡市街地に入った。


 盛岡市は、岩手県の県庁所在地にして、人口が約28万人。

 岩手県の政治、経済、交通の中心都市とも言える。


 この盛岡市のはずれ、東北新幹線の線路に近いところに、その日の宿があった。


 ようやくその、古い健康ランドのような建物に到着した3人。


 バイクを降りて、タオルを用意し、建物に入り、受付を済ませ、倒れ込むようにして、風呂に入った。


「いやあ、さすがに疲れましたねえ」

 と言いつつ、湯船に肩まで浸かった菜々子は、笑顔だった。


「本当だね。お尻痛くなって、足もパンパンだよ」

 美希が呟く。


「まあ、さすがに群馬からじゃ遠いな」

 万里香も頷く。


 その日は、さっぱりと風呂に入り、食事を摂ったら、みんな死んだように眠っていた。


 次の日のことは、次の日に考える。


 まさに、「バイク乗り」らしい、行き当たりばったりのスタイルだった。


 翌日。

 天気はあいにくの曇り空。

 

 しかも、天気予報では、午後から「雨」予報だった。


 彼女たちは、早めに行動を起こすことにする。


 目指す、松尾銅山までは、バイクで約1時間、40キロ前後という距離だった。


 それは、冬季は閉鎖される、観光道路、八幡平はちまんたいアスピーテラインに続く道の途中にあった。

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