第13話 時が止まった町
双葉駅。
常磐線の駅で、水戸から仙台までを繋ぐ重要なルートでもあるが。
ここの駅前は、完全に「廃墟」が並ぶ街並みとなっており、美希はもちろん、初めて来る万里香も、菜々子も衝撃を受けていた。
駅こそ生きているが、それ以外の商店街や、住宅街の街並み自体が地震で「崩れていた」り、明らかに「放置された」状態のまま、そこに無残な姿を晒していた。
もはやここだけが「この世の終わり」のような様相を呈しており、ある意味、博物館のような「生きた廃墟」になっていると言ってもいい。
かつて人が住んで、営んでいたその小さな町。
もちろん、今でも人は住んでいるが、そこに住んでいたはずの「幾人もの」希望が、「絶望」に変えられた姿と言っていい。
どんな町であっても、必ずそこに産まれ、育ち、「故郷」と思い、愛する人がいる。
だが、ここだけは日本の他のどんな町よりも「かわいそう」に見えるほど、衰退していた。
もちろん、人口減少、過疎により寂れた地域は多いし、一極集中による弊害で、日本中の「地方」はどこも衰退の一途をたどっている。
だが、それはまだ「自然」の流れの一部という物があったが、ここは違う。
「福島第一原発」の「事故」により、そもそも「住めなくなった」か、「住めるが、故郷を捨てた」人が多いのだ。
万里香も、菜々子も、美希も、しばらく立ち尽くし、その衝撃的な風景を眺め、やがて各々が無言で、写真を収め始めていた。
傾いたまま放置された家、人がいなくなって雑草がぼうぼうの庭を持つ家、野良犬が勝手に入っている家。そこには「人の息遣い」が感じられない。
その衝撃的すぎる光景を前に、人は皆、「考えさせられる」のだ。
やがて、そこから立ち去り、隣の
その日の宿は、この浪江町だった。
そこで、晩飯を食べ、宿に入り、宿のオーナーと会話をすることになったが、宿のオーナーは、彼女たちが、群馬県や栃木県からはるばるバイクで来たことに、驚いていた。
しかし、悲しそうに、
「近くに震災遺構の小学校とか、地震の博物館があるから、明日行ってみては?」
と提案してくれるのだった。
宿の部屋に入った彼女たち。
幸い、客は少なく、大部屋とも言える、4人部屋が空いていたので、そこに投宿することになった、彼女たち。
さすがに各々、衝撃的すぎる光景に、意見を口にした。
「まさかここまでとは」
とは、山田万里香の弁。廃墟好きな彼女を持ってしても、この光景は衝撃的だったらしい。
「そうですね。軽々しく『廃墟巡りだ』って、喜べないですね」
高橋菜々子もまた、沈痛な面持ちを浮かべる。いつも明るい彼女にしては、暗い表情だった。
そして、
「まさに人為的に『時が止まった町』だね」
田中美希もまた、見たこともない光景に、そんな陳腐な言葉しか出てこなかった。
「まあ、結局のところ、『絶対に安全だ』と言い張ってた、原発が悪い」
「想定外の津波でしたからね」
「それとこれとは話が別。そもそも国が悪い」
女子高生らしからぬ、福島第一原発についての、批判が展開され、その時の情報をインターネットから検索する彼女たち。
彼女たちが、まだ生まれて間もない3、4歳の頃。
この東北地方の太平洋側を襲った、
ここは他の廃墟とは違い、明確に「人の手によって」作り出された廃墟と言える。
翌日、彼女たちは、宿のオーナーに教わった、近くにある震災遺構の小学校に行ってみた。
そこは確かに「震災遺構」の名に相応しい場所で、津波に呑まれ、あらゆる物が破壊された無残な校舎が広がっていた。
その後に行った、東日本大震災・原子力災害伝承館は、震災直後に、「原発で何が起こったか」を映像を通して確認できる、貴重な場所だった。
見ているうちに、被災者のインタビューなどがあり、自然に涙が出ていた美希。
廃墟とは、そこに「あった物」が衰退した物だが、ここ浜通りの廃墟だけは、かつて旧ソ連のチェルノブイリ原発事故と同じように、「人為的に」作り出され、言わば「放逐された」形で出来た物だった。
それぞれ、感慨深い思いを抱えながら、ゆっくりと帰路に着いた。
帰り道、宇都宮市街まで一緒に帰り、そこで菜々子と再会を約して、別れた彼女たちは、また数時間かけて、高崎へと戻るのだった。
(深い。そして、悲しいな)
美希は、初めて見る、福島県の廃墟を見て、涙が出るような悲しさを感じるのだった。
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