第11話 筋金入りの廃墟好き
結局、その後、この鬼怒川に点在する廃墟のホテル群を巡り、写真を撮りながら、美希と万里香は、高橋菜々子に付き合わされていたが。
意外なことに、「人付き合いが苦手」そうに見える、万里香がこの菜々子と想像以上に「意気投合」していた。
2人の話は、様々な廃墟の話に飛躍し、いちいち万里香が頷き、感想を言い、さらにお互いのバイクの話に飛躍する。
どうやら、彼女が乗っているバイクは「ヤマハ セロー250 ファイナルディシジョン」らしい。
セローというのは、軽いし、取り回しもいいし、オフロードも難なく進めるので、僻地にあることが多い廃墟を巡るには最適だ、と菜々子は力説しており、終いには万里香にセローを勧めていた。
バイク乗り同士、そして廃墟好き同士、ある意味、美希よりも万里香はこの初対面の菜々子に共感しているのかもしれない。
そう考えると、美希は何だか悔しく思うのだった。
同時に、菜々子が高校1年生だとわかった。つまり、16歳で普通二輪免許を取れるのなら、彼女の誕生日は4月から7月の間。
高校に入ってすぐに免許を取るということは、筋金入りの「バイク好き」だろうと予想できた。
だが、2人の会話を聞いていると、美希には彼女、菜々子は「バイク好き」以上に、「廃墟好き」だとわかった。
一見、とても社交的で友達が多そうな性格に見える割には、彼女は一人でバイクで様々な廃墟を巡るのが好きだそうだ。
「菜々子ちゃんだっけ。それで、今までどんな廃墟に行ったの?」
ずっと2人で話が盛り上がっているのが何だか癪な気分になっていた、美希が尋ねる。
「えーと。そうですね。色々行きましたよ」
その内訳を詳しく聞いてみると、廃墟になった小学校から、ホテル、すごいのになると「廃病院」まで行ったらしい。
「いや、廃病院って、怖くない? ホラーじゃん」
と、さすがに引いていた美希が表情を曇らせるも、彼女はあっけらかんとしていた。
「そんなことないですよー。昔はここも栄えていたんだろうーな、って考えると
「いや、もののあわれって……」
美希には、苦笑するしかなく、全くわからない感情でもあった。
さらに、万里香と廃墟話で盛り上がる菜々子は、鬼怒川の廃ホテル群を一通り回った後、自らのバイク、セローに乗る前、思いきったことを言い出した。
「そうそう、山田さん。私、今度、福島県の廃墟に行くんですけど、ご一緒にどうですか?」
と。
(え、福島県? 群馬県だったのが、栃木県になり、さらに福島県。どんどん遠くなる)
美希は、自らが望んだこととはいえ、この「廃墟巡り」がどんどん距離が伸びていくことに不安を感じていた。
「いいよ」
しかも予想通りというべきか、万里香は何の躊躇もなく、あっさり頷いていた。
「福島県はちょっと遠いなあ。一泊しないと無理じゃない?」
と、さすがに尻ごみして、気が弱くなっている美希が発言すると、
「じゃあ、田中さんは不参加で。私は別にキャンプしてでも行くし」
と山田万里香からあっさり否定的なことを言われたので、慌てて、
「わかった。行くよ」
と勢いで言ってしまい、言った後に後悔していた。
「じゃあ、連絡先を教えて下さい。来週あたりに計画して行きます」
「いいけど、どこに行くの?」
「そりゃもちろん、国道6号線添いです。福島第一原発によって、帰宅困難地域になったところですね。あそこは廃墟の宝庫ですから」
喜び勇んで笑顔を見せる菜々子に、美希はさすがに「不謹慎だ」と感じていた。
「了解」
「ではでは。また会いましょう~」
菜々子は万里香、美希と連絡先を交換し、あっさりと、セローにまたがり、去って行ってしまう。
残された万里香と美希は、バイクを置いた鬼怒川公園駅まで歩いて戻ることになる。
その途上、
「福島第一原発の廃墟は、ちょっと不謹慎じゃない?」
美希は、思っていたことをそのまま彼女にぶつけていた。不満な気持ちが現れていた。
だが、万里香の感想は違っていた。
「別に不謹慎じゃない」
と。
「どうして?」
「私たちは、別に廃墟の中を見て、荒らそうとは考えていない。ただ、自然の流れとして、かつて栄えた廃墟をこの目で見て、写真に残したいだけ。廃墟を否定する気持ちも、冒涜する気持ちもない。立ち入り禁止区域には絶対に入らないし」
それが、彼女なりの「哲学」であり、「ルール」らしかった。
確かに一理はあると、美希は思った。
廃墟巡りをする連中の中には、面白半分で、勝手に立ち入り禁止の廃墟の中に入ったり、ひどいのになると放火したりするらしいが、それは明らかに犯罪行為だ。
その辺りの「最低限守るべきルール」を彼女は常識として持っていることに、美希は安堵した。
ただし、
「わかった。くれぐれも気を付けてね」
と付け加えると、彼女は、
「それは田中さんも一緒。それに廃墟に行くのに、そんな靴ではダメ」
と逆に足元を見られて指摘されていた。
その時、田中美希が履いていたのは、かかとがあるとはいえ、いわゆるクロックス、サンダルに近い物だったからだ。
単に「歩きやすい」という理由で選んだ美希に対し、万里香は、力説した。
「廃墟は瓦礫が多いし、歩きにくいから、きちんとしたスニーカーの方がいい」
と。
「わかったよ」
一応、美希も自らの行動を反省することになる。
そもそもサンダル形式ではバイクに乗りにくいのもあったが、今回ばかりはあまりにも暑かったので、サンダルで来ていたのだ。
こうして、急きょ、彼女たちの「福島行き」が決定してしまう。
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