18:偽聖女のフリをしていましたが、これは地毛の色です!
「アリアンナ・ヘインズ! 貴様との婚約を破棄する!」
「そうですか」
学園のサマーパーティーの会場で、マンレイ・プレスコット第二王子から突然婚約を破棄された。隣では義妹のキャサリンが勝ち誇った笑みを浮かべる。
会場で談笑していた着飾った貴族子女が静かになり、私たちに注目した。聞こえるのは楽団が演奏するワルツと、小さな囁き。
「理由を知りたいだろう!??」
「いえ別に」
私の簡素な返答に慌てて、マンレイ王子が指をさして叫ぶ。隣に浮気相手がいるのに、理由も何もそちらの浮気でしょ。
「貴様は偽聖女で、俺や父である国王陛下も騙したのだ! 婚約破棄だけでは済まないぞ!」
殿下の言葉に、いったん静かになった会場がざわついた。
聖女とは強い癒やしの力を持つ乙女で、聖女を排出した家には国から特別手当が出される。偽ったとあれば、横領や虚偽報告、色々な罪が一気に押し寄せるのだ。
「捕えろ!」
殿下の命令で、彼の側近たちが戸惑いつつも私を囲んで肩を押さえた。
「失礼、命令ですので。動かないで頂けますか?」
「……はい」
静かに立ち尽くす私に殿下が大股で近付き、髪を掴んだ。そして力任せに引っ張る。
長い黒髪のカツラが外れ、代わりに現れたのは赤茶色のくせっ毛。見ていた生徒が悲鳴に似た声を上げる。
「きゃああ! 黒髪が……」
「聖女じゃないのか、まさか!??」
誰が喋っているのか分からないくらい、大勢が一気に叫ぶ。楽団の音楽は掻き消されて、もう聞こえない。
この国で黒髪は聖女の証。黒髪のカツラを作ることさえ許されないのだ。
「見ろっ! これが証拠だ!」
「……ヘインズ伯爵令嬢、まさか不正をされていたとは……!」
肩を押さえていた側近が驚愕に目を見開いた。
きっと義妹の密告ね。黒髪はカツラは、義母と父が私につけさせたのだ。
パーティーは中止になり、私はパーティー会場となった学園の一室に軟禁された。取り調べは次の日から始まる。
私は幼い頃に母を亡くしている。
その後に父と再婚した義母が、回復魔法ができる私を聖女に仕立て上げようと、父を
父もとんでもない女と再婚したものだわ。
次の日、取り調べに対して今までの経緯を素直に話した。
しかし取り調べが終わってからやってきた殿下の側近の言葉は、私を落胆させるものだった。
「……アリアンナ・ヘインズ伯爵令嬢。伯爵家に問い合わせたところ、家族もカツラの件は知らなかったと返答があった。伯爵家と貴女の証言に、大きな食い違いがあるようだ」
切り捨てられたわ。ただ、考えてもらいたい。違法だとわかって黒髪のカツラを作るような人物を、子供だった私が探せるわけもない。なんなら今でもそんな心当たりはない。
「殿下は国外追放に処すと仰せだ。そもそも殿下には追放処分をする権限がない」
側近の彼も、殿下の横暴に頭を抱えているらしい。
「……お金を引っ張れないとなったら、伯爵家も私と縁を切るでしょう。追放されなくても、国外に出ますよ」
「……ありがたいと言いたいが、貴女の回復魔法の才能は本当に惜しい。黒髪でなくとも、実績を重ねれば聖女認定されるだろうに……!」
目の前で悔しそうにされてもなあ。
「どうでもいいです。国外に出るのにどんな準備がいるかしら……。あ、荷物を取りたいけど伯爵家に入れてもらえないかも……」
きっと伯爵家は罰金や、聖女の家として免税されていた分の追徴課税とか、かなりの金額を払わされるでしょうね。何も持たせてもらえなそう。
「……家人の様子からして、その可能性は高いな。僕が調査のフリをして貴女の部屋へ入らせてもらい、メイドから着替えや金品を用意してもらうよ」
「ありがとうございます!」
確かグレイソン・エージャー男爵令息だっけ。マンレイ殿下にいいように使われているのよね。彼の好意で馬車も用意してもらい、私は日が暮れてから人目を避けてこっそりと隣国へ向けて旅立った。
馬車の向かいの席には、何故かグレイソンも座っている。
「……国境まではついていくよ。一人では危険だ」
「別にいいのに」
「日が暮れたせいか、君の髪が本当に黒く見えるな」
「……そうですか? ヘンね……。あ! もしかしてこの馬車、魔力を遮断するようになってます!??」
「当然だろう、一応罪人だぞ君は」
……罪人が乗る馬車は魔法が一切使えないようにされるんだったわ!
ってことは、魔法で赤茶色にした私の髪が、黒くなっている……! フードを外したらマズいわね。
そう、私は元々黒髪だったのだ。しかし母が誰かに利用されないようにと魔法で髪の色を変えさせ、そこに継母が黒髪のカツラを被せるようになったのだ!
聖女だとバレないようにして、偽聖女に仕立て上げられた。なんだか複雑だったわね。
……暗いから闇のせいだと思われているけど、朝になったらバレるわね!
あ~、どうしようかなぁ。
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